佐藤正午『鳩の撃退法』 小学館文庫(上・下)。
上下巻で文庫本約1100ページある。
これを今回も “観ながら読む”で攻略する。
映画は、2021年公開。
監督;タカハタ秀太 脚本;藤井清美 タカハタ秀太
出演;藤原竜也 土屋太鳳 風間俊介
まず映画を30分ほど観て、それから小説を読み始めた。
かつて直木賞作家として名を上げた津田伸一(藤原竜也)は、なぜか落ちぶれ、北陸のある街でデリヘル嬢の送迎ドライバーをしている。
この街で起きる、若い夫婦と幼い娘一家三人の蒸発事件。そして偽札の発見。
その陰に見え隠れする、“本通り裏”の人物の存在。
津田はそれらの事件の目撃者であり、関与者でありつつ、小説家としてその物語を書き綴る。
事件が起きたその夜と、1年余後に小説を書き始める「今」、そして東京の片隅でバーテンダーをしつつ編集者鳥飼なほみ(土屋太鳳)に原稿を売りつける「今」とが、交互に展開していく――。
……と、ふり返って書いてみたが、映画を30分観ただけでは、物語の発端となったエピソードの断片が流れていくが、ストーリーはうまくつかめない。
とりあえず映画を中断して、原作小説を手に取った。
すると、これがまた独特の回りくどい文章。
簡潔に事実だけを描写すれば数行で済むものを、あれこれ無駄話のような語りが入りつつ、1ページに膨らんでしまう、そんなタッチである。
だからページ数を費やしても、物語は同じところを堂々めぐりしながら、少しずつしか進まない。
これが文庫本上下巻1100ページの正体だったか……
と思いつつも、この癖の強い文体になぜかハマっていく自分がいる。
これは不思議な感覚だった。
とはいえ、通勤電車だけの読書時間では、やはり読み終えるまで日がかかる。
そこでときどきジムで走りながらの iPadで、映画を2~30分、読んだところまで観る。
まさに “観ながら読む” で、上下巻を読み終えた。
…… 確かにおもしろい。
最後の方は過去の場面を新たな視点から語り直していくので、伏線がつながる予感がムズムズとしてきた。そこで、上下巻を持ち歩いて前の方を読み返し、事実関係を再確認しながらワクワクと読み進めた。
すると、思った通りではなかったが、それだけテキストを読み込んでも逆にわかりきらないもどかしさが、強烈な余韻として残った。
事件の真相らしきものは津田の小説として語られるが、それが真相かどうかはわからない。
1100ページでさんざんことばを費やしても、逆に語られない謎がある。
そこを読者の想像で埋めさせていくしかけになっているのだ。
こんな小説、読んだことない!
映画の残り30分余りもそのあとに観終えたが、やはりおもしろかった。
原作小説の不思議なテイストを映像化することに成功していると思う。
……と言いたいところだが、今回ばかりは小説と映画を少しずつ交互に読み進めたので、頭の中で小説の世界と映画の世界が癒着したように一体化しており、分離できない。
だから、映画だけを客観的に評価することは不可能だ。
なんとも不思議な物語体験になってしまった。
しかし、その体験自体がおもしろく、佐藤正午が構築した物語世界を存分に楽しむことができたと思う。
これもAmazonPrimeVideoで、いつでも映画を観られるおかげだ。
この “チャンポン読み”、よろしかったらお試しあれ。