観ながら読んだ 島本理生『ファーストラヴ』【ネタバレ無し…のつもり】 | 映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

映画を観ているみたいに小説が読める イメージ読書術

小説の世界に没入して
“映画を観ているみたいに” リアルなイメージが浮かび
感動が胸に迫り、鮮やかな記憶が残る。
オリジナルの手法「カットイメージ」を紹介します。
小説を読むのが大好きな人、苦手だけど読んでみたい人
どちらにもオススメです。

 島本理生の直木賞受賞作『ファーストラヴ』。

 

 

 映画は、2021年公開、監督堤幸彦、出演は北川景子、中村倫也、芳根京子。

 

 美貌の大学生聖山環菜(芳根京子)は、キー局アナウンサーの採用試験を受けた直後に、著名な画家である父を包丁で刺殺し、逮捕された。

 しかも、捜査関係者に「動機はそちらで見つけてください」と語ったと、センセーショナルに報道された。

 彼女の心理に関心を持ち、本を執筆するという企画を受けた公認心理師の真壁由紀(北川景子)は、夫の弟で弁護士の庵野迦葉(あんのかしょう 中村倫也)とともに、事件の謎、そして環奈の心の闇に迫っていく――。

 

 この作品、まず映画を30分ほど観てから、小説を読み始め、半分ほど読んだところでまた映画を途中まで観て、後は小説を最後まで読み終えてから、映画の残りを最後まで観た。

 

 由紀、あるいは迦葉が、拘置所の面会室で聖山環奈とアクリル板越しに話す場面がくり返される。

 環奈の語ることばはあいまいであり、ときに取り乱す。

 

 環奈の心の闇、それをもたらした家族の暗部が予感される。

 また、義理の姉弟である真壁由紀(小説では一人称の「私」)と迦葉の間にも、禁断の過去が想像される。とくに小説において。

 
 いずれも、過去の深刻な罪や過ちが隠されているではないかと、嫌な予感がある。

 好きなタイプの物語ではないかも……と思いながら、展開を負っていく。

 

 また私は、主人公の真壁由紀をどうも好きになれない。

 彼女はマスコミに好んで出演し、「カウンセラーとして有名になりたい」と言う。

 そんな人に誰が自分の悩みを打ち明けたいと思うだろうか。

 

 由紀(「私」)の資格は、小説では臨床心理士、映画では公認心理士となっているが、公認心理士は2018年に認定が開始されたからだ。

 それまで心理系でもっとも信頼性の高かったのは臨床心理士だが、公認心理士は初めての国家資格である。

 

 いずれにせよ、心理士の有資格者であるはずの由紀が、環奈との対話では、相手のことばを受け止めず、すぐ疑問を呈したり、理由を問い詰めていく。

 これは、カウンセラーの「聴き方」ではない。

 さらに、すぐ感情を露わにする。

 そんな役に北川景子はピッタリなのかもしれないが、私はどうも苦手なタイプである。

 

 そんなことを思いながら、小説を最後まで読み、映画も最後まで観終えた。

 

 結果として、隠されていた真実が結末で明らかになり、スパッと解決、という話ではない。

 かといって、深刻な悲劇を暴いて終わる話でもない。

 

 実は謎解きの真相は、展開の中で少しずつ明かされていたことがわかる。

 だから、結末で一気に……という感動はない。

  

 その代わり最後には、主要人物たちが勇気をもって一歩前に踏み出す姿が描かれる。

 それによって、過去を乗り越え、次の人生へと進んでいく。

 

 結末の後味が読めないまま、結末に少し嫌な予感を持ちながら読んでいったら、そうではなかった。

 いい意味で裏切られたが、それが筆者の意図的なミスリードだとすれば、このブログの読者には、一種のネタバレをしてしまったかもしれない。

 

 しかし、結末の後味が悪いのではと、この作品を読む(観る)ことをためらう向きには、安心していただく材料を提供できたのではないかと思う。

 

  映画の結末部分、私は小説を読んでいるのでよく理解できたが、映画だけ観たらどんな印象を持つのだろうか。充分には想像できない。

 もし映画を観て、結末が腑に落ちないという方には、小説を読んでみることをおススメする。

 

 ところで、映画のエンディングに流れてきたのは、私にとってはうれしいことに、聴きなれたUruの曲。

 あ、この曲がテーマだったのか、と思ったら、曲名は確かに『ファーストラヴ』だと前から知っていた。

 なるほど……と、つながった。