翌日、タカシは公園のいつもの場所にいた。相変わらず動けねぇ。相変わらず喋れねぇ。ただ、昨日ハナちゃんが喜んでた青いジュースのこと、頭の片隅に残ってんだ。
「ったく、一体何だったんだ、あの青い液体は…俺、そんなもん売ってた覚えねぇんだよ。」
すると、近くで子供たちの声が聞こえる。「ねえ、あの自販機、なんか変なジュースが出るんだって!」
「えー、ほんとー? 飲んでみたい!」
ハナちゃんが友達に、昨日の出来事を興奮気味に話してる。「あんだ、あれ美味しかったんだって!」
「…まあ、悪いことじゃねぇのかもな。」
その時、いつも公園のベンチで新聞読んでる、ヨシダさんというおじいさんが近づいてきた。ヨシダさんは、ゆっくりとした足取りで歩きながら、自販機の前で止まった。
「やっぱ今日も暑いなぁ…冷たいもんでも買うべが。」
ヨシダさんは、ポケットから小銭入れを取り出した。年季の入った革製で、ちょっとくたびれてる。ヨシダさんは、小銭を一枚一枚、指で数えながら、お金を入れようとする。
「…ん?」
ヨシダさんの手が震えてるのか、なかなか小銭がうまく入らねぇ。何度か試みるが、ポロリと地面に落としてしまった。
「あーあ…もう、目が悪くなって困ったもんだべした。」
ヨシダさんは、ゆっくりと腰をかがめ、地面に落ちた小銭を拾おうとする。だが、その動きはぎこちなく、なかなか手が届かない。
タカシは、心の中で「おいおい、そんなに腰曲がってたら小銭拾えねぇべした!」と叫んだ。見てて、もどかしい。
「…何か、してやりたいけど…何もできねぇんだよな、俺は…」
ヨシダさんが諦めかけたその時、自販機の中から「ガタン」という音が聞こえた。
「ん? なんか出たか?」
ヨシダさんが顔を上げた。すると、いつもと違う、ちょっと古びたデザインの缶コーヒーが、商品を取り出すとこに落ちてきたんだ。
「あれ? サービスかいな? ありがたいこった。」ヨシダさんは、不思議そうに缶コーヒーを手に取った。
タカシは、心の中で「またバグか! 今度はコーヒーかよ! しかも、なんで東北弁なんだよ!」と叫んだ。彼は、自分の意思とは関係なく、少しばかりヨシダさんを助けてしまったことに気づいた。
ヨシダさんは、缶コーヒーをじっくりと眺め、「ふむ…こりゃ、ありがたいなぁ。助かったべした。」と呟き、ゆっくりと口元に運んだ。一口飲むと、心底ホッとしたような顔になった。
「ふう…生き返るわい。助かった、ありがとな、自販機さん。」
その様子を見て、タカシは不思議な気持ちになった。自分の意図しない行動が、誰かの役に立ったのだ。
その日の午後、ハナちゃんがまた公園にやってきた。
「あっ! 自販機のおじさん!」
ハナちゃんは、タカシに向かって話しかけてくる。タカシは、心の中で「おじさんじゃねぇって! まだ20代だっつーの!」とツッコミを入れる。
「ねえ、あの青いジュース、美味しかったよ! また出るかな?」
ハナちゃんの純粋な問いかけに、タカシは「もう出ねぇよ、あれはただの偶然だって!」と心の中で返した。
「…どうかな?」
タカシは、ただそう思うしかなかった。
それから数日後、ヨシダさんは、以前よりも少しだけ朗らかな顔で公園に現れるようになった。時々、タカシのいる自販機の方を見て、にこりと笑う。
「あんだ、元気そうでなによりだべした。」
タカシは、その言葉のない挨拶を受けながら、少しだけ心が温かくなるのを感じた。
ある日、ハナちゃんが、タカシの前に小さな野の花をそっと置いていった。それは、ハナちゃんの小さな手で摘んできた、可愛らしい紫色の花だった。
タカシは、その花を見つめた。動けない自分に、こんなことをしてくれる人がいる。言葉は交わせないけれど、確かに繋がりが生まれている。
「…またな。」タカシは、心の中で静かに呟いた。
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