xcdft (2)

今回はこういうお題でいきます。2日前に書いた「測定」の不思議
という記事の続きみたいなものなんですが、今日の記事の内容の後半は
科学的に正確ではなく、まあSF的な妄想みたいなものです。
ですから、そのつもりでお読みただければと思います。

本当は書く予定はなかったんですが、共同事務所の仲間から
「多世界解釈についてもっと書いてみてくれよ」と言われまして。
でも、これについて専門的に研究してる学者って多くないんですよね。
理由はおわかりだと思いますが、賞を受けたり、工学的に応用できるような
めぼしい成果が出ることが期待できないからです。

 



ただ、物理学者の中に過激な支持者はいます。イギリス人の、
デイヴィッド・ドイッチュという人です。名前を聞かれたことがあるか
もしれません。「量子コンピュータ」の基礎理論を構築した人物ですね。
ドイッチュの異常な理論?については後半のほうで少し触れることにします。

さて、「多世界解釈 many-worlds interpretation MWI」は、
プリンストン大学の大学院生であったヒュー・エヴェレット3世が、
大学院生時代の1957年に博士論文として書いた、量子力学の観測問題に
ついての理論です。3世というと王様みたいですが、
もしプロレスラーのドリー・ファンクジュニアが自分の子どもに
同じ名前をつければ、ドリー・ファンク3世(ザ サード)です。

分岐していく世界
xcdft (3)

エヴェレット3世は学生時代、SF小説の大フアンだったみたいです。
発表の当初、多世界解釈はさして評判にもならず、大学卒業後は理論物理とは
違う道に進みます。軍関係の研究をやったり、事業を起こして会社を
経営したりです。そのうちに、だんだんに多世界解釈のことが知られるようになり、

1959年、エヴェレット3世は量子力学研究の本場であった
コペンハーゲンの研究所に、量子力学の父と言われるニールス・ボーアを
訪問します。ボーアは「コペンハーゲン解釈」を進めた人ですね。ですが、
多世界解釈をくわしく説明する機会は与えられず、議論すらできませんでした。
コペンハーゲン派は、エヴェレット3世をただの素人とみなしていたようです。

多世界解釈が世間に知れるようになったのは1970年代からです。
さまざまなSF小説やコミックで取り上げられ、大流行しました。
まあ、学術理論なので特許というものはないんですが、もしそうできたら、
エヴェレット3世は、その特許使用料だけで食べていけたかもしれません。

歴史改変SF『高い城の男』 フィリップ・K・ディック
xcdft (1)

エヴェレット3世は、1982年、51歳で心臓発作のために
急死しますが、肥満し、ヘビースモーカーで、浴びるように酒を飲んでいた
ことが原因と言われます。あまり幸福な人生ではなかったのかもしれません。
彼は徹底的な無神論者だったので、葬儀や埋葬を望まず、
あらかじめ「遺体はゴミ箱に捨てるように」と遺言に書いてありました。

これは余談ですが、エヴェレット3世の妻は彼の遺骨を数年間自宅で
保管してからそうしたようです。また、彼の娘は後年 自殺していますが、
その遺書のメモに、「パパに会える正しい平行宇宙にたどり着くことが
できるよう、自分の灰をゴミと一緒に捨てて」と書かれていたそうです。

 



さて、多世界解釈について、こっからは眉唾の話になります。
多世界解釈では、個々の場合における波の収縮は認めていません。
そのかわりに、この宇宙には一つの大きな波動関数があり、
観測が行われる都度、世界は分岐していくとします。
ですから、波の収縮は起こりません。

まあ、普通はそんなことありえないと思いますし、この理論が正しいという
証拠も一切ありません。理論の性質上、証拠が出せないんですね。
ただ、この考え方を使えば、二重スリット実験における量子デコヒーレンスや
量子もつれの現象を、比較的すっきりした形で説明することはできます。

二重スリット実験
xcdft (5)

では、もし多世界解釈が正しいとして、平行世界はどこにあるんでしょうか。
これはわからないと言うしかないですね。原子核の周囲にある電子は、
存在確率の雲として表わされるようになってきましたが、
その確率の雲はどこにあるの、と問うのと基本的には同じことだからです。

あえて言えば、複数の世界は重なり合っているということでしょうか。
ただ、研究者の中には平行世界を時間とからめて論ずる人もいます。
平行世界の中の時間は、すべて同時進行しているわけではなく、中には
過去や未来の世界もある。われわれは時間について現在しか認識できませんが、
過去や未来がある場所に、平行世界も存在しているというわけです。

それから、平行世界は無限にあるのか。これもよくわかっていません。
原子核の中の電子が取れる位置が、無限なのか有限なのかがわかっていない
からです。時間や長さにはプランク時間、プランク長という最小単位があり、
電子のとれる位置の数には限りがあるのかもしれないんですね。
ただ、無限ではないとしても、平行世界の数は膨大です。

 



次に、平行世界は決定論的なのか。エヴェレット3世自身はそう考えて
いました。これもよくある例えですが、あなたはAさん、Bさんのどちらと
結婚しようか迷ったあげく、Aさんと結婚しました。自分の意志で
Aさんを選んだようですが、じつはあなたがBさんと結婚した世界も、まだ独身の
世界も存在し、たまたまあなたはAさんと結婚した世界だけを認識している。

また、あなたがもし成功者だったとします。あなたは自分の

才能と努力で成功したと考えますが、そうではなく、

やはりたまたま成功した世界にいるのであり、
平行世界の中には、あなたがホームレスになっているような世界もあるわけです。
つまり、人生の中での才能や努力が否定されてしまうんですね。

デイヴィッド・ドイッチュ
xcdft (6)

さてさて、最後に、平行世界どうしは互いに影響を与え合うことができるのか。
これについて、理論的にはできないとされていましたが、最初のほうに
登場したデイヴィッド・ドイッチュはそう考えてはいないようです。
ドイッチュの本はひじょうに難しく、自分には手にあまる内容なんですが、
その中で、こんな意味のことを述べています。

「正しい選択をすることで、われわれはよい生活を送っている宇宙のスタックを
集中させることができる。あなたが成功すると、あなたと同じ選択をした
すべてのコピーも成功する。あなたがよい選択をすれば、
多元宇宙でよい選択がなされる部分が増大する」・・・どう思われますでしょうか。
ここまでくると、自分にはまるで解釈不能です。では、今回はこのへんで。

xcdft (4)