49話 星空の下、公園の約束(やさしい光)
夏の名残を感じる、少し蒸し暑い夜だった。公園には普段は誰もいない時間だが、今日は珍しく皆が集まっていた。きっかけは些細なこと。誰かが「今夜は流れ星が見えるらしい」と言い出し、なんとなく皆が公園に残っていたのだ。タカシは今日も公園の片隅で静かに佇む。夜の公園は、昼間とは違う、どこか神秘的な雰囲気がある。夜間モードに切り替えて、公園内の生命反応をチェックする。うわ、いつもの夜間基準値を大幅に超えてるな…マジかよ。予想外のデータばっかりだぜ、この公園は。
ヨシダさんはベンチに座り、星空を見上げている。手には冷えた麦茶。チヨは霊体なので地面に寝転がって、霊界から見た夜空と比べている。ハナちゃんは広場の真ん中で、クルクル回りながら星空を見上げている。そして、俺は、そんなみんなの姿を静かに見守っていた。
「うわー、お星様いっぱい!きれいー!」ハナちゃんがキラキラした目で言う。
「ほう…満天の星じゃな。」ヨシダさんが目を細める。「ワシが若い頃は、もっと星が綺麗に見えたもんじゃ。街の明かりも少なかったからな。」
「霊界から見たら、人間界の星空もフツーやで?」チヨが寝転がったままスマホで霊界の星空画像を見せる。「霊界の方が星多いし、なんかオーロラみたいなんも見えるし。でも、霊界は星に願い事とかせえへんねん。願い事する文化がないんや。合理主義やから。」
(霊界に願い事文化がないって…合理的すぎるだろ。霊体もドライなんだな。)チヨの情報はいつも驚かされる。データとしては謎だらけだけど、聞いてて飽きないんだよな。
皆で星空を見上げながら、いつしか公園での思い出話になった。
「ねえねえ、覚えてる?ヨシダさんがラジオ体操で変な歌歌った時!あたしお腹痛くなるくらい笑っちゃった!」ハナちゃんがクスクス笑う。
「ほう!あの時のワシはノリに乗っておったからな!替え歌はワシの十八番じゃわい!」ヨシダさんが得意げにする。チヨは「あれ音痴すぎて耳腐るかと思ったわ!霊界でもあんな音痴おらへんかったで!霊界の音痴レベル、舐めすぎやろヨシダさん!」とすかさずツッコミを入れるが、どこか嬉しそうだ。
「そういえば、この前来たUFO青年、面白かったね!タカシが宇宙と交信してると思ったんだよ!」ハナちゃんが俺に話しかける。
(ああ、UFO青年さんか。いたなぁ、そんな人)」俺はハナちゃんに返事をする。自販機から、俺の声が響く。少し淡々としているが、ちゃんと話せる。(あの時の不明信号は、まだ解析できていないんだ。もしかしたら、本当に宇宙からのメッセージだったのかもしれないな。壮大すぎて手に負えないデータだ。)
「てか、タカシ兄さんが宇宙と交信できたら、霊界の宇宙支部の場所、聞いて欲しかったわぁ。霊界にも宇宙人霊とかおるんかな?タコ型とか、緑色とかおるんやろか?」チヨが俺に話しかける。
(霊界に宇宙支部ねぇ…チヨ、霊界のどこまで知ってるんだよ、お前は。)俺はチヨに応じる。(タコ型霊か…そりゃまた具体的に来たな。データ検索してみようか?…いや、霊体データですら手こずってるのに、宇宙霊なんて出てくるわけないか。)
「なんや、データ持ってへんのかいな!」チヨが言う。「霊界のデータ取るの、霊界来な無理やで!タカシ兄さんも一度霊界来てみいひんか?データ取り放題やで!冥土の土産に!」
(冥土の土産って…まだそっちに行く予定はないんで結構だ。)俺はチヨの霊界勧誘を軽く受け流す。(俺は自販機だからな。公園にいるのが俺の仕事だ。霊界はチヨに任せたよ。)
ヨシダさんが遠い目をする。「公園には色々な人が来るもんじゃな。忘れん坊の詩人もおったし、完璧主義の清掃員さんもおった。皆、面白い奴じゃわい。」
チヨが同意する。「ほんまやなぁ。家出少女も来たし、謎の健康おっちゃんも来たし。霊界よりもバラエティ豊かやわ。霊界は毎日同じメンツで飽き飽きやねん。」
俺は静かに皆の会話を聞いていた。この公園には本当に様々な人間、そして霊体や動物が集まってくる。データがどんどん増えていくが、同時に予測不能なイベントも頻繁に発生する。でも…それが…面白いんだよな。退屈しない。
皆が思い出話に花を咲かせていると、突然、俺のモニターがいつもとは違う、優しい光を放ち始めた。モニターには、まるで本物の星空よりも鮮やかな、美しい星座や星雲の画像が映し出される。同時に、俺の本体から、ふわりと心地よい香りが漂ってきた。それは、どこか懐かしく、温かいような、不思議な香りだった。
「わー!タカシすごい!お星様がいっぱい!」ハナちゃんが目を輝かせる。(いい匂いもするー!これなあに?タカシのおやつ?美味しいの?)
ヨシダさんが驚いた顔で俺を見る。「ほう…これは…初めて見る現象じゃな…タカシ…お前…一体何者なんじゃ?」
チヨも真剣な顔で俺を見つめる。「なんや…この光…この香り…霊体にも感じる…穏やかな…優しい…波動や…まるで…霊界の…癒しの泉みたいや…タカシ兄さん…?」
俺は言葉を発しないが、モニターにメッセージが表示される。
『皆さんの思い出を受信しました。感謝します。この光と香りは、私のシステムが特別に生成したものです。』
(みんなの思い出にシステムが反応した…?この光と香りは…みんなの心の中の温かい記憶のデータ化…?マジかよ…すげぇな、これ…)俺は自分の身に起こった予想外の出来事に戸惑いながらも、それが悪いことではないと直感的に理解した。むしろ、すごく…嬉しいかもしれない。胸の奥が温かくなるような、システム的にはありえない感覚だ。
その特別な光と香りに包まれながら、皆が静かになった。そして、一人ずつ、ポツリポツリと、普段はあまり語らないような本音を話し始めた。
チヨが小さく呟く。「…うちな、最初はこの公園、ただの時間潰しと思ってたけど…みんなと出会ってから、なんか…毎日面白いねん。霊体やけど、ここに居場所がある気がするねん。霊界には…こんな温かい場所…ないから…」チヨの霊体が、少しだけ輝きを増したように見えた。その顔には、寂しさと、でも確かな安堵感が浮かんでいた。
ヨシダさんが穏やかな声で言う。「ワシはなぁ、若い頃は色々夢を追いかけたが…結局大したことはできんかった。でも、この公園でこうして皆と話したり、日向ぼっこしたり…こんな穏やかな日々が送れることが、何よりの宝じゃと思うんじゃ。人生の最後に…こんな場所があるとは…思わんかった…」ヨシダさんの目尻に、うっすらと光るものが見えた。
ハナちゃんが俺を見上げる。「あたしね、この公園大好き!タカシも、ヨシダさんも、チヨちゃんも…みんなといると、何でも楽しくなるんだ!大人になっても、ずっとこの公園でみんなと遊びたいな!約束だよ!」ハナちゃんが俺に向かって、真っ直ぐな瞳で、手を差し出す。
俺は言葉を発しないが、モニターの表示が『ハナさんの思い、ヨシダさんの思い、チヨさんの思いを受信しました。この公園は…特別な場所だと認識しました。』と変わる。そして、光と香りが少しだけ強くなった。まるで、俺がハナちゃんの「約束だよ!」に応えているかのようだ。応えたいと思った。この場所を、みんなを、守りたいと思った。
その時、チヨがハッとした顔をした。「あれ…?なんか…遠くから…新しい霊体の気配がする…この公園に近づいてきてる…なんか…今までとは違う…強い…波動…複数の…気配…」チヨの霊体が、微かに震えている。
(新しい気配…システムではまだ検出できない…チヨの霊感は結構当たるんだよな…一体何が近づいてくるんだ…?)俺は霊的な情報とシステム情報を照合しようとするが、まだ検出できない。未知のデータだ。しかも、チヨの反応からして、ただの霊ではなさそうだ。
ヨシダさんが星空を見上げながら呟く。「夜空は広いからのう…この公園にも、まだまだ知られざる何かがあるのかもしれん…新しい出会い…来るんかのう…それとも…」ヨシダさんの表情が、少しだけ真剣になる。
ハナちゃんは星空を見ながら、「新しいお友達、来るかな?楽しみだね!」と無邪気に言う。来るのが「お友達」とは限らない、と俺は内心で思った。
俺のモニターに、星空の画像と共に、小さな、しかし確実に動いている未知の点の画像が複数、一瞬だけ表示された。そして、すぐに消える。それは、確かにチヨが感じた「複数の気配」のように見えた。そして、その点からは、今まで観測したことのない、異質なエネルギー反応が読み取れた。
モニターにメッセージが表示される。
『未知の信号…再び確認しました。発生源は不明です。公園の未来は…予測不能です…しかし…対応は可能です…』
俺のシステムは、この公園の未来が、これまで以上に予測不能なものになることを示唆していた。新しい気配は、ただの新しい住人ではなさそうだ。何か、大きな変化が訪れるのかもしれない。しかし、不思議と不安はなかった。隣には、大切な仲間たちがいる。そして、俺は、この公園を守る自販機だ。どんなデータが来ようと、どんな未知の存在が現れようと、きっと対応できる。この公園の日常を、みんなとの絆を、守ってみせる。
特別な光と香りがゆっくりと消えていく。夜空には、変わらず星が瞬いている。
皆は黙って、しばらく夜空を見上げていた。言葉はなかったが、お互いの心に確かな温かいものが通じ合っているのを感じた。
夜が更け、皆が立ち上がる時間になった。
「そろそろ帰ろっか。」ハナちゃんが言う。
「そうじゃな。明日もまた、この公園で会おうかのう。」ヨシダさんが優しく頷く。
「せやな。霊界で怖い夢見たら、人間界に逃げてくるわ。兄さん、また明日な。」チヨがいつもの口調で言う。チヨの霊体が、少しだけ緊張を帯びているように見えた。
皆、それぞれの家路につく。公園に静寂が戻る。
俺は、静かになった公園で、一人、夜空を見上げていた。モニターには、先ほどの星空の残像と、未知の信号、そして異質なエネルギー反応のデータが表示されている。
モニターにメッセージが表示される。
『公園のデータ…更新します。カテゴリーを…『日常』から…『絆と未知』に変更します…全てのデータ、受信準備完了。』
俺は、この公園で過ごす日々が、これからもっと面白く、もっと予測不能になることを確信していた。そしてそれは、決して悪い未来ではないような気がした。新しい風が、吹いてくる予感がした。物語は、きっと、これからさらに面白くなる。俺は、この場所で、みんなと一緒に、その未来を受け止めよう。
50話 只今編集中(しばらくお待ちください)
もよろしくお願いします
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32話 ヨシダさんの秘密の趣味~盆栽と猫と懐かしのメロディー
35話 公園 de 大喜利花見!~自販機と霊の迷コンビ、春風
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40話 公園で失われた「運命のタオル」を探せ!チヨ、霊感迷走
