「歳出の無駄」の研究 | 読書雑記

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「歳出の無駄」の研究/井堀 利宏
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 日本の危機的な財政状況を立て直すための議論に、政府の歳出に無駄が多い以上、まず増税よりも歳出の無駄をなくす方が先決だという考え方がある。


 しかし、本書は、こうした‘もっともらしい’正論の陥る落とし穴として、歳出の無駄の規模は意外に大きくないこと、無駄の中にも国民の痛みを伴う無駄や結果としてやむを得ず生じる無駄もありそれらを根絶することは非常に困難であることを挙げている。そして、もし節約できる金額がごく僅かであるか、あるいは完全に節約することが非現実的であるなら、「無駄をなくすことを増税より優先すべき」と唱えることは、実質的に増税を先送りする口実でしかないと批判している。


 本文では、無駄の概念を整理した上で、特別会計、人件費、公共事業、補助金などの歳出別に無駄の規模を見積もり、中には許容すべき無駄もあることを指摘して、政府の財政状況に照らすと増税なき財政再建は不可能であると主張してる。


 確かに、多くの政治家やマスコミが政府の無駄を批判するときは、感情的でしかも部分的であり、無駄の削減が総体としてどの程度財政再建に貢献するのかという議論が具体的な数字で示されることは少ないような気がする。著者の無駄の算出も、仮定の話が多かったり根拠のデータが本の中では示されていなかったりと、大まかな試算になっているが、無駄の削減だけでは財政再建が難しいことが十分にイメージできる。


 著者は、財政学、公共経済学を専門としている東京大学大学院経済研究科の井堀利宏教授である。個人間、世代間、地域間における再分配政策の理論的研究を目下の研究課題とし、本文中でも無駄な歳出の実例として、生活保護、年金、地方交付税等の再分配政策が随所に取り上げられている。


 前著「『小さな政府』の落とし穴」 においても、財政再建のための増税を先送りする主張として、「小さな政府論」や「成長戦略」を批判し、「受益と負担のリンク」の重要性を説いている。本書はその続編というべき著作で、今回は、無駄の根絶に傾斜し増税を先送りしようとする議論の危うさを指摘し、財政再建を実現するための歳出の無駄のとらえ方を示している。