重力ピエロ | 読書雑記

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重力ピエロ (新潮文庫)/伊坂 幸太郎
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 物語の展開、ユーモアのセンス、多彩な引用、サイエンスの知識、等々、楽しさ満載の小説である。


 主人公の弟は、母親が強姦されて生まれた子供という、かなり重たい設定になっている。にもかかわらず、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」という弟のセリフのように、物語全体が暗いイメージ一色になっているわけではない。主人公と弟と父親(弟にとっては育ての親)の三人の会話も軽妙で笑ってしまう。かといって、これまたふざけている感じがするのではなく、そのあたりの頃合が絶妙だと思う。


 文庫版の解説で、北上次郎氏も「この手の小説に、ストレートな感情表現は似合わない」と言っているが、長々とした心理・情景描写がほとんどなく、淡々とした文章がとてもいい。

 

 登場人物の中では、やはり父親がすごい。自分の妻が強姦されて生まれてきた子供をあそこまで愛せるのか。

 「染色体であるとか、遺伝子であるとか、血の繋がりであるとか、そういったものを、父は軽々と飛び越えてしまった。」

 軽々ではないと思うけれど、ここには、厳格でありながらもユーモアを絶やさない強い父親が出てくる。物語の終わりの父親のセリフはかなり泣けてくる。


 弟は、自らの出生に思い悩むなかで、遺伝学や人類の起源に興味を持っているが、金城一紀の「GO」で、コリアン・ジャパニースの主人公が同じように遺伝や人類の起源について勉強していたのに通じるものがある。自分のアイデンティティ、哲学、思想、人生観を形成する上で、サイエンスの分野から考えてみるという視点はなかなか共感できる。


 同世代の著者の作品を読むと時代感覚が共有できるのも楽しい。他の作品も追々読んでみようと思う。