《前編》 より
 

 

【日本人の「ありがとう」】
石  私は年に何回か中国に行くんですが、あるとき上海でマッサージ店に入りました。・・・中略・・・。私は中国では、当然ながら中国語で話します。お店の人は私の背景など何も知りませんし、私も日本から来たとも言わない。そもそも私の喋る中国語は四川訛りだから、みんな私を四川の田舎から来た商売人だと思っている。
 それでマッサージが終わったところで、思わず店員の女性に「謝謝」とお礼を言ったんです。彼女は一瞬びっくりした顔をしましたが、そのあと、ニコニコしながら、「お客さん、あなた日本から来たでしょ」と聞いてきました。「え? どうして」と尋ねると、「このお店には日本人も韓国人も中国人もマッサージに来るけど、『謝謝』と言うのは日本人だけです」と答えました。
 韓国人も中国人も、お金を払っているのだからサービスを受けるのは当然のことであって、店員に「ありがとう」という筋合いはないという考え方なんです。私はただ、日本で暮らして長いから、ごく自然に「謝謝」といってしまったわけです。(p.167-168)
 このような話から、道徳規範と言われている儒教の考え方(序列と礼節に関する捉え方)が、中・韓と日本では全く違うことが分る。
 儒教国家と言われる中・韓の支配者たちは、儒教の「幼長の序」の考え方を、階級差別的に国を支配する上で有効という視点で用いていたのである。「幼長の序」が日・中・韓で同じなのは、家庭内から宗族の範囲までで、そこを出てしまえば中・韓と日本の社会規範は全く違う。
   《参照》  『日本人て、なんですか?』 呉善花・竹田恒泰 (李白社) 《前編》
            【日本と中国・韓国の儒教は違う】
   《参照》  『日本人には言えない中国人の価値観』 李年古 学生社
            【孝行の文化】
            【中国人の二面性を産み出した儒教道徳の絶対化】
   《参照》  『声に出して活かしたい論語70』 三戸岡道夫 (栄光出版)
            【君、臣を使うに礼を以てし、臣、君に事うるに忠を以てす】

 

 

【中国語の言語特性】
石  基本的に、論理的な考え方に適しているのは、残念ながら横文字です。ドイツ語とか英語とかね。漢字や漢文は論理的に何かを立証するのには、まったく適していません。むしろ漢文は宣言するための言葉なんです。だから、中国政府の声明は、非常に説得力があってすばらしい。でも、分析すると内容は何もない。漢字は視覚文化だというお話が出ましたが、イメージ的なもので論理的なものではないんです。
黄  漢文では論理展開が難しい例として、『論語』や『孫子』などには、大量の注釈がつけられていることがあげられますね。「注」だけではなく、「注のそのまた注」という「疏(そ)」まであります。「十家注」ともいいますが、10人いれば10人の注釈がみんな違う。読み方もみんな違う。こう解釈したのは正しいかどうか、誰も分からない。専門家の解釈が全部違うわけです。・・・中略・・・。それほど漢文は正確な理論構築には不適切なんですね。はっきりいえば、一知半解(わかっているようでわからない、きわめてあいまい)の文章体系なんですよ。・・・中略・・・。もっと極端な例をあげると、「格物致知」という言葉には80以上の解釈があるのです。・・・中略・・・。
石  結局、中国には本当の学問がないんですよ。中国には学があっても、それが正しいかどうかを問うことをしない。『論語』が正しいかどうか、誰も問わない。『論語』の言葉を好き勝手に解釈するだけです。(p.169-171)
 「論語」を典範とした儒教をめぐって、中・韓と日本で解釈の違いが生じた理由が良く分かる。日本人の論語解釈は、日本人の秀でた民族性に従って美しく解釈されていたのであり、中国人の解釈は、支配者の都合に合わせて解釈されていたのである。
 そもそも、中国において儒教は、文化大革命が始まると、毛沢東によって「批林批孔運動」として叫ばれ、近代化が始まると、西洋文明を導入するに際して邪魔だからと「打倒孔家店」が叫ばれ、近年になると、偽善的な愛国主義に走って世界各国に孔子学院を開設するという、完璧な御都合主義であしらわれている。
 人格陶冶の『儒教』聖典として扱われている日本とは、えらい違いである。
 格物致知の個所を読んでいて、そうえば、『論語』に言及している本はなどワンサカありながら、「格物致知」に関して「こういう意味です」と明言している文章に出会った記憶がないことに思い至ったりもする。

 

 

【投資移民】
石  中国銀行が2011年に行った調査によると、中国の富裕層の6割くらいがすでに海外へ移民しているか、あるいは移民を検討しているという結果が出ました。ということは、中国の大半の預金を持っている者が、みんな移民していることになります。しかも、殆どが投資移民です。
 カナダやアメリカなどはそういう人たちを受け入れるのが上手で、たとえば、50万ドルを地域の開発事業に投資してくれれば、無条件で移民として受け入れるというわけです。こうして中国人の富裕層がどんどん流出している。となると、中国に残るのは貧乏人だけになります。
 ですから、・・・中略・・・、クリントン国務長官が発言したとされる「20年後に中国は最貧国に転落する」という言葉も、まったくの嘘ではない。(p.184)

黄  2010年の秋に、ブエノスアイレスの台湾会館で私が地元の人から聞いたところでは、アルゼンチンで移民を10万人受け入れるという政策を決定したら、中国からの申し込みが殺到したらしいですよ。(p.189)
 日本人が「移民」と言えば、貧しい人々を想定するけれど、現代の中国人で「移民」しているのは、あきらかに豊かな人々。50万ドルといえば日本円で5千万円だから、4人家族なら2億。しかし、「権貴階級」にとって2億なんて屁でもない額なのである。
石  今後、ますます「中国人の時代」はこないですね。中国のエリートが中国を嫌って海外に出ていく、そして、外国人も中国を嫌う。世界も中国人自身も嫌っている中国に、未来があるはずがない。(p.192)

 

 

【「海亀派」不要】
 海外で学んで最新技術を吸収して中国に帰って来る青年たちを「海亀派」といっていたそうだけれど、
石  現在では、海亀派は就職すらできません。中国国内では、彼らはもういらない、役に立たないと思われています。技術を習得して帰ってきても、すでにその技術を持つ外資が入ってきているし、もし必要ならば、外国からパクればいいからです。・・・中略・・・。
 しかも、海亀派は外国で変な理屈やルールを覚えてくるために、中国の環境にも適応できない。日本に留学した人が中国に帰ったら、人をだますことすら忘れてしまう。そんな人間は、中国では役に立たないのです。(p.192-193)

黄  こうした扱いにくい帰国留学生を雇用して育てるくらいなら、むしろ定年退職した日本人技術者を雇った方がいい。韓国のサムスンなどは、日本の家電メーカーから技術者を引き抜いて成長しましたが、中国も日本の中小企業などから引き抜きをしています。彼らからすると、日本人の方が使いやすいのです。会社への忠誠心も強い。中国人だと、技術を盗んで独立したり、あるいは会社を乗っ取ったりしますからね。でも、日本人はそんなことはしないですから。(p.193-194)
 韓国のサムスンは、引き抜いた日本人技術者を、横浜市港北区に造った研究所で働かせている。
   《参照》  『アジアの行方』 長谷川慶太郎 (実業之日本社)
            【サムスンの研究施設】

 その方が、日本人技術者を使う上でメリットがあると判断しているからである。中国企業も本当はサムスンと同様にすべきなのだろうけど、中国の発展時は、既にインターネットが流布していたから、インターネットを用いて効率よくパクルことができる。急成長を遂げた華為技研がその実例である。
   《参照》  『人民元の正体』 田村秀男 (マガジンランド) 《後編》
            【華為技研(ファーウェイ)】

 しかし、長~いスパンで考えたら、やはり、日本に研究所を造ったほうがいいのではないだろうか。
 情報通信家電分野において、韓国トップのサムスンと中国トップの華為技研。これから先の両企業の盛衰を見るのも、楽しみである。

 

 

【中国にとって幸せな将来像】
黄  ソ連が崩壊したあとに、分裂して多くの国が生まれました。そのような世界の流れから見た場合は、中国が分裂して新しい国がたくさん誕生する可能性が高い。それがおそらく、この100年くらいのあいだに起きることなんだと思います。そして中国が増えれば増えるほど、中国人にとっては幸せなんです。
石  私もそう思います。これだけ大きな国を1つの党が管理すること自体が無理ですし、民主化するにしても、大きすぎて無理でしょう。ですから分割して、それぞれの国が民主化に向かうと考えます。それが中国のためにも、世界のためにも、幸せな方向だと思います。(p.209)
 良識的な人々は、誰もが、昔からそう思っている。
   《参照》  『七つの中国』 王文山:著 金美齢:訳 (文芸春秋)
 しかし、「闇の支配者」たちにとっては、中国にアジアを支配させて、その中国を支配する中国共産党を支配するのが、一番簡単だし効率がいいから、戦略的に一党支配させているのである。EUの成立も、同様な戦略の中で行われているのではないか。その結果が、全世界共通の、軍事力化であり格差社会化である。
 全人類がこのような背後を知ることなく、またスピリチュアルな進化(アセンション)を遂げることもなく、世界を支配する「闇の支配者」たちにやりたいようにさせているなら、この星は、完全奴隷サイバー社会としての暗黒星になるだけである。


 

<了>