僕と生きる人生 NETFLIXオリジナルシリーズ LIVING WITH YOURSELF

○第8話

監督 ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス

☆☆☆☆☆

出/ポール・ラッド、アシュリング・ビー、ポール・ラッド

(アシュリング・ビーはアシュリン・ビー表記もありますが、allcinemaさんの表記に準拠しています)

https://www.netflix-nederland.nl/netflix-originals/living-with-yourself-2019/

上記HPより画像お借りしています。

 

「もー……ほんとね? ほんとーに、一緒に生きるのね? 絶対? 途中で嫌になってもお母さん知りませんよ。ほんとーのほんとーに、一緒に生きるんですね? 絶対だね? 絶対? よし、じゃあ約束」

 

 えー、今更なんですけれども。

 監督がジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスのコンビなんですね。『リトル・ミス・サンシャイン』で有名な。

 ところが多分、今作に起用されたのって『ルビー・スパークス』が理由な気がします。

 好きな映画ではないのでまったく思い出さなかったのですが、ふと気がつくと「ほぼ僕らが暮らす現実と変わらないのだけれど、ひとつだけ凄いファンタジー要素があって、基本はラブストーリー。そして物語はリアルに暗くなっていく」という骨子がほぼ同じなんですよ。

『ルビー・スパークス』に関しては、暗くなっていくというかポール・ダノがダーク過ぎて映画館で観た時に、「キモい」って発言してた人がいたぐらいです(しかも上映中に)。

 

 いやー、驚いた。

 最終回だった

予告編とかエピソードリストとかまったく確認せずに観続けていたので、まさかの8エピソードにて終了という。

シーズン2はあったら観るし、作らなくていいとも思う。凄く満足感のあるシリーズだったので。

 

 思えば、子供が出来ない事に端を発する物語りで、最後は子供が出来て終わる。

 授乳室が舞台の取り調べ場面というのは、スゲー強引なんだけど捜査官のキャラが面白かったから許せちゃうかなー(特に気の弱い男の捜査官が良かった)。

 質問内容も、「お前はどうしてお前なんだ」とか、『攻殻機動隊』っすか? みたいなのばっかりで凄く強引。でも端的にテーマを表しているからまあ、いいのかな。しかも資金がないから捜査打ち切りっていうのも強引。うーん、やっぱり良くない気もしてきた(このキャラクターは第2シーズンで活躍します! みたいな感じを受けるので)。

 でも授乳室での場面でとても良い描写もあるんです。マイルズが育児してもらえない赤ちゃんになる。喉が渇いたと大声をあげても誰も来ない。赤ん坊は、世話をされないと生きていけない。ミルクを飲まないと生きていけない。概念じゃない。自分と同じ生命なんだ。

 でも搾乳機を自分で試すギャグは面白くなかった(そこまでアホじゃないだろ。『THIS IS US』のシッター・マンかよ!)。

 まあこの一連の取り調べ場面は、最終話にしてはあまりにも……無駄っていうか(^_^;)

狙いは判るんですよ。クローン技術に関する、世間の無関心。政府の無関心(これはクローンスパの施設数を把握してたりするので、隠蔽の可能性も感じる)。そういう事を表現して、よりマイルズたちの孤立感を高めるっていうね。どこからも助けは得られませんよと。

 じゃあ無駄じゃないじゃんって思うかもしれませんが、最終話だけ10分ぐらい長いんですよ! 他の回は大体22分ぐらい。これって30分枠TVドラマのCM除いたぐらいの長さなわけで。

 まあネット配信なんだからTVのフォーマットに合わせる必要性は無いんですけれど、やっぱり「型」を守ろうとする事で、今まで培われてきた良い部分を利用できると思うんですね。

 例えばワンエピソードの時間数をTVドラマと同じぐらいに設定する事で、物語の枝葉を刈るしかなくなる、結果スピーディーになって続きが気になる作劇になる、みたいな。

TVは必要があるのでやってきた事だから、ネット配信の場合はそこを厳密にせず柔軟に取り入れる事でより面白くできる。TVマンたちの「あと1分あれば……」という無念を晴らせる。

 ハズなのになんで搾乳機ギャグなんだよ! この感想書いてるうちに、いかに取り調べ場面が無駄かって身に沁みてきちゃったよ。

 さて。

こう、サスペンスへ向かうと見せかけて……死ぬほど切ない場面が展開する、というのが本シリーズの見どころだったかと思います。

 今回もそうです。前回のクリフハンガーでクローンラッドがオリジナルラッドの人生乗っ取るでー! からの、歯磨き粉。

 誰かを真似る事でしか、何も得られない。ありのままの自分だけでは、誰も愛してくれない。「あいつは消えた」鏡に向かってつぶやくんですが、消えたのは自分自身だった。

歯磨き粉でTシャツ汚しているだけなんですけれど、胸が苦しくなる程悲しいよ。しかも寝て起きたらオリジナルラッドが妻とダンスしてる。自分より上手に。息もピッタリで。

 マイルズがケイトと究極に馬鹿っぽいダンスを踊っている間、とめどなく涙が出ました。二人を繋ぐのは空想の縄です。空想だから、お互いが共有しないと存在しない。二人があると信じることで存在する。

 でもだから、もうひとりのマイルズにも縄が見えている(自分が使ったのと同じ縄なのかも)。ケイトを愛しているから。

 愛しているから相手をよく見る。よく見るから判ってしまう。ケイトがマイルズに向けるまなざしは、僕に向けるものとは違う。

『メリーに首ったけ』でさ、「もう諦めろよ。泣くんじゃない。この世に女は、星の数ほど……友達はみんな、そう言うけれど。メリーは、この世にひとりだけ」っていう歌が流れるんですけれども、「あんただってこの世にひとりだけの奇跡みたいな存在じゃないかよ!」ともうひとりのマイルズの肩を抱きしめたくなります。一緒に『ウォッチメン』の原作読もうぜ!!

 で、今回って結構視点が入り乱れて3人がバランス良く話の中心になります。もうひとりのマイルズの絶望。ケイトの混乱。マイルズの怒り。

 特にマイルズが第1話で振るった斧を、再び躊躇無く手にするのが良かったですね(ここで一瞬画面がぼやけるんですよ、彼は物事が見えていない状態だと視聴者に伝えるみたいに)。

何が起こっても、ケイトへの愛情は消えていなかった。

 何というかこう……電子レンジみたいな。冷めちゃったらチンして食べればいいんであって、無くなっちゃうわけじゃないから。

 で、この電子レンジが常にフル稼働しててどうやっても冷ます事が出来ない状態にいるのが、もうひとりのマイルズですね。

絶対に冷めない愛情ってうらやましい気も一瞬しますが、24時間100%相手が自分の事を考えているのかと思うと、やっぱりちょっと気後れしちゃう。だって自分も同じようにしなきゃいけないのかなと思っちゃうから。

で、その行き先のない巨大な愛の為に、もうひとりのマイルズは自殺しようとする。でも歯磨き粉で汚れたシャツを着替える。

マイルズとして生きようとした服を脱ぎ捨てて、自分として死ぬためですよね。

 まあ色々な問題があるわけですが、かようにこの物語には愛が溢れています。愛がいっぱいなのに、憎んで殺して喧嘩して。

 そして実際に、マイルズはもうひとりのマイルズをその手にかける。

 で、ごめんなさいね、マイルズが銃を構えてもうひとりのマイルズを狙っている場面なんですけれども。

『マイノリティ・リポート』でもあったねー!!

 ポール・ラッドがパーカー着てるのもさ、『アントマン』っていうかトム・クルーズに寄せてね? いや、ただ単に僕の妄想なんですけれど。ポール・ラッドがトム・クルーズに見えてきて仕方ないんですよ。僕の妄想なんですけれど。

 ……そしてもうひとりのマイルズは、マイルズの人工呼吸によって息を吹き返す。

 第1話、冒頭。マイルズが息を吹き返したように。復活する。

 銃を撃てない時のポール・ラッドの演技、素晴らしかった。

 銃を撃てない時のポール・ラッドの演技、素晴らしかった。

 でね、その後で二人が取っ組み合いをするじゃないですか。その時にテーマソングっていうか明るい音楽が流れるんですよ。生の肯定って感じで、凄く感動的なんです。

 こう、ひとりの俳優が演じる二人が争う場面って事で、技術的には凄いことしてるんですけれど、ちゃんと「見せ場」としてだけでなく、感情の発露っていうか、命について考えさせられる場面でもあるんですよね。

I hate You!

I am You!

 のやり取りも実にジーンと来ます(遺伝子のgeneジーンとかけてます)。

 彼の名前が、

 Miles

 Elliot

 であるという事で、頭文字を並べると……

 ME

 何ですね。

 遺伝子と共に親から受け継ぐ名前。自分を認識するときに、私、ぼく、オレ、言葉はさまざまあるけれど、やっぱりマイルズ・エリオットという名前が大きい。マイルズ・エリオットがMEなんだと。

 だからケイトとレストランデートした時、もうひとりのマイルズがケイトからどう呼べばいいの? と尋ねられた時に、「マイルズだ」と答えた時に運命は決したのかもしれませんね。

 ケイトが大事にしてきたキャビネットを破壊しますが、これはまあ大事なのは過去じゃねえって事なのかな。もうひとりのマイルズも斧を振るうのでね。大事にしたいのは、今なにをするか、これからどうなっていくか。何を望むか。

 最後にケイトから赤ちゃんが出来たと告げられて、マイルズは微笑む。微笑むっていうか、歯肉までむき出して笑顔になる。嬉しい。すごく嬉しい。

 そしてこの妊娠の知らせっていうのは、誕生の奇跡ですよね。だから夫と妻が抱き合う。そして……もうひとりのマイルズも。

 誕生する事が奇跡であるように、いま存在している事も奇跡なんですよ。

 苦悩も、事情も、あるはずです。

 でもいま生きて居る事って、なんて――素晴らしい。

 

 

  Season1 END......

 

 

 

 っていうか、最後の歌の曲名が出やしないかと思って各国吹き替え版クレジットを最後まで観たら、日本版での表記が

 マイルズ/新マイルズ 木内秀信

        ケイト 渡辺明乃

 ってなってました。ずーっと感想での二人のマイルズの呼称をどうするかで悩んでいたのですが、オフィシャルな回答があったという。

 そしてラストの曲のクレジットは出なかったよー。これトーキング・ヘッズっぽいけど……どうでしょ。聞いたことある感が凄い……。

 という訳でyoutubeにてtalking heads を検索しまして『ストップ・メイキング・センス』を懐かしみながら順々と聞いていきました。

『僕と生きる人生』のラストを飾るのは、トーキング・ヘッズの<Road to Nowhere>でした!

どこでもないところへの道。

っていうかポール・ラッドだから、ガーディアンズに出てくる惑星ノーホエアに通じてるかもねー(笑)。

 まあ冗談はさておいて。どこでもないって事で、どこにも通じていない道ともとれる歌詞なのですが、どちらかというと、どこでもない=決められてない=どこでもいけるって感じに解釈した方が気持ちよいです。

 

 

https://www.michigandaily.com/section/arts/“living-yourself”-stars-paul-rudd-and…-paul-rudd

上記HPより画像お借りしています。

↑上の場面におけるカメラワークは本当に素晴らしいです。三つの虚像が鏡に映っているわけですが、その1つ1つが順番に中心となるような撮り方をするんですよ。魂の有り無し、人権の有り無し、法的解釈などなど、そんな事の議論より前に、生ある者として、誰もが等しく、平等であるように。

 

↓本当にほんとうに素晴らしい演技で魅せてくれたポール・ラッド氏の益々のご活躍を願います。

https://www.nytimes.com/2015/07/12/magazine/how-does-paul-rudd-work.html

上記HPより画像お借りしています。

 

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