マイケル・ダイアリー(1974) | CAHIER DE CHOCOLAT

マイケル・ダイアリー(1974)

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1974年は『ホーリー・グレイル』と『空飛ぶモンティ・パイソン』第4シリーズの年。パイソンたちは色々と複雑な思いでもあったようですが。


マイケル・ペイリン 『The Python Years: Diaries 1969 – 1979, Volume 1』より。

so far: 1969, 1970, 1971, 1972, 1973

after this: 1975, 1976, 1977, 1978, 1979


4月6日(土)

(前略:昼食後にグレアムとエリックがきて第4シリーズのミーティング。テリーJ&Gは『ホーリー・グレイル』で忙しいので、ほとんど3人で書くことになるのではないかという話になる)

 日なたでミーティングをしたあと、エリックはお風呂に入るためにうちに残った(というのも、先週、彼の家のお風呂が爆発して、半壊してしまったから! 消防と警察が駆けつけた。エリックが言うには、かなりスケッチみたいだったようで、消防士たちが客間でお茶を飲んでいたらしい!) ヘレンと僕は、容赦なく常に活発な少年たちを長い間延ばし延ばしになっていたハムステッド・ヒースへの散歩に連れていった。トーマスは、パーラメント・ヒル・フィールズ・アスレチックス・トラック(パーラメントヒルの陸上競技用トラック)を拡張した場所に掘り出された土でできた巨大な山の中から、陶器のかけらを探し続けていた。彼は家に帰ったら自分の博物館を始めるに違いない。


客間でお茶する消防士たちはほんとスケッチになりそう。“Lifeboat(パーカー通りは海の上)”スケッチのキッチンでお茶する救助艇の乗組員たちを思い出してしまった。土の中を掘るトーマスの気持ちはわかります。私は空き地や砂場で楽しく貝がらを掘り出してました。博物館はオープンしたのでしょうか。


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4月30日(火)バラクーリッシュ

(前略)

ガラハッドのブロンズのウィッグについての難しい決断。気高く若々しいというよりも、スーパーマーケットで働いている人みたいに見える。ブロンド・ガラハッドは終了。

(後略)



ガラハッドがブロンドだったら……想像もできません。間違いなく、ガラハッドは長めの黒髪だから「気高く若々しい」んです。この時の判断は正しかった! あと、この日の日記は『The Pythons Autobiography by The Pythons』にも一部掲載されています。日記のほうにはグレアムが言っていたことについての註があったので、ここに書いておきます。

■エセル・デ・ケイザー(1926~2004):南アフリカの反アパルトヘイト活動家。

■ベティ・マースデン(1919~98):『Round the Home』(*BBCのラジオコメディ)や映画『Carry On Henry』シリーズで知られる女優。なぜグレアムが彼女の名前を選んだのかはわからない。彼女は「ジンのグラスを手にして死ねたら」と言っていたことがあるので、たぶんそのためだろう。


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5月20日(月)

(前略)

 夜中の12時。バスタブにつかっていると、遠くのほうで叫び声が聞こえた。「僕はこれから寝ます。だけど、必ずしもひとおおおおおりで寝ないといけないことはないんです」 通路にいるDr チャップマンだ。彼はそのフレーズを3回くり返す。くず鉄を売っている人みたいに。そして、その声は廊下に沿って遠くへと消えていった。


「くず鉄を売っている人」というと、逆ですが、“Mr Neutron(ミスターニュートロン)”のオープニングの「くず鉄を回収する人」を思い出します。なんにしてもグレアムの珍行動についてのマイケルの描写はほんとに毎回おかしい。グレアムには申し訳ないけど。


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6月12日(水)サウスウォールド

(前略:朝、両親を訪問して、その後、一緒に昼食を取る)

 ベネーカー教会とヘンステッド教会を訪れて、それからウェンハストンに向かった。陽の当たるサフォークの小道を通り抜ける。青々と茂った緑の田園地帯が道の両脇をほとんど覆ってしまいそうなほどになっていた。6時頃、ハーバー・イン(*パブ)に到着。海の上のほうの空は完璧にくっきりした紺碧で、サウスウォールドはたった今包みを開いたばかりのプレゼントのように真新しく、素晴らしく見えた。


「たった今包みを開いたばかりのプレゼントのように真新しく、素晴らしく」……なんて素敵な表現なんでしょうか。サウスウォールド、ぜひGoogleマップで見てみて下さい。私は海岸沿いの道をひとしきり歩き回ってしまいました。


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7月3日(水)
突風と叩きつける雨とすべてを覆う霧雨で、どんよりした灰色の朝。急に5月と6月上旬の晴れた日が何光年も遠くにいってしまったように感じる。でも、仕事に精を出すにはいい。9時15分に仕事を始めて(パイソンの新しいテレビシリーズ)、昼食の時間までには“The Golden Age of Ballooning(気球の黄金時代)”をタイプし、29ページの脚本をまとめた。これだけで30分ぶんになる。ほぼ全部自分で書いたみたいなものなので、かなり満足感がある。
 この満足感ある朝が過ぎ、元気づけるかのように日差しが少し現れてくると、車で出かけて、ドリュー・スミス(『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』のスチルカメラマン)のところで映画のモノクロ写真に目を通し、一通り選んだ。それから、グレアムに会うためにハイゲートのエンジェル(*パブ The Angel Inn)に行った。グレアムは君主のようで、パブを経営している人たちと家族同然の関係性を構築している。それがとてもいい雰囲気を作っていて、ほとんどいつもドリンクはタダになる。グレアムGと僕が一緒に書いた“Michael Ellis(マイケル・エリス)”の脚本に目を通した。いいアイデアがいくつかあって、僕は声を上げて笑った。共同執筆の有用性にも気づかされた。朝のあの幸福感のあとに! “Michael Ellis”の脚本には、ひとりで書いていたら絶対にこんなにおもしろくはならなかったというジョークやアイデアがある。
 家に帰ると、トーマスの調子があまり良くなさそうで、ソファの上でラグをかぶって寝ていた。このことにかなり戸惑っていたウィリーは一生懸命自分も病気になろうとして、かなり説得力なく、ほかのソファの上でブランケットをかぶって横になった。
 結局、僕はW(ウィリー)を泳ぎに連れていった。そこで1時間過ごした。Wをあちこち連れて回るのはほんとうに楽しい。彼はみんなに話しかける。特にシャワー中の男性に。そして、まったく知らない人に自分のおしっこの最新の進行状況やパパがどのようにしてトランクスを履いているかなどについての実況解説をする。


この日の日記は色々盛りだくさん! まず、“The Golden Age of Ballooning”はほぼ全部マイケル作、と。あのスケッチはモンゴルフィエ・ブラザーズのパートのエンディングが特に好きです。The Angel Innはマイケルが書いているとおり、グレアムの行きつけだったお店で、グレアムのブルー・プラークがある場所でもあります。私は2019年にロンドンに行ったときにまあまあ近くにいたのに、その時はパイソンズのことを好きになる前なので当然のことながら行っていません! ニールズヤードでもパイソンズのブルー・プラークを見てるわけもないし、ロンドン動物園とその周辺は『The Odd Job』のロケ地でもあったのに。まあ仕方がない。次は絶対に行くぞのお楽しみ。“Michael Ellis”は大好きなスケッチ。マイケル&グレアム作なんですね。そして、この日は弟のウィリー(ウィリアム)です。これまでおもしろいのはだいたいトーマスだったのですが、ウィリーも大きくなってきておもしろくなってきました。彼のこの行動で、「あちこち連れて回るのはほんとうに楽しい」というマイケルもさすがに素敵。




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ORIGINAL:
MICHAEL PALIN “The Python Years: Diaries 1969 – 1979, Volume 1”

Saturday, April 6th

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ᅠᅠAfter our meeting in the sunshine, Eric stayed on here to bath (for his bathroom has been half-demolished by a gas explosion last week! Firemen and police rushed round. Eric said it was rather like a sketch – with firemen drinking cups of tea in the sitting room!) – Helen and I took our relentlessly energetic boys for a long overdue walk to the Heath. Thomas kept finding pieces of china in the huge piles of earth dug up where they’re enlarging Parliament Hill running track. Promised to start a museum for him when we got home.


Tuesday, April 30th, Ballachulish

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Difficult decision over Galahad’s blond wig. Instead of noble and youthful, I look like I should be serving in a supermarket. End of Galahad as a blond.

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■Ethel de Keyser (1926-2004), South African anti-apartheid campaigner.

■Betty Marsden (1919-98). Actress on Round the Home and in Carry On films. Why Graham chose her name I don’t know. She had once expressed a wish to die with a glass of gin in her hand, so maybe that was it.


Monday, May 20th
 
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ᅠᅠ12.00 midnight: whilst soaking in my bath I hear a distant shout. ‘I’m going to bed, but I don’t necessarily have to go to bed alo-o-one.’ It’s Dr Chapman in the passage. He repeats the line three times, like someone selling scrap iron and it recedes along the corridor.


Wednesday, June 12th, Southwold

(…)

ᅠᅠWe visited Benacre Church, Henstead Church and then on to Wenhaston – through sunlit Suffolk lanes, with lush green countryside almost overgrowing the road on either side. Ended up at the Harbour Inn about six – the sky was a perfectly clear azure blue above the sea – Southwold looked clean and brilliant, like a newly-unwrapped present.


Wednesday, July 3rd
A grim, grey morning with gusting winds and bursts of rain and general drizzle. Suddenly the sunny days of May and early June seem light-years away. But it’s good for application. Started work at 9.15 [on new Python TV series] and by lunchtime had ‘The Golden Age of Ballooning’ typed and organised into a twenty-nine-page script, which could do as a half-hour on its own. Feel rather pleased, as it is almost entirely my own work.
ᅠᅠWith this satisfactory morning behind me and even a little sunshine peering through to cheer the day up, I drove over and looked through Drew Smith’s black and white stills from the film, and selected a batch. Then up to the Angel at Highgate to meet Graham. As at the Monarch, Graham has developed an almost familial relationship with the people who run the pub, which makes for a very pleasant atmosphere and nearly always a free drink. I looked through the work on the ‘Michael Ellis’ script which G and I had worked on together. Some good ideas there – and it made me laugh. Also made me aware of the usefulness of co-writing, after my euphoria of the morning! There are just jokes and ideas in the Michael Ellis script which I would never have made as funny if I had been writing it on my own.
ᅠᅠCame back to find Thomas not well and asleep under a rug on the sofa. Willy, quite disconcerted by this, was trying hard to feel ill himself, and lay, rather unconvincingly, on the other sofa, under a blanket.
ᅠᅠI took W swimming in the end. We spent an hour there. W is a real joy to take around. He talks to everybody, especially men in showers, and gives complete strangers a running commentary on the progress of his latest wee, and how Daddy is wearing trunks, etc.



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No copyright infringement intended.