映画『キネマの神様』は、2021年公開。
監督;山田洋次 脚本; 山田洋次 朝原雄三
出演; 沢田研二 菅田将暉 永野芽郁 北川景子 寺島しのぶ 宮本信子 ……
当初、志村けん主演で撮影を進めていたが、ご承知の通り志村は新型コロナに感染して亡くなった。
急きょ、沢田研二を主演に据えて撮影を再開したが、緊急事態宣言などに阻まれて製作は難航。2021年ようやく完成して公開に漕ぎつけた、松竹映画100周年記念作品である。
一方、原作は、原田マハ『キネマの神様』 文春文庫 2011年。
例によって映画を30分ほど観てから小説をしばらく読み、また映画を少し観てから、小説に戻って最後まで読んだ。
そのあとで、映画の残りを全部観た。
80代の高齢になっても競馬や賭け麻雀に溺れ、借金を作っては懲りない父(沢田研二)。
父母に穏やかな老後をと願う娘(寺島しのぶ)は、母(宮本信子)を説得して借金の肩代わりをやめ、父をギャンブル依存から立ち直らせる計画を立てる。
その父がギャンブル以外に打ち込める唯一のものは、映画だった――。
物語の発端は共通点が多いが、途中からかなり異なる展開になっていく。
映画では、撮影所を舞台にした若き日の父と母の秘めたる物語、ロマンティックで一途な純愛ストーリーが展開する。
実はそれこそ、山田洋次監督が想像力を発揮して創造した世界なのだ。
原田マハの原作では、インターネットの「ブログ」を通じた「映画愛」の広がりが、父親の身に奇跡を起こす。
文庫は2011年刊だが、雑誌連載、単行本は2008年で、その時代を背景にしている。
インターネットにつなぐのはパソコンが主流だった当時、アクセス数を競うのは「ブログ」だったのだ!
スマホが普及し、投稿動画が人気を集める今では、ここに描かれた「ブログでヒット!」の世界は、妙に古臭く見える。
皮肉なことに、時代の最先端をいくメディアを取り入れた小説『キネマの神様』が、古びてしまうのは早い。
その一方で、映画人たちの古きよき時代を描いた映画『キネマの神様』は、観る者の心にノスタルジーを呼び起こし、いつまでも色あせない。
だから、今回、「観てから読む」のはおススメしない。
この組合せは、断然、「読んでから観る」べきだ。
原田マハが創造した映画愛の奇跡の物語は、それを単体として純粋に楽しむ。
そして映画では、山田洋次が思い描いた古きよき映画づくりの世界を堪能する。
それは文句なく感動できる、素敵な物語である。