「どくいり きけん たべたら しぬで」と、関西圏を舞台に複数の食品会社を脅迫した、グリコ森永事件(1984~85)。
マスコミに送りつける「挑戦状」は警察への敵意とからかいに満ち、大いに世間を騒がせたが、身代金の受け渡しに成功することなく終わった、今なお謎の多い未解決事件である。
その事件に着想を得た、塩田武士の小説『罪の声』は2016年刊。2019年に講談社文庫版が出た。
映画は2020年公開 監督: 土井裕泰 主演:小栗旬 星野源
これはぜひ読みたいし、観たいと思い、まず映画『罪の声』を前半だけ観た。
亡父のテーラーを継いで地道に仕事をし、妻と幼い娘と暮らす曽根俊也(星野源)は、ある日、押し入れの奥から古いカセットテープと英文のメモが書かれた黒革の手帳を見つける。
カセットテープに録音されていたのは、幼い自分の声で身代金の受け渡し場所を指示するメッセージ。
それは30年以上前に起きた “ギンガ萬堂事件”で使われた電話の声だった。
イギリス滞在歴を持つ伯父の関与を疑う俊也は、亡父の親友であった堀田の力を借りて関係者を探し、話を聞いていく――。
一方、大手新聞の記者 阿久津英士(小栗旬)は、ギン萬事件の特集企画のために文化部から駆り出され、事件を調査していく。
二人の軌跡はしばらく平行線上を進むが、やがて阿久津は同じところで聞き込みをする俊也の存在を知る。
新聞記者の突然の訪問に驚いた俊也は、マスコミ報道によって平和な暮らしが破壊されることを怖れ、阿久津を激しく拒絶する――。
そこまで観て映画を中断し、原作を開いた。
映画を途中まで観ているおかげで、星野源、小栗旬のイメージで自然に読み進められる。
阿久津は事件の足跡を丁寧に追い、それに関わった人々を特定していく。
そして偶然にも助けられて新たな証拠をつかみ、真犯人へと迫る。
当初マスコミ報道を怖れていた俊也も、次第に阿久津の誠意を感じ、自分と同じように事件に巻き込まれた “他の子どもたち”のその後を案ずる彼と行動をともにしていく――。
これは、グリコ森永事件を忠実になぞりながら、未解明の部分を大胆に推理して構築した物語である。
しかも、電話メッセージに声を使われた子どもたちの存在に深く思いを寄せて、彼らの運命を想像し描き出す。
文庫本で500ページ以上あるが、一部はルポルタージュのように現実のグリコ森永事件の詳細を描きつつ進むので、必要なボリュームだと思う。
資料を周到に研究し未解決事件の真相に迫る構成のみごとさと、犯行に利用された子どもたちの心情に思いを馳せる作家の人間的なまなざし。
たいへんな力作であり、よくできた小説だと思った。
これはおススメだが、グリコ森永事件を知らない世代は、まず事件の概要を知ってから読むとよいのではと思う。
この小説にはひじょうに満足し、そして、映画の後半を楽しみに観た。
それについては、次回「読んでから観た 映画『罪の声』【ネタバレ無し】」