青空のゆくえ  ← クリックで拡大


たかが言葉じゃないか
せいぜい十音未満の
たかが音じゃないか


*      *      *


私たちのからだをとりまくオーラが見える人がいるという。言葉の色も見えたらいいのに。


たかが言葉じゃないか。
せいぜい十音未満の。
たかが音じゃないか。


たかが音に、私たちは、いくつものネガティブなものを引きよせて、背負わなくていいものを背負い、つぶれそうに傷ついている。

伝えたいことを伝えきれないことにも、受けとってほしいものを受けとってもらえないことにも、もはや慣れっこになっていて、あきらめているのに、あがいている。


たかが言葉だ。言葉なんかに傷つくな。


たくさんの不要な妄想が、音をとりまき、意味以上の感情をふくらませ、手をつなぎあって、正しさを隠してしまっているだけ。
ひとつひとつを分離してみると、まったく別の感情だったり、関係のない思いこみにすぎないということがわかる。自分に向けられた刃などではないことも。


ただのダストシュートのときだってある。だれにも向かわない、ゴミ箱行の直通特急「ことば」号は、ホームの白線のうしろにさがって、ただ、やりすごしていればいい


色がついていればわかるのに。


多くを語らない言葉が、包括するものを、同時通訳するものがあればいいと思った。
「ありがとう」なんて言えないし、「感謝している」なんて言えないし、「ホントは頼りたいんだけど、素直になれない」なんて言えない場合や、「嬉しいんだけど甘えられない」気持ちが、目に見えればいいのに。


課題はすべて初めての試みだが、四コママンガを、捧げよう! と決めた。



青空のゆくえ


「都市部を中心に、日常会話の返答が全て「最悪」という言葉に置きかわってしまう現象が報告されています。原因・感染経路については不明で、現在、調査中です。
ご家族や身近なかたに、この症状が表れた場合は、あわてずに、お住まいの自治体の市民生活課「最悪窓口」へ、お問合せ下さい。簡易同時通訳機の貸出しを行っております。なお、多くの場合、「最悪」を「最高」の意味として、ご理解いただいて、全くさしつかえありません。ニュースを終わります。」



発せられた言葉が吸着している多くのエネルギーを、きちんと腑分けしていくと、不要なものが取り除かれ、かくれている本当の意味が現われてくる。
マンガでは、三つの場面を想定し、同時通訳機の画面に、実際の思いが浮かび上がっている構図を考えた。


「最悪」という、つぶやきを耳にして、
(どんな困ったことが起きたのだろう? 助けたい。力になりたい。何かできることがあるなら、してあげたい)
と思う人が、願うことはなんだろう? 祈ることはなんだろう?


その人の笑顔。 その人の元気。その人の前向きな力。問題から逃げない力。
自分が役にたつこと。必要とされること。 感謝のことば。 ねぎらいの言葉。


また、その言葉がもつ意味はなんだろう?


ゴミ箱行の直通特急の意味なんて、くしゃみをした人がいたら、即座に
「ブレス ユー」
というみたいに、災厄が降りかからないための、場面を切り替えるための、流れを変えるための、決まりモンク。おまじない。呪文。マントラ。

さしのべてくれた手を拒むのではなく、介入をシャットアウトするのではなく、「最悪」に向かうベクトルを、そこで終わりにして、「デン!」で、折り返すための掛け声じゃないのか?


そんなことすべてわかっているはずの人が、この言葉をスルーできないわけがどこにあるのか?

このさき、いつどこで、この言葉を聞いても、クスリと笑って、ハッピーになれるようなアート。


八割方できたと思っていたので、あとは仕上げるだけだと思って油断していたら、二~四コマ目を誰にすればよいかで、座礁してしまい、一コマで表現することにした。
色は、「ハッピーターン」のパッケージのカラーだ。


あなたを隔てる言葉じゃない
あなたを拒む言葉じゃない
ターンするための言葉です


浜田えみな