マイケル・ダイアリー(1979) | CAHIER DE CHOCOLAT

マイケル・ダイアリー(1979)


1970年代最後の年。グレアムはアメリカに引っ越してしまったので、グレアムのおもしろエピソードはあまりなくて(残念)、ジョンとのエピソード多めな印象。『Holy Flying Circus』で描かれていたテレビ出演の日のこともくわしく書いてあった。子どもたちの話がとにかく楽しい。

マイケル·ペイリン 『The Python Years: Diaries 1969 – 1979, Volume 1』より。

so far: 1969, 1970, 1971, 1972, 1973, 1974, 1975, 1976, 1977, 1978


1月13日(土)

(前略)

 レイチェルの誕生日パーティが3時30分に始まる。6~7人の子どもたち。アリソンがサリーを連れてきた(*テリーJの妻&娘)。みんなまだパーティがとてもわくわくする、かなりの新体験という年頃。ウィリーは彼らを楽しませようとして、優しいおじさんみたいにモンスターを演じたりしていた。途中、ウィリーがパペットショウを見せるためにみんなを2階へ連れていくのを見かけた。でも、5分もしないうちにみんなまた下に降りてきた。残念ながら、ほんとうに見たいと思っていたのはサリー・ジョーンズだけだったと知ることになったウィリーを残して。


気の毒だけど、おもしろいウィリー。でも、サリーだけは彼のパペットショウを見たかったというのは、さすがマイケル&テリーの子どもたち……!


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3月28日(水)スキプトン
いつものように早く目覚める。とてもたくさんの思考が頭の中を流れていく。『(リッピング・)ヤーン』にはやる気だけでなく、スタミナも必要だ。恐ろしく活発な馬をコントロールして前に進めていく御者みたいな気分。50~60名のクルー、エキストラ、ビル・F(・フレイザー)、ジョン・C(クリーズ)、デヴィッド・リーランド、グウェン(・テイラー)といった俳優陣。引っぱって、正しい方向へ進めなければならない自我がたくさんある。そして、その重みはすべて完全に僕にゆだねられている。全部のパーツをひとつにまとめるのは僕なのだ。あと3~4日、がんばろう。
 ジョンとブロンテ・ストリートで一緒にやるのはとても楽しかった。彼は1930年代の服と幅広のフェルトの帽子が似合う。良いユーモアでいっぱいの楽しい雰囲気。ブロンテ・ストリートを片づけて、6時にはそこでの撮影は終えた。


確かに、『リッピング・ヤーン』は全体に統一感はあるものの、ひとつひとつのエピソードは完全に独立した話。セットや衣装も1回ごとに変わるのでたいへんだろうなと思いました。それ以上に、出演する俳優さんたちが毎回違うというのはほんとうにたいへんなはず。ジョンがちらっと出演しているのは、シリーズ2 エピソード2の“Golden Gordon(執念のゴードン 涙のサッカー物語)”です。


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4月27日(金)

(前略)

 家に帰ると、ベビーシッターのケリーがジョン・クリーズからの電話を受けていた。“Good Food Guide”も持ってないのに、ハルから動けなくなっているらしい! ケリーは彼のために本を見て、どこか見つけてあげなければならなくなっていた。運の悪いことだ!


“Good Food Guide”はイギリスのレストランガイド。今みたいにアプリもない時代、知らない土地だとガイドブックは必要ですよね。マイケルの家のベビーシッターがジョンからのこんなお願いごとに対応しているなんて、家族ぐるみ(?)すぎて笑ってしまう。


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5月27日(日)
増築されたテート・モダンを見に、母さんを連れていく。今回は(マーク・)ロスコが展示されている部屋を楽しんだ。しばらくすると、ずっとだまっていた母さんがかなり訴えかけるような感じで言った。「出る前に、いい絵を見にいきましょうよ?」
 サンデーランチのために家に戻って、それから、にわか雨の合間に動物園へ出かけた(ウィリー以外のみんなで。彼は残酷だと言ってこなかった)。


マイケル母、いいですねぇ……! マーク・ロスコはアメリカの抽象画家。検索してみるとマイケルのお母さんのことばの理由がわかるかも……そして、さらっと安定のおもしろさのウィリーです。


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6月8日(金)
今あるフィルムをもとにした『リッピング・ヤーン』の長編映画のアイデアが僕の中で明確になってきている。BBCエンタープライズのジョン・ハワード・デイヴィスとブライオン・パーキンに草案を送らなければならない。
 晩はヘレンとウィリーと一緒に、ゴスペル・オークのコンサートでトムがリコーダーを演奏するのを見にいった。オーケストラと合奏隊が大人数で、観客はうしろのほうにぎゅうぎゅう詰めだった。適度に笑いもあった。子どものひとりが“Variations on Theme of a Lark Song”を演奏しますとアナウンスした直後、誰かオーケストラのうしろで具合が悪くなっていた。大量のヴァイオリンとリコーダーによる“Hava Nagila”は素晴らしくばかげていて、同じ曲のパイソンのバグパイプ・バージョンはやはり知られていないままではいけないと思い出させられた。


“Hava Nagila(ハバ・ナギラ)”の「パイソンのバグパイプ・バージョン」は『ライフ・オブ・ブライアン』のサントラの1曲目“Introduction”のことだと思います。映画内でもテリーJ演じる隠遁者が歌っています。この曲はテリーG監督の『未来世紀ブラジル』のレストランで爆破テロが起こるシーンでもシュールに演奏されていました。


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6月16日(土)
午前中、自転車を買いにいく。トムとウィリーに1台ずつ。ふたりはゴスペル・オーク周辺でサイクリングするのを完全に楽しめるようになっている。もう1台はヘレンと僕が家の用事で馬車馬のように使うために。たっぷり入る藤のかごを前に、レイチェルを乗せる用のチャイルドシートをうしろに備えつけて、戦車のようになった。

(後略)


自転車かごはやっぱり藤ですよ。まったくの余談ですけど、私は中学生の時に買ってもらった1台の自転車に歴代3種類の藤かごをつけ替えて、ずっと乗っていました。その時々のニーズによってサイズやフタの有無を変えるのも楽しかった……とそんなことを思い出したり。このペイリン家の自転車はとても良い買い物だったことがのちに判明します。


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6月18日(月)
新しい自転車でレイチェルを学校に迎えにいく。家に帰るまでずっと彼女は声を上げて笑ったり、くすくす笑ったりしていた。縫製工場のそばや線路の下の、でこぼこで穴だらけの道を通ることになるからだ。間違いなく良い買い物をした。
 昼下がりにクリーズがやってきた。小柄でスリムな、きりっとした感じの小さな顔をしたスザンヌという名前のガールフレンドと一緒だった。
 庭に座って、ジョンは果物を食べながら、来週のアムネスティのショウでいくつかのスケッチをしようと言ってきた。ものすごくわくわくするというほどのものではない。“Custard Pie Lecture(カスタードパイ)”をまたやる。“Cheese Shop(チーズショップ)”は楽しみだ。


楽しそうなマイケルとレイチェルの姿が目に浮かぶようです。しかし、この時すでに大スターだったはずのマイケル、自転車で学校のお迎えにいくとかもう素敵すぎる可愛すぎる! ジョンはこの前の年にコニーとの10年間の結婚生活にピリオドを打っていて、その後2年間くらいは落ち込んでいたんだそうです(BBCのラジオ番組“Desert Island Discs”でジョンが話していました)。


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10月6日(土)

(前略)

 トムと数人の友だちを11歳の誕生日の前祝いに連れていくと約束していた。サウス・ケンジントンへ車で行って、自然史博物館(見る価値のある生態学の展示がある)を訪れ、それから、パーク・レーンのWolfe'sへ高価なハンバーガーを食べにいった。子どもたちは大喜びで、すべてがなんと高いかをみんなに聞こえるような大きな声で僕に伝えていた……「うわー! コカコーラが50ペンス!」、「お店なら1缶買えるよ……」などといったように。ヤング・カスタマーズ・クラブ(若者顧客会)みたいだった。


今度はトムと彼の友だちとお出かけ。自然史博物館は私も大好きな場所です(私は生態学のこととかよくわからないので、単に好きで居心地が良いというだけですが)。Wolfe’sは、コヴェント・ガーデンのレストラン“Wolfe's Bar and Gril”だとしたら、現在は閉店してイタリアンレストランになっているみたいです。


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11月23日(金)
8時10分に起きる。家を9時15分に出て、執筆セッションのためにJCの家に車で行く。
 タイムズ紙にフィンチリーのアロットという男性から、とてもお怒りの罵倒の手紙が届いていた。明らかに『ライフ・オブ・ブライアン』が気に入らないようだが、観たことはないという。タイムズ紙に「僕たちはアロット氏にお目にかかったことはありませんが、彼が気に入りません」というパイソンからの返事を送ろうと提案した。

(後略)


この手紙、実際に送られたのでしょうか。とてもパイソンな反応で大好きです。


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12月31日(月)
1970年代の最後の日。澄み渡るようにからっと晴れていて、寒い。とりあえずギリアムの映画の音声収録の仕事に間に合うように起きる。それから、11時30分のサフォーク行きの列車に乗るおばあちゃんをゴスペル・オーク線のブロード・ストリート駅に連れていく。ハムステッド・ヒースに戻る途中、この上なく陽気な黒人の集札係が、素晴らしい気さくさで16ペンスの追加料金をなしにしてくれた。「ハッピー・ニュー・イヤー」と彼は大きな声で言った。『クリスマス・キャロル』の最後みたいだった!
 晩に友人たちがやってきて、テイクアウトの中華料理を食べて、ゲームをして、BBC TVの1970年代のお粗末な総まとめを流し見した。夜中のストライキと1980年代最初の鐘の音と酔っ払って箱の上に乗ったスコットランド人たちのお決まりの喝采を同時に聞きながら、みんなでお祝いの写真を撮って、何が起こっても、もちろん死神が仕事したときは別として、1989年の12月31日に一緒にこの写真を見ようということで同意した!


なんて素敵な大みそか! すべてのディテイルが素敵だ。1989年の12月31日、どうなったか次の日記で読むのを楽しみにしておきたいと思います。チートして最初に最後を読まないようにするのがたいへんだけど!




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ORIGINAL:
MICHAEL PALIN “The Python Years: Diaries 1969 – 1979, Volume 1”

Saturday, January 13th

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ᅠᅠRachel’s birthday party got under way at 3.30. Six or seven children. Alison brought Sally. They are at the age when a party is still very exciting and quite a new experience. Willy helped to entertain them – playing monsters in a very avuncular fashion. At one point I saw him leading them all upstairs for a puppet show. But within five minutes they were down again, leaving Willy sadly reflecting that only Sally Jones had really wanted to watch.


Wednesday, March 28th, Skipton
Wake early as usual. So many thoughts streaming through my head. Filming a Yarn requires not just enthusiasm but stamina. Feel like a coachman controlling fiercely energetic horses, straining to go forward – a crew of fifty or sixty, extras, actors like Bill F, John C, David Leland and Gwen – lots of egos to be harnessed then turned in the right direction. And the weight of it all ultimately devolves on me – I’m the one holding all the pieces together. Only three or four more days to hang on.
ᅠᅠIt’s very jolly working with John at Brontë Street. He looks fine in 1930s gear and wide felt hat. A good-humoured, happy atmosphere. Smash up Brontë Street and by six we are finished there.


Friday, April 27th

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ᅠᅠHome to find Kelly, our baby-sitter, has been rung by John Cleese, who was stuck in Hull without a Good Food Guide! Kelly had to look through and find him somewhere. No luck!


Sunday, May 27th 
Take Ma to see the Tate extension. Enjoy the Rothko room this time. After a bit Ma, who has been patient, says rather touchingly ‘Before we leave, we will go and see some nice pictures, won’t we?’
ᅠᅠHome for Sunday lunch, then a trip to the zoo between showers (all except Willy, who won’t come because it’s cruel).


Friday, June 8th
The idea of a full-length Ripping Yarn movie, based on the existing films, is crystallising in my mind. Must draft a letter to John Howard Davies and to Bryon Parkin at BBC Enterprises.
ᅠᅠIn the evening go with Helen and Willy to see Tom play recorder in the Gospel Oak concert. Large orchestra and choir; audience crammed in at the back. Fair share of laughs – someone sick at the back of the orchestra just after a child had announced that she would play’Variations on Theme of a Lark Song’. ’Hava Nagila’ by the massed violins and recorders was wonderfully silly and reminded me to make sure that Python’s bagpipe version of the same song should not go unnoticed.


Saturday, June 16th
Spend the morning buying bikes – one each for Tom and Willy, who are now thoroughly enjoying cycling round Gospel Oak, and one for Helen and myself to use as a family workhorse. Equipped like a tank, with voluminous wicker basket on the front and a child seat for Rachel on the back.

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Monday, June 18th
Collect Rachel from school on the new bike. She laughs and giggles all the way home as we cycle over the bumpy, pitted roads beside the garment factories and under the railway. Definitely a successful purchase.
ᅠᅠIn the mid-afternoon, Cleese comes round with a small, slim, handsome, trim-faced girlfriend called Suzanne.
ᅠᅠWe sit in the garden and John eats fruit and talks me into doing a few sketches for the Amnesty shows next week. Nothing terribly exciting.’Custard Pie Lecture’ again. ‘Cheese Shop’ to look forward to.


Saturday, October 6th

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ᅠᅠHave promised to take Tom and some friends on a pre-eleventh-birthday treat. We drive down to South Ken and visit the Science, Geology and Natural History Museum (which has a worthy ecology exhibition) and then to Wolfe’s in Park Lane for highly expensive hamburgers. The children delight in telling me in large stage whispers how pricey everything is … ‘Cor! Coca-Cola 50p!’ ‘You can get a can in the shops …’ and so on. It’s like the Young Consumers’ Club.


Friday, November 23rd
Up at 8.10. Leave the house at 9.15 to drive to JC’s for writing session.
ᅠᅠA very angry, abusive letter to The Times from a man called Allott in Finchley, who clearly doesn’t like the Life of Brian, but admits he hasn’t seen it. It is proposed to send a Python reply to The Times saying ‘We haven’t seen Mr Allott, but we don’t like him.’

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Friday, December 14th

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ᅠᅠTake Willy and Tom to the school. The concert is not quite as enjoyable as previous years’. W plays Sir Lancelot and it’s rather touching watching him mouth the other actors’ lines before he speaks. Tom is ‘Sloth’, one of the Seven Deadly Sins, but they have to sing some endlessly tedious sub-Elgarish song by Malcolm Arnold. Needless to say the audience is ecstatic.


Monday, December 31st
ᅠᅠLast day of the 1970s. Clear, dry, fine, cold. Up in time to read work so far on the Gilliam film before taking Granny to Broad Street on the Gospel Oak line to catch the 11.30 to Suffolk. On the way back to Hampstead Heath a magnificently cheery black ticket-collector waived my offer of the extra 16p for my ticket with great bonhomie.’Happy New Year,’ he shouted. It was like the end of A Christmas Carol!
ᅠᅠFriends come round in the evening and we eat Chinese take-away and play games and half watch a poor compilation of the 1970s from BBC TV. As midnight strikes and the first chimes of the 1980s are met by the obligatory cheers of well-oiled Scotsmen on the box, we take photos of ourselves in celebration and agree that whatever happens – barring the work of the Grim Reaper, of course – we will look at these pics together on December 31st 1989!



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