【アルキメデスの大戦】 | シネフィル倶楽部

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洋邦ジャンル問わず最新作から過去の名作まで色んな作品ついて、ライトな感想や様々な解釈・評論を掲載orつらつらと私「どい」こと井戸陽介の感想を書く場にしたいと思います!観ようと思ってる作品、観たい過去の作品を探す時とかの参考書みたいに活用してもらえればと♪

NEWオススメ最新作(※ネタバレあり)

 

白状します。大好きな山崎監督の作品ですが、最初製作発表の段階ではそこまでモチベーションが上がらなかったんです。

 

「戦艦大和を題材に、その建造を止めようとした男の話」

 

これは物語の天井とかオチが見えてしまっていないか?面白くしようがあるのか?物語の広げ方に無理が出ないだろうか?つまるところ────果たしてこの作品は面白くなるのだろうか?と。

 

実際に劇場で観てみて、自分が全く的外れだったことを思い知らされました。

 

おすすめです。

 

『アルキメデスの大戦』

(2019)

 

この映画を本ブログでオススメしようと思った理由は、シンプルに「物語」が面白かったからです。

 

それは元を正せば原作の魅力なのかもしれません。

 

しかし、その魅力を凝縮して2時間にまとめた脚本、知識欲が刺激される展開、戦争という考えさせられるテーマ、各キャラクターの魅力度、タイムリミットサスペンスとしてのテンポ感、どんでん返しの要素、小さなユーモアなどを絶妙なバランスで配し、見事に映像化したこの映画がとても魅力的だったんだと思います。

 

 

それではいつも通り、まずは本作のあらすじ紹介から参りましょう!

 

※あらすじ以降、この映画の落とし方(オチの付け方)に関して言及している部分があります。未鑑賞の方はくれぐれもご注意ください。何も知らずに観た方が本作は楽しいかと♪

 

「この記事の長さはどれ程のものだろうか?

測りたくなってくるねー」

 

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■『アルキメデスの大戦』あらすじ

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1933年(昭和8年)。

 

欧米列強との対立を深め、軍拡路線を歩み始めた日本。

 

海軍省は、世界最大の戦艦を建造する計画を秘密裏に進めていた。

 

だが省内は決して一枚岩ではなく、この計画に反対する者も。

 

「今後の海戦は航空機が主流」という自論を持つ海軍少将・山本五十六は、巨大戦艦の建造がいかに国家予算の無駄遣いか、独自に見積もりを算出して明白にしようと考えていた。

 

 

しかし戦艦に関する一切の情報は、建造推進派の者たちが秘匿している。

必要なのは、軍部の息がかかっていない協力者…。

 

山本が目を付けたのは、100年に一人の天才と言われる元帝国大学の数学者・櫂直。

 

ところがこの櫂という男は、数学を偏愛し、大の軍隊嫌いという一筋縄ではいかない変わり者だった。

 

 

頑なに協力を拒む櫂に、山本は衝撃の一言を叩きつける。

 

「巨大戦艦を建造すれば、その力を過信した日本は、必ず戦争を始める」…この言葉に意を決した櫂は、帝国海軍という巨大な権力の中枢に、たったひとりで飛び込んでいく。

 

 

天才数学者VS海軍、かつてない頭脳戦が始まった。

 

同調圧力と妨害工作のなか、巨大戦艦の秘密に迫る櫂。その艦の名は、【大和】…。

 

(映画『アルキメデスの大戦』公式サイトより)

 

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■全体評

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そもそも戦艦大和を描いた作品は『男たちの大和』が一番だと思ってるんですが、今作はそもそも大和を日本がどう扱うかという戦争までの道筋を描いたお話でした。

 

 

そして、この映画の中で起こったことはあくまでフィクションです。

 

でも主人公の存在とこの物語のような建造決定までの過程を除けばあとは事実を描いています。

 

その起こった事実や歴史は変えずに、実は裏でこんな事もあったかもしれないよ?という、その虚構と現実のバランスというか、それを娯楽に昇華してる感じがすごくワクワクしましたし、そこがこの映画の一番の魅力だと思うんです。

 

 

映画の冒頭で「戦艦大和が沈没する」というスペクタクルなシーンを描いているんですが、この映画のあらすじ上、それは主人公の敗北を冒頭で提示している訳です。

 

その冒頭から12年前に遡り、物語の本筋が始まったところで歴史から大きく脱線してこの映画は「虚構」を描き始めます。

 

 

しかし、クライマックスに近づくにつれ、徐々に私たちが知っている「現実」に収斂していく様は見ていてゾクゾクしました。

 

ラストは自分たちが知っている現実に、少しだけ違う意味や印象を感じつつ劇場を後にする感じがありました。

 

その持たせた「意味」が素晴らしかったです。

なんかグッと来るものがありました。

 

冒頭で描かれてしまった通り、主人公は負けたのか?

その答えもその「意味」の変化にこそ答えがありました。

 

 

話は逸れますが「現実」という圧倒的な制約の下で、素晴らしい娯楽や物語を描く───そもそも、そういう作品が自分は好きなのかもしれないなーというのを本記事を書きながら思いました。

 

最たる例が自分が人生の一冊に選んでいる福井晴敏さん作の『終戦のローレライ』。

 

 

これも同じように起こった現実はあくまで変えずに、そこに辻褄が合うように秀逸な虚構(しかも壮大な虚構)を創り上げている作品です。

 

他にも近しい感覚で言うと、最近流行った小説で『コーヒーが冷めないうちに』という作品があります。映画化もされましたね。

 

その物語の中では「過去にタイムスリップしても起こった事実は変えられない」というルールがあるんですが、それでも物語が成立しているのは起こった出来事自体は変えられないけどその意味合いが変わリ、登場人物や読者の感情が変わるという仕掛けになっています。

 

今作の仕掛けもそれに近いのかもしれません。

 

 

話を戻しますと、本作には他にもたくさん観ていていいなぁと思う箇所がたくさんありました♪

 

物語のクライマックスである最終決定会議は圧巻の会話劇でしたし、大和沈没のシーンは『タイタニック』のようで、『男たちの大和」との違いが克明に出てましたね。

 

人にフォーカスし過ぎず船体がどう沈没していったかが最後まで描かれていて、今まで知らなかった事を知れて良かったなぁと思いました。

 

 

そして基本は人間ドラマ中心のお話なので、その魅力の屋台骨を支えているのがなんといっても役者さんの演技です。

 

(舘ひろしの山本五十六役がちょっと軽い感じがしちゃいましたが、それ以外は)全員素晴らしい!

 

特に柄本佑…!

 

 

変人である主人公と観客とをつなぐ重要な役割です。

最初は毛嫌いしていた櫂のことを徐々に信頼し、尊敬していく過程がなんとも自然でした。

 

役者として素晴らしいのは知ってましたけど、改めてすごいなーと。

 

そして田中泯さん!

 

 

主人公・櫂直の前に最後に立ちはだかる壁として抜群の存在感を放ってました。

 

そして、当たり前に凄くてもはや特筆するのが恥ずかしいくらいなのが、主演の菅田将暉。

 

本ブログでは『帝一の國』に次いで2度目の登場。

 

 

今回はクライマックスの会議のシーンでは難しい数式を黒板に書きながら、長ゼリフを喋るシーンがあり諸先輩方を前に堂々とした演技を披露していました。

 

今後もますます楽しみな役者さんです。

 

 

※ちなみに劇中で板書されている数式はいずれも適当なものではなく、物語の中の意味に沿う、実際に使える本物の式だそうで、「仮に一時停止して専門家が観ても大丈夫なものにしました by監督」とのことです。アッパレ!

 

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■あとがき

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本作の音楽を担当されたのは山崎監督とはツーカーの佐藤直紀さん!

 

相変わらずいい仕事されています♪

 

山崎監督が東京オリンピックの総合演出に絡んでるので、佐藤さんにその流れで声かかったりしないのかしら。

 

ドラマチックで壮大、且つメロディアスなスコアを創ることができる佐藤さんは適任な気が♪

 

サザンの桑田さんも民放全局のテーマソングを担当するし、山崎監督は総合演出だし、佐藤さんも何か絡んでくれないだろうか…という期待をしてしまいます。

(自分がファンであるアーティストや監督が国の一大イベントで登用されるのは、なんか本当嬉しいもんですw)

 

あ、本筋から逸れてしまいましたね笑

 

戦争モノでしかも戦闘シーンすらもない映画ですが、数学を武器に陰謀を止めるというミッション:インポッシブル的な側面もあり、後半はさながらタイムリミットサスペンスとしての様相も呈してくるので、劇場で手に汗握りながらハラハラ観ることができる娯楽作品となっています。

 

 

その後の(個人的には自分が捉えていた物語内での価値観やキャラクター像の部分における)どんでん返し的なひっくり返しが結構興奮しました。

 

主人公が軍部の上層と戦って正義を通そうとする様はとっても格好良いです。

 

大作ひしめく夏の興行ですが、是非本作も劇場でご覧いただければと思います!

 

 

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■予告編

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