進化しすぎた脳 | 読書雑記

読書雑記

読書日記。

ほとんど自分のためのものです。

進化しすぎた脳 (ブル-バックス)/池谷 裕二

¥1,050

Amazon.co.jp

 ニューヨークの高校生を相手に行った脳科学に関する講義の記録である。著者は、現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授、専門は、神経薬理学、光生理学で、「脳の可塑性」のメカニズムを探求する若手の研究者である。


 「高校生レベルの知識層に説明して伝えることができなければ、その人は科学を理解しているとは言えない」という物理学者ファインマンの言葉を念頭に、大脳生理学の基礎と最新の知見を織り交ぜながら講義が進められる。


 表題の「進化しすぎた脳」というのは、人間は脳のポテンシャルを十分に発揮させておらず、「宝の持ち腐れ」になっているという意味である。著者は、「コンピュータと人間の違い」は、そのハードウェア、つまりは「体」にあるとする。コンピュータは、キーボードやマウスを取ってしまってもその実体は何も変わらない。でも、動物の脳は「体」によって規定されている。それを証拠に、イルカの脳は人間以上のポテンシャルを秘めているのに、人間のような指や声帯を持っていないために脳を十分に使いきれていない。それは、人間にしても言えることで、たまたま指が10本しかない<人間の体>という性能の悪い乗り物に、脳は残念ながら乗ってしまったと解釈できるとしている。普通我々は脳が体を支配しているように思い描いているのに対して、脳の機能は脳が決めているのではなくて体が決めているというのは意外な視点であった。


 また、人間はいかに無意識に支配されているかもよくわかった。当然に自由意志と思っていた行為までもが実は潜在意識の働きであったという例なども示されている。


 他にも、人間の記憶が曖昧であることの意味や、細胞レベルにおける曖昧さのメカニズム、アルツハイマー病の原因等、刺激的な内容に満ちている。理解を助けるための話題選びが上手く、大変わかりやすい。それでいて、「ネイチャー」や「サイエンス」等の記事を紹介しながら、研究の最前線についても触れられている。


 人間の脳のしくみを知ることは、人間を人間たらしめているものは何かを知ること、 自分についてもより深く知ることにつながる。また、脳のしくみを知れば、記憶力や頭の働きを良くする方法がわかるかも知れない、というちょっと打算的な思いも加わって大変興味深い分野である。

 本書は、そういった知的好奇心を十分に満たし、さらなる興味をかきたててくれる。