イメージ 1

 リーマンショック直後に出版された著作。2009年5月初版。

 

 

【中国経済急成長の原因】
石平  中国の不動産バブルには、もう1つの事情があります。不動産開発の始まった1998年より前は、中国都市部では不動産という概念が浸透していなかったのです。政府から人民は家を「福祉」として配給されていました。
 ようやく、98年から福祉としての住宅制度が廃止された。この結果として、みんなが家を持つことが可能になり、この10年間で不動産が次々と開発されて、爆発的に住宅などが増えたのです。
三橋  それは、すごいインパクトでしょうね。例えば、土地を1000万円で売買する場合、原価がゼロのものを1000万円で売るのですから、中国経済はその分丸ごと大きくなります、国が私有財産を認めるということは、そういうことでしょう、こう考えると中国経済は急速に成長して当たり前なのです。(p.26-27)
 なるほど、これなら極めて容易に経済が成長する。需要があろうとなかろうと、投機目的でどんどん住宅を建てれば、数値上の経済成長は達成されるのである。勿論、この手法による経済成長の裏側に、役人の腐敗と土地を追われた民衆の大いなる不満が付随するのは言うまでもない。
 ところで、輸出によって稼いだ外貨は国内では使えないけれど、中国政府は、外貨と同じ量の人民元を中国国内で流通させていた(p.22)という。これが中国国内の不動産バブルを助長させる原因にもなっていた。対米輸出で外貨を稼いでいた中国は、アメリカと中国、両国の住宅バブルを演出していたことになる。アメリカでは露骨に弾けたけれど、中国でも酷い下落ぶりだったのである。

 

 

【スタグフレーションの悪循環】
石平  不動産バブルによって良質の耕地にビルやマンションが建ちました。つまり、耕地面積が減ってしまったのです。それで、食糧が足らなくなっています。
三橋  とはいえ、海外から食料を輸入しようとしても、人民元安がネックになります。人民元が安いと、輸入品の値段が高くなります。消費者は、高い輸入品の食料をなかなか買えません。そんななかで、国内では食料品などが十分に供給されていないため、インフレが起きています。つまり、景気低迷下で物価が上昇する、典型的なスタグフレーションです。(p.37)
 中国は、リーマンショックでアメリカを中心とする対外輸出が冷え込んだ分を、巨大人口を有する内需喚起で凌ごうとしたけれど、こんな訳でそうもいかない。内需に関わる最大要因を追っても以下のようである。

 

 

【内需を牽引する中流階級】
 そもそも、内需を引っ張るのは中流階級といわれる人々なのだけれど、中国の中流階級はというと、
 スイスに本拠を置く世界有数の規模を持つ金融グループであるUBSの試算では、現在の中国において中流階級と認定できる人々の数はわずか2500万人程度で、総人口の2%にすぎない。とても頼りになるような存在とはいえないのである。(p.143)
 しかも、中流階級の多くは株式のバブル崩壊で資産を大きく減らしているはずである。

 

 

【外需だのみの中国経済のゆくえ】
三橋  国内で個人消費を活性化させる道が、事実上閉ざされている以上、中国の製造業は外需向けの輸出に頼らざるを得ない。しかし、中国の国民所得が先進国クラスに到達するには、これまでの10倍以上の輸出が必要となる。いうまでもなく、そんな需要は世界には存在しない。(p.121)
 内需喚起を困難にする人民元安は、外需頼みの製造業のために中国政府が国策として実施してきたことであるから、現状からの出口が見当たらないのであるけれど、長期的にも中国経済には「解法がない」と言っている。
 景気低迷は世界中同じだけれど、日本円だけは世界の中でいずれと比較しても通貨高となっている唯一の通貨なので、日本はインフレにはならない。これによって日本の輸出企業は非常に痛いけれど、庶民はお気楽に暮らしてゆける。

 

 

【やはり日本しかない】
三橋  EUがこのまま1つの経済共同体として維持できるか、私は疑問です。
 また、イギリスは銀行や保険などの金融業が国内経済に占める割合が高いため、金融危機はさらに深刻だと考えられます。
石平  アメリカやEUまでもが弱くなると、世界経済はどこの国が牽引するのでしょうか。
三橋  はやり、日本しかありません。日本の個人資産は1500兆円に及ぶほど莫大です。日本政府は国民がもっとお金を使うように、消費を刺激して世界からたくさんの製品を輸入できるようにすることが大切でしょう。
石平  日本もまた、一段と内需拡大が求められるわけですね。(p.48-49)
 先ごろスペインが金融支援を申し出たというニュースが流れていたけれど、EUはどこから債務危機が発生してもおかしくない状況が続いている。一端どこかが破綻したら、まちがいなく世界中の国家が連鎖破綻してしまうことになる。
 ギリシャ、スペイン、イタリアという財政危機を抱えた地中海岸諸国は、燦々たる太陽のせいでお気楽なノーテンキ国家なのかもしれない。スペインなんてさしたる企業などないくせにマドリッド国際空港の規模は第4ターミナルまであって半端じゃないのである。ユニオンジャックの矢といわれる英国の戦略で、ヴァージン・アトランティックの手法をそのまま取り入れているエミレーツ航空を利用した人々は、地下鉄で第1ターミナルに着いてから、第4ターミナルでチェックインして搭乗ゲートに着くまでにどれだけ移動しなければならなかったか、振り返って大いに驚いたことだろう。こんなところにもスペインの実状に合わぬ放漫経営を感じることができるはずである。
 ところで、日本の国債発行率が異常な水準に達しているのは周知の事だけれど、相対的にドルやユーロが危険含みすぎるから、それでもまだ国外で日本国債を買おうとする動きがあったりもする。こんな日本でも、「まだマシ」なのである。

 

 

【ブログ投稿における使用言語ランキング】
三橋  ブログを専門に調査しているテクノラティ社によると、世界のブログ投稿に使用される言語において、なんと日本語がトップにランキングされている。信じられない読者も多いかもしれないが、英語(37%)や中国語(8%)を差し置き、日本語(38%)こそが、世界で最もブログ投稿に使用されている言語なのである。
 日々、数十万を超える日本人が日本語でプログに投稿し、それを数百万人、数千万人の日本人が読んでいる訳である、こんな状況で「日本人の活字離れが・・・」などと主張しても、単なる現実逃避者にしか見えない。(p.174)
 使用人口とすれば遥かに多いはずの英語を、日本語が上回っている!
 そもそも、外交的で多弁な諸外国より内向的で静謐な日本人は、活字を通じて自己表現することを選ぶ傾向が強いのだろう。それにしても、この数字はちょっとビックリする。
 これに関することなので、日本人の文化レベルの高さを以前から指摘してくれている呉善花さんの著作をリンクさせておこう。
   《参照》   『日本人て、なんですか?』 呉善花・竹田恒泰 (李白社) 《前編》
            【文化格差が当たり前だった諸外国】
   《参照》   『化粧するアジア』 呉善花 (三交社)
            【出版事情に見る日本の文化的厚み】
            【日本は、世界文化の中心になりうるだけの文化という潜在力を既に十分持っている】

 

 

【日本マスメディアの黄昏】
三橋  もはやあまりのくだらなさに、怒りを通り越し、ため息しか出てこない。はっきりいって、日本のマスメディアは日本国民の知的水準を舐めすぎている。(p.198)
 毎日新聞社が世界に向けて英語で発信していた「WaiWai 変態報道事件」という呆れた報道内容などを題材として書かれている章の中にある記述だけれど、インターネットを常用している人々は、みな著者と同じことを感じていることだろう。
 そもそも、日本のメディアがいかなる勢力によってどのように統制されているかということくらい知っておかないといけない。知らないなら、以下のリンクから全部辿って読んでおいてください。
   《参照》   『ステルス・ウォー』 ベンジャミン・フルフォード (講談社) 《中編》
            【見えない報道統制の系譜】

 

 

【アジア経済圏として】
 中国経済が大きな危険をはらんでいるのは事実だろうけれど、日本は中国経済が破綻することを望んではいない。中国と日本を入れ替えても全く同じだろう。
 しかに、このような2国間関係の思惑で中国経済を読もうとしてもあまり意味はないのである。中国は、リ―マンショック後の国際経済の中にあって、日本にはできない役割を担ってきちんとそれを果たしてくれているのである。それを知らないのなら、この著作にはない視点で書かれている、下記のベンジャミン・フルフォードさんの著作を読んでおくべき。
   《参照》   『中国元がドルと世界を飲み込む日』 ベンジャミン・フルフォード (青春出版社) 《前編》
 中国も日本も世界を支える側で何とか持ちこたえて、アジア諸国は共にアジア経済圏を成長させるために協力関係を構築すべきなのである。

 

 
<了>