観ながら読んだ 池井戸潤『アキラとあきら』【ネタバレ無し】 | 映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

小説の世界に没入して
“映画を観ているみたいに” リアルなイメージが浮かび
感動が胸に迫り、鮮やかな記憶が残る。
オリジナルの手法「カットイメージ」を紹介します。
小説を読むのが大好きな人、苦手だけど読んでみたい人
どちらにもオススメです。

  池井戸潤の小説『アキラとあきら』。

  今回も映画を途中まで観てから、小説を読むことにする。

  映画は2022年公開 監督;三木孝浩 脚本;池田奈津子 主演;竹内涼真 横浜流星

 

アキラとあきら

 

 山崎瑛(あきら・竹内涼真)は少年期に父親が経営する町工場の倒産を経験し、父を見捨てた銀行を嫌悪して育つ。

 しかし、高校時代、父の勤める会社の経営改善のために親身になり自分の進学の道も応援してくれた誠実な銀行員と出会い、進むべき道を見つける。

 

 一方、大手海運会社東海郵船社長の長男に生まれた階堂彬(あきら・横浜流星)は、父の後継ぎとして期待されていたが、同族経営の会社を継ぐことを嫌い、一般企業への就職を目指す。

 

 同じ響きの名前を持ちながら、対照的な境遇に育った二人は、ともに東大経済学部を卒業し、同じ産業中央銀行に同期で入社する。

 二人がライバルとして闘う物語か、と想像するのが自然だが、必ずしもそうではない。

 

 確かに産業中央銀行の新入社員研修会のチーム対抗で最優秀の二人が対決する場面は、映画の最初の見どころだが、以後、彼らが競ったり火花を散らしたりする場面はない。

 二人は同窓で同期入社でありながら親密な様子もないが、互いに優秀さを認めてリスペクトしつつ、それぞれの信ずる道を歩んでいるように見える。


 山崎瑛が担当する町工場の倒産が確実になると、融資本部長(江口洋介)は社長が娘の手術代として貯めていた預金まで差しさえようとする。瑛は上司の裏をかく行動に出てその預金を守り、地方支店に左遷される。

 

 一方、階堂彬は本社で順調にキャリアを重ねていくが、父が病に倒れると、社長を継いだ弟龍馬は、系列会社社長である叔父たちの口車に乗せられて、赤字の大型リゾート施設への高額融資に連帯保証をしてしまう。

 

 ……と、2時間余の映画の前半1時間ほどを観て、いったん中断した。

 そして、原作小説の文庫版を手にした。

 

アキラとあきら (徳間文庫)

 

 池井戸潤『アキラとあきら』 徳間文庫 2017。 

 しかしこの本、厚みは2.5㎝、約700ページ。まさに圧巻の長編小説である。

 

 読み始めると、二人の生き方を決めたそれぞれの少年期のエピソードとその心の襞が、丁寧に描かれている。

 とくに、債権者に追われる父と離れて母親の実家に身を寄せる瑛少年の不安な気持ちや家族に寄せる思いが切ない。

 

 一方、彬は幼いころから先代社長である祖父のそばで経営者たちの姿を見て育つが、祖父の死に伴い、父と叔父たちの血縁ゆえの確執を目の当たりにする。

 

 これらの記憶が、第一線のバンカーとなった二人の運命に大きな意味をもってくる。

 読んでいる私たちも、これらのエピソードの積み重ねがあればこそ、瑛と彬に共感できる。そして、その後大きく展開していくドラマの中に、彼らの人間的成長を実感して心動かされる。

 

 会社経営や銀行融資に詳しくない私でもわかりやすいスリリングな展開で、見事な解決にカタルシスと感動を味わい、結末シーンの余韻に浸ることができた。

 読み終えてみれば、700ページは決して長くない。

 そして、映画の後半を楽しみに観た。

 

 映画の後半、1時間余の展開は実に見事だった。

 原作と同じ東海郵船グループの経営危機をめぐる、手に汗握るストーリーが、テンポよく展開する。

 小説ではよくも悪くもさめた距離感にいる瑛と彬だが、映画では互いに強い口調で相手の価値観に踏み込む場面も出てくる。

 

 また、クライマックスの解決策は同じだが、小説よりもさらにもう一段、立ちふさがる壁。

 そして、原作とはまた違うラストシーン。

 二人の宿命の糸が時間を超えて交わる瞬間、並び立つ瑛と彬の姿は、あまりにかっこよすぎる。

 

 原作小説は人物の心情的なリアリティで読み応え十分だが、映画はわずか2時間でスリリングなビジネスドラマの中に感動的なヒューマンドラマを味わえる。

 映画を観て気に入ったら、ぜひ原作小説で細部のリアリティと心情描写を楽しむことをおススメしたい。