観ながら読んだ 池井戸潤『七つの会議』【ネタバレ無し】 | 映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

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オリジナルの手法「カットイメージ」を紹介します。
小説を読むのが大好きな人、苦手だけど読んでみたい人
どちらにもオススメです。

 ビジネスマン経験のない私は、池井戸潤の小説はあまり読まない。

 ドラマもほとんど観たことがないが、前々回、『アキラとあきら』を “観ながら読み”して、いいなと思った。

 そこで今回は、池井戸潤『七つの会議』(集英社文庫)を、“観ながら読む”ことにした 。

 

七つの会議 (集英社文庫)

 

 こちらは同じ文庫の映画化バージョンの表紙。

 野村萬斎は映画『陰陽師』以来好きだが、歳をとってさらにいい味が出てきたと思う。

 

七つの会議 (集英社文庫)

 

  映画は2019年公開

  監督:福澤克雄      脚本:丑尾健太郎 李正美

  出演:野村萬斎 香川照之 及川光博 朝倉あき ……

 

     ジャケットの顔写真を見ただけでも、豪華キャストである。

  この他、友情出演?で、土屋太鳳や役所広司までちらりと顔を出している。

 

七つの会議

 

 映画も小説も、冒頭は中堅機器メーカー東京建電の営業会議のシーンから始まる。

 営業1課と2課の社員全員が緊張する中、営業部長の北川(香川照之)は、激しい形相で檄を飛ばす。

 月間のノルマを達成できず、北川から厳しく叱咤される営業2課長原島(及川光博)。

 対照的に、営業1課長坂戸(片岡愛之助)は、期待以上の成果を称賛される。

 

 そうして会議は終わるが、営業1課の席に、なぜか居眠りをしている男が一人……。

 北川部長と同期だが、出世コースを外れた万年係長、八角民夫(やすみたみお 野村萬斎)である。

 

 最低限の仕事しかせず、好き放題にふるまう八角への怒りを腹に据えかねて、あるとき課長の坂戸は、彼を激しく叱責する。というより罵倒する。

 すると八角はそれをパワハラだとして倫理委員会に告発し、坂戸は課長を解任されて閑職に追いやられる――。

 誰も予想していなかった厳しい処罰に、社内では戸惑いが広がるが……。

 

 映画の初めを30分ほど観て、文庫本を読み始めた。

 小説は8つの連作短編の形をとりながら、やがてそれらのピースがつながって東京建電という中堅企業(大企業ソニック〈映画ではゼノックス〉の子会社)における大事件が見えてくる。

 オムニバス形式で短編ごとに主役が代わり、東京建電という会社を、それぞれの視点から浮き彫りにしていく。

 

 たとえば、自分の仕事の意味に悩んで退職を決めた浜本優衣(朝倉あき)は、せめて最後に誰かの役に立ちたいと、残業社員のための「ドーナツ無人販売コーナー」の企画を提案し、試行を認められる。しかし、何者かの無銭飲食が絶えず、頭を悩ます――。

 

 実は彼女の存在が、組織の論理に翻弄される男たちの物語を、程よい距離で客観的に眺める視点を与えてくれる。

 映画の中でも、ギラギラした男たちのドラマの中で、唯一共感しやすく、ホッとさせてくれるキャラクターである。

 

 各短編の主人公以外にも、北川や坂戸など主要登場人物は、その生い立ちや入社のきっかけから今の地位に至るそれぞれの人生や思いが、丁寧に描かれている。

 しかし、それぞれの思いをもって懸命に仕事をしている彼らが、やがて大きな組織の渦の中に巻き込まれていく。

 

 その中で八角(通称ハッカク)は、一人出世競争から外れて、飄々と万年係長の座に安住しているように見える。

 しかし実はそれは、「組織の論理」に早くから絶望した彼が選んだ、ギリギリの生き方だったのだ。

 

 だから彼には、どうしても譲れない一線があった。

 そして、顧客や社員をないがしろにして顧みない「組織の論理」に、敢然と立ち向かう道を選ぶ――。

 

 組織の中で将棋の駒のように生きざるを得ない大半の人々にとって、流れに掉さす八角の生き方は、“あり得ない” が、“あり得てもいい” と心のどこかで羨望する会社員の姿なのではないか。

 

 小説を読みながら一度、映画の続きを30分ほど観たが、そのあとは小説に戻って最後まで読み終えた。

 それから、映画の残りを観た。

 

 連作短編のそれぞれの視点から描かれていた物語を、映画ではひとつのストーリーとしてうまくまとめている。

 

 小説の終盤、会社の危機の中で組織の防衛と自らの保身のために動く経営層の動きが、リアルに描かれる。

 ビジネスの世界を知る人なら、これは “さもありなん”とうなづく展開なのだろうか。

 映画では単純化されているが、その分テンポがよくコミカルさもあって、結末は楽しめる。

 

 しかし、最後に八角の語ることばが、日本の会社組織の体質的な闇を的確に言い当て、問題提起で終わっている。これは小説にはない趣向である。

 

 連作短編形式の小説は読みやすく、おススメだ。

 また、それをひとつの物語にまとめた映画の脚本もよくできていて、終始、飽きさせない。

 

 だがこの物語、ビジネスの世界にいる皆さんには、どう見えるのだろうか。

 

 

映画を観ているみたいに小説が読める 超簡単! イメージ読書術