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宇都宮先生

 

「宇都宮先生。このたびは大変お世話になりました」
「直太郎君、先日の3月19日に、和歌山のご実家にある頴二君の墓参りをしてきたよ。きれいな花が供えてあった」
「父が亡くなって、もう四十年になりますね」
「そうだな……四十年か。君が高校を卒業した春だったな」
 

そして宇都宮先生は、堤先生のほうを向いた。
「堤先生、直太郎君は完治ということでいいのだな」
「はい。念のため、職場復帰日の前日に最終確認をする予定です」
「よし、それでいいだろう」
 

それから宇都宮先生は、まっすぐ俺を見て言った。
「直太郎君。君との約束は果たしたぞ」
「親子二代にわたってお世話になりました。本当にありがとうございました」

 

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

 


 

ファイナルジャッジ

 

「どうでしょうか?」
俺は自分の脳のCT画像を見ようと、少し前のめりになった。
「いいですねぇ」
堤先生が、ぽつりとつぶやいた。
脳内にたまっていた液体は排出され、脳への圧迫や変形も改善されている。

 


しばらく前回のCT画像と見比べたあと、堤先生は言った。
「完治……と言っていいでしょう」


「ありがとうございます、先生」
俺の口から出たのは、純粋な感謝の言葉だった。」


「職場復帰は、どうされますか?」
「区切りよく、4月1日ではどうでしょうか」
「いいと思います。では、その内容で診断書を書いておきますので、帰りに受付で受け取ってください」
「本当に、ありがとうございました」
そう礼を言って立ち上がろうとした、その時だった。
思いがけない人物が診察室に入ってきた。

 

 

 

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3月25日、水曜日


朝を迎えた。
体調は悪くない。妻も娘たちもそれぞれ予定があり、俺は自分で車を運転して大阪北病院へ向かった。
受付を済ませ、いつものように番号札を受け取る。
 

待合室で血圧を測り終え、スマホを眺めていると、自分の番号が呼ばれた。
そして、いつものようにCT撮影を受けた。
しばらくして外来の待合室で待っていると、再び番号で呼ばれ、診察室へ入った。
 

「堤先生、おはようございます」
俺が挨拶すると、
「山本さん、おはようございます」
と堤先生も穏やかに返してくれた。
「画像ですが……」
そう言って堤先生は画面に目を向けた。

 

 

 

 

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最終局面

 

さて、今日は3月22日の日曜日である。
次の水曜日には大阪北病院へ行き、堤ドクターに脳の最終診断をしてもらう予定だ。
再手術後の経過は、自分の感覚としては順調だった。
足を引きずるような自覚症状もないし、家族から指摘されることもない。
一方で、CB650Rは自宅の車庫で、静かに眠っていた。

 

 

 

 

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生還

 

運転する車の中で、妻の華が俺に尋ねた。

「20年って、何のこと?」

「深い意味はないさ。それくらい経てば、彩も史も結婚して、子どもがいる頃かなと思っただけ」

「お気楽サラリーマンね、あなた」

「まあ、そうだな」

とにもかくに俺は、三度目の生還を果たした。

 

 

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あと20年...。

 

個室で二泊し、退院当日の午前中に再びCTを撮った。

堤ドクターは前回同様、画像を前に思案顔だ。
華とともに結果を待つ。

「液体は予定通り排出されています。脳の圧迫も改善し、以前の状態に戻りつつあります」

堤ドクターは笑顔で説明を終え、突然言った。

「廊下を歩いてみましょう」

 


診察室を出て、廊下を歩く。
往復してみせると、

「大丈夫ですね」

華も、ほっとした表情を浮かべた。

「あと20年、生きるんでしょう?」
堤ドクターが笑う。

「もちろんです!」

俺は少し芝居がかった口調で答えた。

荷物をまとめ、大阪北病院を後にした。

 

 

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待遇改善?

 

「頑張ったわね。ご褒美に、今回は個室をお取りしましたわよ」

冗談めかして言う華に、俺は傷の痛みに耐えながら軽く頷いた。

 



個室でしばらく休んでいると、宇都宮ドクターが訪ねてきた。

「直太郎君、再手術になって大変だったな」

「いえ、堤医師には全幅の信頼を寄せています」

「さすがに今回は再手術もあるかと思い、少し身辺整理をしてきました。プチ終活ってやつですか……」

努めて明るく言うと、

「ばかなことを言うもんじゃない。直太郎君。君は親父さんの分も生きなければならない」

「わかっております」

俺は真顔で答えた。

 

 

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再手術

 

「再手術を行いたいと思いますが、よろしいですか」

俺は迷わず答えた。

「お願いします」

「今度は脳内を洗浄し、液体を直接吸引します」

再びストレッチャーに乗せられ、冷たい手術室へと運ばれた。

「あと20年、生きたいです」

運ばれながら、俺は堤ドクターに声をかけた。

「大丈夫です。20年」

堤ドクターは笑顔で答えた。

 



局所麻酔のもと、チューブで脳内の液体が吸い出されていくのを体感する。
手術は右側のみで、初回の半分ほどの時間で終了した。

手術室近くの椅子で華が待っていた。

 

 

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初回経過診断

 

1週間後。
俺は大阪北病院で堤ドクターの外来診察を受けた。

まずCT撮影を行い、その画像を見ながら診断結果を聞くことになった。

「堤先生、お世話になります」

付き添ってくれた華とともに椅子に腰掛けた。

堤ドクターは返事をせず、じっとCT画像を見つめている。
その表情から、結果が良くないことは察しがついた。

 



「先生、いかがでしょう?」
華が切り出した。

「結論から申しますと……」
堤ドクターはいつもの穏やかな口調で語り始めた。

「この脳の外側の白い部分をご覧ください」

「はい」

「頭蓋骨の両側に穴を開け、脳を圧迫していた血液と体液を抜きました。しかし右側に残ったものは不純物が混じっていたらしく、管では十分に排出できなかったようです」

そして静かに続けた。

 

 

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暗雲再び

 

「退院の準備はできましたか?」

「はい。今回は短期でしたので、もう片付きました」

「1週間後に抜糸と経過観察をしますね」

「よろしくお願いします」

俺は軽く頭を下げた。

家に帰り、その夜は久しぶりに長女の彩と妻の華と一緒に食事をした。

大阪北病院の食事は、お世辞にも旨いとは言えない。
我が家のご飯の美味しさとありがたさを噛みしめながら、夕飯を食べた。

その後、順調に回復しているかに思えた。
だが――

「パパ、自分でも気づいてる?」と彩が言う。

「また、左足を引きずり始めてるわよ」と華が続けた。

「まさか……」

脳裏に、強い不安がよぎった。

 

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