パーマそしてスカート
← H23.9.13 満月とても簡単なことなんだ世界を変えることもこだわりを捨てることももういらないものを、手放すことも* * *美容室の椅子に座ると、鏡だらけだ。両隣の人も、その隣の人も、背中あわせの人も、後ろのそのまた隣の人も、一目で見渡すことができる。長い髪がバッサリと短くなっていたり、グリグリにロッドを巻かれていたり、雑誌から目をあげるたびに、それぞれの途中経過が、目に入ってくる。読んでいる雑誌もさまざま。最終仕上げのスタイリングをする手つきを真剣に見ている顔や、うれしそうに髪をゆらす弾むような笑顔が、鏡越しに見える。(別人みたい!)人はみんな、大変身に見える。ものすごくフツーのおばちゃんが、雑誌のモデルみたいになっている。(なんて注文したんやろ? 教えてほしい!)いっつもそう思う。人は、みんなステキになる。でも、自分は…… イケてない。まったくイケてない。美容室に行って、(ああ、こんなにかわいくなれて、よかったー)などと思ったことは一度もない!特に代わり映えしないか、失敗だと思うかのどちらかだ。どうしてなんだろう? 美容師さんは、うれしそうに鏡をもってくるけれど、内心は、(しまった…)と思っているのではないだろうか? わたしの顔が、あかぬけないのだろうなあ。できたてのホヤホヤの髪型を前にして、(一刻も早く帰りたい!)と、いつも思う。そんなに丁寧に乾かしてもらわなくていいですから と言いたいのをこらえて、さらにムースやらワックスやらを駆使して、前衛的(笑)にスタイリングされた借り物のかつらみたいなスタイル(そんなの自宅で再現できませんって!)を、早く崩したくて、そわそわする。さすがに、椅子に座っている間は、美容師さんに悪いので、ガマンするけれど、店を一歩出たとたん、両手でおさえて、いつもどおりの分け目に戻し、うっとおしいサイドの髪を耳にかけて、ホっとする。はー。美容室からの帰りは、挙動不審。窓でもドアでも、「映る」ものがあれば、自分の姿を確かめずにはいられない。見慣れない髪型に、なにかどこか、少しでも新しくなったところ、気にいったところをみつけて、なんとか満足をさがす。でも、こんどばかりは、どうにもできなかった。「おまかせします」と言ってしまったのが、マチガイだったのだ。できあがった髪を見て、(これは……)久々に泣きたくなったなあ。* * *あまりにヘンすぎると、人は、「かわいい」と言うしかないのだろう。カピバラだって、コツメカワウソだって、マナテイだって、ミニブタだって、「かわいい」のだ。パーマをかけて三日間ほどの間に、私のまわりでは三百回くらい(やや大げさ)、「かわいい」が連呼された。「浜田さん、かわいいー! かわいいかわいいかわいい!」「……」「パーマかけたんですかー? かわいいかわいい!」「…ほんまですか~? え~ かわいいですか~? そうかなあ~。へんじゃないですか~? かわいいかなあ~(もぞもぞ)」「かわいいかわいいかわいい!」と、こんな感じで、ざっと数えて十一回。わたしの所属する課は女の人が多く、若いバイトさんたちも多い。同じフロアにある三つの課も、女性が多い。知り合いも多い。出歩くたびに呼び止められた。机のまわりで二人。給湯室で二人。トイレで二人。コピー機のところで二人。課内の通路で三人… あちこちで、「かわいい」11回×11人=121回。(仕事しろ!)廊下に出ても、初めて私を見る人は、「パーマかけたん?? かわいいー」二、三日は、初めて出会う人に会うたびに「かわいい」の洗礼を受けていたので、三百回くらい聞いたことになる。すごーい。(仕事しろ!)この年になって、こんなに「かわいい」と言ってもらえるなんて。(仕事しろ!)パーマをかけただけで! ちなみに、ぜんぜん、かわいくないですよ(笑)* * *パーマをかけると、トップがふくらんで、パンツが似合わなくなった。本当に似合わなくなった。で、スカートをはくことにした。「おかあさんが、スカートはいてる! かわいいー」パーマは三日間気がつかなかったけど、スカートの反応は、誰より速かったコツメ。わたしのスカート姿を見たことがないのだ。保育園の卒園式も小学校の入学式もパンツスーツだった。「おかあさんが、スカートはいてる!」うれしそうなコツメ。職場でも、パーマをかけたとき以上に、スカートで出勤したときのほうが、反響はすごかった。「浜田さんがスカートはいてる!」「四年間、いっしょの課だったけど、初めて見た!」「写メする! 携帯とってくるから、そこで待ってて!」「今日、携帯忘れた… 明日もスカートはいてきてくれる?」「浜田さんがスカートはいてるって聞いたから、見に来た」パンダが三つ子を産んだみたいな大騒ぎ。お人形みたいにかわいいバイトさんが、窓口のところに二人で並んでいるのだけど、「浜田さん、かわいいーっ めっちゃかわいい! わたしたち、気づいてくれないかなー と思って、受付のところからガン見してたんですけど、ぜんぜん、こっち見てくれませんでした!」といって、二人そろって、両手を双眼鏡みたいに目にあてて、すねるので、もう何が起こっているのかわからない(笑)(ガン見?)「ガン見」ってなんだろう? そんな言葉、使われたこともないし、使ったこともない。私の世代だと、「ガン」と言えば、「ガンをつける」「ガンをとばす」でもまさか、かわいいバイトさんたちが、わたしにメンチ切るわけないし。…家にかえってから、ネットで調べた。(へぇ~ 「ガンガン見る」ということなんか~)* * *パーマをかけただけで。スカートをはいただけで。あんなにたくさんの人から、かわいいと言ってもらえるなんて、思わなかった。ほんとうに、びっくりした。とても簡単なことなんだ。世界を変えることも。こだわりを捨てることも。もういらないものを、手放すことも。十三年ぶりにスカートで出勤している。スカートって、とても自由。とても素敵。浜田えみな