5話自動販売機、意識あり
「……真っ暗だ。」
タカシは、意識が戻った瞬間にそう思った。全身を包む金属の冷たさと、動けないという現実。相変わらず、ここは公園の片隅にあるジュースの自動販売機の中だ。
(何度やっても慣れねぇな、この状況。せめて、最新のゲーム機に転生してくれれば、暇つぶしできたのに!)
雨上がりの公園は、どこか清々しい。水たまりがキラキラと光り、鳥たちが気持ちよさそうにさえずっている。タカシは、そんな平和な光景を眺めている。
(…って、平和すぎるだろ! なんか、もっとこう、刺激が欲しいっていうか、誰か俺を助けに来てくれねぇかなー。)
すると、タカシの視界に、妙に見覚えのある顔が現れた。少し年配の女性、サチコさんだ。彼女は、タカシのいる自販機をじーっと見つめている。
(あれ? この人…絶対、俺のこと知ってる! 昔、よく一緒にゲームセンター行ってた…気がする…いや、違うか? 誰だっけ…)タカシの脳内が、一気に混乱する。
サチコさんは、自販機の前で立ち止まり、まるで何かを拝むように手を合わせたり、自販機に話しかけるような仕草をする。
「あら、あなた、元気そうねぇ。最近、ちょっとやつれたかしら?」
タカシは、心の中で(俺、元気も何もねぇよ! ただの鉄の塊だって! 誰だよ、俺をこんな風に思ってるのは!)と叫ぶ。
サチコさんの気を引こうと、タカシは、ありったけの「力」(バグ)を使って、様々なジュースを排出する。
まずは、なぜか南国風のイラストが描かれた、見たこともないトロピカルジュースが出てくる。タカシの記憶の断片に、(学生時代の修学旅行でハワイに行ったような…かすかな記憶があったような気がする。)
「あらまあ! 珍しいわね! あなた、南の島がお好きだったのかしら?」サチコさんは、目を輝かせる。
次に、なぜか「激辛!〇〇味」と書かれた、真っ赤な液体が入った缶ジュースが落ちてくる。タカシの過去の食生活は、(カップ麺とジャンクフードまみれだった…ような…?)
「あら、辛いものがお好きだったのね! 昔から変わらないわねぇ!」サチコさんは、懐かしそうに目を細める。
最後には、なぜか大量の、色とりどりのガムが飛び出す。「プシューッ!」という音と共に、まるで噴水のようにガムが溢れ出てくる。
「あらまぁ! こんなにガムが好きだったかしら? 昔、いつも噛んでたものねぇ。」サチコさんは、出てきたガムを一つ取り、懐かしそうに噛み始める。
タカシは、心の中で(おいおい、俺の記憶、一体どうなってんだ!? 昔の俺、そんなにハワイ好きで、激辛好きで、ガム狂いだったのかよ!)と、自分の過去像に困惑する。
「やっぱり、あなたね…」サチコさんは、感慨深げに自販機を見つめる。「大きくなったわねぇ…」
タカシは、自分の正体が全く見当もつかないことに、頭を抱える(もちろん、物理的にはできない)。
(…待てよ。あの時の俺、髪の毛茶色かった気がするぞ…今の俺は、ただの金属の塊だ…)タカシは、現実と記憶の断片のギャップに混乱する。
「あなた、昔、この公園でよく遊んでた、うちの息子の…」サチコさんが、感極まったように話し始める。
(え? 息子…? 俺が…?)タカシは、自分の過去が全く予想外の方向へ向かっていることに驚愕する。
ハナちゃんが通りかかり、「あのおばさん、何か変だよ。」と、小声で友達に話している。
サチコさんは、「あら、そうかしらねぇ…この自販機、なんだか息子の面影に似てる気がして…」と、照れくさそうに言う。
タカシは、心の中で(…面影? 鉄の塊に面影もクソもあるか!)とツッコミを入れる。
その時、ヨシダさんが現れた。「どうしたんだべ? 騒がしいなぁ。」
サチコさんは、事情を説明する。「あら、この自販機が、亡くなった息子の面影に似ててねぇ…つい話しかけちゃうのよ。」
ヨシダさんは、それを聞いて「ふむ…最近の機械は、人の心を惹きつけるようにできてるのかもしれんなぁ。」と、またしても的外れなことを言う。そして、「わしも、最近、孫の顔を思い出せなくて困ってるんじゃ…」と、自分の話にすり替える。
タカシは、心の中で(…結局、ただの勘違いかよ! 期待した俺がバカだった…)と、肩を落とす、もちろん、物理的にはできない。
サチコさんは、最後に自販機に優しく話しかけ、「また来るからね。」と言って、公園を去っていった。
タカシは、静かに空を見上げる。
(…にしても、あの青いジュース、一体何だったんだ…? 次は、あれをもう一回出してみるか…? 誰か、また喜ぶかもしれないしな。)
タカシは、そう思いながら、明日の公園での出来事に、ほんの少しの期待を抱くのだった。
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