塩田武士『罪の声』(2016年刊。2019年講談社文庫刊)は、グリコ森永事件(1984~85)の真相に迫る小説である。
前回、映画を半分ほど観て、小説を読んだ。
映画の記憶の助けを借りながら、ありありとイメージして読み進め、読み終えて、とても満足した。
グリコ森永事件を忠実になぞりながら、未解明の部分を大胆に推理して構築した物語である。
小説では「ギンガ萬堂事件」となっている事件の謎を解き明かしていくサスペンスに引き込まれ、推理の見事さに舌を巻くと同時に、事件に利用された子どもたちの運命が、胸に迫る。
周到に準備された力作であり、よくできた小説だと思った。
そして、映画の後半を楽しみに観た。
映画は2020年公開 監督: 土井裕泰 主演:小栗旬 星野源
この映画もとてもよかった。
小説で詳細に描かれた事件の謎とそれを解くプロセスをわかりやすく整理し、飽きさせない。
よくできた脚本だと思う。
真犯人に迫る種明かしの場面は、日本と英国、2つの舞台を同時進行で交互に重ね、テンポよく見せる。
真犯人とその動機がわかってみれば、空疎な犯罪であり、子どもたちの運命をもてあそぶ結果になったことに怒りを禁じえない。
原作小説は謎解きだけに終わらず、巻き込まれた子どもたちに寄り添う物語だから、共感できる。
その点、この映画は、子どもたちの運命、その後を描く結末部分を丁寧に場面化、映像化し、原作者の思いをしっかりと受け継いでいると思う。
派手なシーンはないが、物語の展開をじっくりと追い、最後には感動と後味のよさを残す。
事件の真相はけっして後味のよいものではないが、新聞記者阿久津(小栗旬)と子どもたちの一人である曽根俊也(星野源)が、事件を追うことを通じてそれぞれ人間的に成長するプロセス。
そして二人の間に生まれる共感と不思議な友情。
それが最後のシーンに象徴されていて、とてもよい後味で終わる。
主題曲はUruの『振り子』で、最近、Uruの曲をよく聴いている私には耳懐かしく、物語の余韻に浸りながら、じっくりとエンドロールを観てしまった。
小説と同じで、「グリコ森永事件」をよく知らない若い世代には、観る前に事件の概要を知っておくことが必須だろう。
そのためには、NHKの再現ドラマ「未解決事件」シリーズに「グリコ森永事件」があるが、私もまだ観たことがない。
NHKオンデマンドで視聴可能なので、今度ぜひ観てみたいと思う。