柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫 2012 )は、文壇で名を成したいと切望する若い女性作家が、大胆さと芝居っ気を武器に、大物作家にしつこく戦いを仕掛けていくコメディ小説である。
2024年に、“のん” の主演で映画化された。
監督:堤幸彦 脚本:川尻恵太
出演:のん 田中圭 滝藤賢一
新人作家の相田大樹こと中島加代子(のん)は、小出版社プーアール社の文学新人賞を受賞したが、大御所作家東十条宗典(滝藤賢一)に酷評されたため、2年間出版の機会が得られず、アルバイトで暮らす。
そんなある日、執筆に集中しようと 「小説家のホテル」として名高い「山の上ホテル」に投宿する。そこへ大学の先輩である出版大手「文鋭社」の編集者遠藤道雄(田中圭)がやってきて、特別な情報をもたらす。上階の特別室に東十条宗典が翌朝〆切の原稿を書くため、カンヅメになっているというのだ。
そこで加代子は一計を案じてメイド姿で東十条の部屋を訪ね、あの手この手でみごと東十条の執筆を邪魔することに成功する。
東十条の原稿が落ちた穴を埋めた加代子の短編は、一躍注目を浴びる。
当然、東十条の恨みを買うが、東十条と出遭っても加代子は知らぬふりで「白鳥氷」と名乗り、機転を利かせて大作家の鼻をあかす。
さらに、編集者の遠藤と画策してペンネームを「有森樹李」に変え、まんまと文鋭社の新人賞を獲得する。
しかしその授賞式に東十条が現われ、彼女の正体を暴こうとする――。
ほんの30分観ただけでも、展開が早く、中味が濃い。
加代子の東十条への怒りはほとんど逆恨みのようなもので、ちょっと受け入れにくいが、大学の演劇部で鍛えた度胸と演技力で相手を圧倒し、その場を乗り切っていく姿は、痛快でさえある。
追い詰められてもめげずに出てくる当意即妙のアイデアと行動力から、眼が離せない。
そのまま観つづけたくなるが、いったん中断し、原作を開いた。
柚木麻子 『私にふさわしいホテル』 新潮文庫 2012
文庫本で40ページ前後の6話で構成された一連の物語。
読んでいくと、映画冒頭の語りやセリフはほぼ原作通りであることがわかる。
しかし小説では映画と違い、加代子の最初の新人賞が不発に終わった原因は東十条ではなく、別の人物にある。
だから、何の恨みもない東十条への攻撃は、なおさら理不尽に思える。
東十条の怒りはむしろ当然だが、それに対して加代子はさらに敵意を燃やし、一流作家への階段を駆けあがるために東十条を利用していく。
小説のヒット、文学賞の受賞、玉の輿のような実業家との恋愛……と、加代子は成功の階段を昇るかと思うと、思わぬ妨害に遭って墜ちるなど、東十条との間でシーソーゲームを展開していく。
その顛末が各話で描かれていくのだ。
それにしても、あるときは敵対したり、あるときはまた二人で共謀して編集者の遠藤を陥れたりなど、ハチャメチャな関係で、腐れ縁のような親密感すら見え隠れする。
まるで、「トムとジェリー」だ。
真面目に考えると加代子の行動は理解しがたい部分も多いが、それを脇において、ストーリーをただ楽しんでいくと、どんどん引き込まれて読んでしまう。
小説をあっという間に読み終え、映画の続きを楽しみに観た。
小説では加代子の最初の新人賞を台無しにした、本来の憎むべき相手は、東十条ではないのだが、それが映画では完全に消去され、その人物が絡む結末は大幅に変更してある。
敵を東十条ひとりにしぼることでわかりやすい展開になり、東十条をターゲットにする理由も納得できる。
そして、原作のエピソードをうまく散りばめることで、見せ場が多く、飽きが来ない映画に仕上がっていると思う。
さて、この作品は間違いなく、「観てから読む」のがおススメだ。
映画はよくできた脚本で、“のん”の体当たりの演技も見事で、わかりやすく、楽しめるコメディである。
そのあとで小説を読めば、場面がどんどん浮かんで楽しく読める。
しかも、映画に採られていないストーリーが随所にあり、より手が込んでいるので、映画を観た後でも十分に楽しめること請け合いだ。













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