昨日の本会議にて反対討論に立ちました。SNS上では、反対することが反日売国とか、賛成することが戦争とか両極端な声が上がっていますが、私は論点や中身の議論無く、感情論や空気感で煽る風潮や、他者を攻撃する状況が非常に危険であると考え、討論に立ちました。私の討論全文を記載します。ぜひご一読いただき冷静に、丁寧に、一緒に考えましょう。
新政みえ四日市市選出の稲垣昭義です。
今定例月議会に提出されました、意見書案第11号「日本国国章損壊の罪の早期制定を求める意見書案」に反対の立場で討論いたします。
反対するにあたり、新政みえでの議論の一端をまずお伝えしたいと思います。
そもそも国章は、いずれの国でも国家の象徴として大切に扱われるべきものであり、国民のアイデンティティーの源として、重要な役割を果たしているものです。そのため、国章をみだりに損壊してはならないことは明白です。日本ではこれまで、このことは当たり前のことであり、国章損壊の罪といったものをわざわざ作る必要はありませんでした。もし、日本で国章が国家の尊厳や国民感情を象徴するためのものであることが共有できなくなっているため、国章損壊の罪の制定が必要であるというなら、より丁寧で慎重な議論が必要です。
国会では、参政党が日本国国章損壊罪を新設する刑法改正案を提出されましたが、審議未了により廃案となりました。国会での議論はまだされておりませんが、国章損壊罪について様々な論点がある中、大きなものを4つ述べます。
1つ目は、立法事実があるかということです。自民党の岩屋毅前外相は、立法事実が無いから反対と主張されていますが、SNSでは相当な批判を浴びています。必要性のない不合理な処罰拡大の恐れを十分に考えた、冷静で慎重な議論が必要です。
2つ目は、官公庁に掲げられた国章を損壊するような限定的なものなのか、全ての国章への損壊行為を対象とするのかといったことです。後者であるならば、映画や造形などの芸術表現も処罰の対象となる可能性があるのではないかという論点もあります。どの表現が許されるのか、罪となるのかの線引きは、まだ十分に議論がなされていないというのが現状です。
3つ目に、外国国章損壊罪があるのに、自国の国章損壊罪が存在しないのは不具合だという論点があります。外国国章損壊罪の保護法益は、他国との、日本の対外的な安全と国際関係であり、外国の名誉や尊厳を守るためのものではありません。このような自国への国章損壊罪の保護法益と異なることをどう考えるのか。また、外国国章損壊罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起できない親告罪ですが、自国の国章損壊罪の構成要件はどうするのかなどの問題もあり、そもそも同列で論じられるものなのでしょうか。
最後に、国章損壊罪の規定追加については「器物損壊罪の適用で十分ではないか」という論点が存在します。過去には国体会場で日の丸を引き下ろし焼却した事件があり、器物損壊罪などの罪で有罪となった事例もあります。侮辱罪や名誉棄損罪、建造物侵入罪、業務妨害罪も状況によっては適用できる中、既存の刑罰との兼ね合いも議論が必要です。
このように新政みえで議論をしただけでも多くの論点があり、まだまだ時間が足りない状況です。私たちは国民の一人として、もし日本が、国章が国家の尊厳や国民感情を象徴するためのものであることが共有できない国になっているなら、国章損壊の罪を制定することについて考える時期に来ているのかもしれません。しかしながら、その議論は本来、国会でされるべきものですが、まだ国会での議論は始まっていないのが現状です。
国会において、国章損壊の罪の立法事実も、構成要件も保護法益も全く議論されていない状況の中、県議会の役割として、国会に対して議論を求めることは必要かもしれませんが、全く中身が空っぽ、白紙の状態であるものを感情や、空気感だけで早期制定を求めることは、自治体議員としてよくよく考えるべきことであります。国会での議論が始まっておらず、制定の可否を判断する材料が乏しい状況の中で、「早期に」国章損壊罪の制定を求めることは三重県議会としては慎重であるべきと考えます。
三重県議会基本条例の前文に、「本県議会は、住民自治及び団体自治の原則にのっとり、真の地方自治の実現に向け、国や政党等との立場の違いを踏まえて自律し、」とあります。これまでも国政課題における内容の意見書が、三重県議会の中で可否の判断がなされてきましたが、三重県議会は「議論を尽くす」という議会の本分を守るために、国や政党等との立場の違いを踏まえて、一致点を見出すための努力を積み重ねてきました。
今回の意見書提出は、一政党のみしか提出していない法案の「早期制定」を求めるものであり、国会の中でも議論はこれからという段階であります。県議会での議論を十分におこなうための材料が無い中で、結論を急ぐのは政党のパフォーマンスに地方議会が利用されるという懸念を感じます。そのため、各会派で構成される政策担当者会議では、少なくとも国会での議論が始まり、先に指摘したような論点が明確になってからでも遅くはないのではないかという要請を、各会派から参政党に対して行ってきたところです。これは、議会として議論できる環境を整えて、徹底して議論を行うという三重県議会の伝統であり、そのための調整を求めたものです。これまでの諸先輩方が築いてきた、丁寧な議論を積み重ねて来た、伝統を大切にするといった意味でも今回の意見書には賛成することは出来ません。
最期にもう一度申し上げます。国章は、いずれの国でも国家の象徴として大切に扱われるべきものであり、国民のアイデンティティーの源として、重要な役割を果たしているものです。そのため、国章をみだりに損壊してはならないことは明白です。国民の自由や基本的人権を制限する新しい刑罰を設けるには、そのために保護される公共の福祉、利益があり、立法事実が必要です。私たち政治家はそのことに対して、慎重で丁寧な議論をしなければいけません。新政みえでの議論を通して私はそのことを改めて感ました。
以上の理由により、現状では、日本国国章損壊の罪の早期制定を求めることは、議会人として賛成することは出来ないことを申し上げます。
議員各位の御賛同を心よりお願い申し上げ、私の反対討論といたします。








