cb650r-eのブログ -5ページ目

cb650r-eのブログ

ブログの説明を入力します。

機運の再醸成

千崎部長はさらにページを繰る。
鋭い視線で要点を指し示しながら、畳みかけるように言った。

「政府は、市民から中小・零細企業まで、幅広い層に情報を届け直し、意識を再び高める必要がある。そのための一手段――それが今回のフォーラム、またはシンポジウムの企画コンペです」

室内の空気が、一瞬で張りつめる。
この案件を落とせば、会社にとっても大きな前進。逆に逃せば――。

「プロポーザル形式のコンペになります。我々OBCにとって、この案件は是が非でも取りに行きたい」

誰もが無言で頷いた。

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

カーボンニュートラル

珍しく臨時の会議だ。
午後四時、会議室に足を踏み入れると、机の上には数枚の資料が整然と置かれている。
ただ、それ以上に――目に見えぬ圧が、部屋を満たしていた。

腰を下ろした瞬間、千﨑部長の低い声が響いた。

 



「みなさん、まずは資料をご覧ください。大阪の自治体からの委託事業です。ただし――おおもとは経産省発の案件だ」

一枚目をめくった瞬間、大きな見出しが目に飛び込んでくる。

――カーボンニュートラル実現に向けた関西地区の機運再醸成。

息をのむ間もなく、部長の言葉が続いた。

「ご存じのとおり、米国では大統領が方針を大きく転換しました。パリ協定からの離脱、化石燃料増産の指示……」

資料の余白を、部長の指がコツ、コツと叩く。
不規則なリズムが、場の緊張をさらにかき立てる。

「エネルギー価格を抑える狙いはあるにせよ、再エネ支援は縮小。風力発電の建設禁止、脱炭素関連支払いの停止――一連の大統領令です。その影響で、せっかく盛り上がりかけたカーボンニュートラルの機運が、一気にしぼみかねない」

 



――なるほど。それで“再醸成”か。
俺は心の中で呟いた。言葉には出さずに。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

110円で救われた話


俺みたいなヘタライダーが、絶対にやっちゃいけないこと。
それは──「上り坂でのUターン」。

頭では分かってた。
なのに、なぜかやってしまった。

結果は、見事なまでの大立ちごけ。
右に倒れたCB650Rを、起こすのに苦労した。
情けないほど、体力が落ちていた。

それでも、救いはあった。
あの“110円のE-clutch対策スライダー”が、エンジンを守ってくれたのだ。


 

立ちゴケ後のスライダーは、傷だらけ。

 


でも、エンジンは無傷。
まさに“110円で救われた”話。

みっともなさ、10mm(いや、三苫の1mm)。
──でも、やっててよかった。


 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

 

甘い街の夜
 

その日の夕食は、結局、中華街の名店「江山楼」に決まった。

 


 

上田所長へのお礼も兼ね、天野次長が招待する形である。
 

コース料理は湯気とともに次々と運ばれてくる。
 

「長崎の中華って、とてもおいしいですけど、けっこう甘口ですよねぇ。」
大杉主任が箸を止め、首をかしげた。
「エビチリならぬ“エビマヨ”ですし。」
 

「ながさき発祥らしいですよ。」と上田所長。
 

角煮饅頭も甘い。でかいゴマ饅頭は、中にぎっしりとあんこ入り。
 

「ワンちゃんボールですね。」
 

「皿うどんの餡も甘めですよね……いや、ぜーんぶ甘い。」
 

「まあ、中華に限らず、長崎の料理は少し甘めです。歴史的な背景もあるんですよ。」
上田所長がザラメを入れた紹興酒の入ったグラスを置き、語り出す。
「鎖国時代、長崎の出島には主に中国・福建省から砂糖が大量に入ってきたそうです。当時、砂糖は貴重品でしたが、長崎では料理にふんだんに使えた。それが今も脈々と受け継がれている──と。」
 

「へぇ~。」大杉主任は素直に感心している。
 

「あ、思い出した。」天野次長が指を立てた。
 

「長崎カステラ、佐賀の小城ようかん、マルボーロ。福岡・飯塚の千鳥饅頭、北九州の金平糖。」
 

「“シュガーロード”ですね。」と上田所長。
 

「ピンポーン、正解です!」天野次長が声を弾ませる。
 

「では最終問題です──」
唐突に上田所長がクイズタイムを終わらせにかかった。
「ご高齢のおばあちゃんが、たまに使う言葉。“長崎が遠か~”とは、どういう意味でしょう? 大杉さん、お答えください。」
 

「うーん……えーと……あ、わかった。」
 

「ではどうぞ。」
「長崎は交通の便が悪い。特に新幹線!」

 


 

「ブブー!」紹興酒が効いた上田所長が、両手で大きくバツを作る。
 

「正解は──料理や食べ物の“甘みが足りない”ことを表す比喩でした。」
 

「その通り! さすが天野次長!」
 

上田所長は満足げにうなずく。
 

デザートの杏仁豆腐で締め、宴はお開きとなった。

店先で上田所長と別れ、二人はタクシーで定宿のホテル・インディゴ長崎へ向かう。
フロントでチェックインしていると──天野次長のスマホが軽く震えた。
「LINEにメッセージが入った。」
「伊達木社長だわ。」
 

『そろそろインディゴにチェックインした頃かしら。飯盛夫人から、鹿島の夜は楽しかったとの連絡あり。天野さん、大杉さんありがとね 伊達木』
 

天野次長はその画面を大杉主任に見せ、ポケットにスマホをしまうと、
 

「大杉さん、また明日。」

 


 

短くそう告げ、一人でエレベーターに乗り込んでいった。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

“オーシャン・エコノミー”と“お魚マルシェ”構想

 

全行程を終え、玄関先で矢野教授が言った。
「プロの上田さんはもちろんですが……天野次長と大杉主任も熱心ですね。感心しました。」


「恐れ入ります、矢野先生。」
「これまで漠然としていた“オーシャン・エコノミー”と、私たちの“お魚マルシェ”の構想が、ガチッとつながりました。本当にありがとうございます。」
天野次長の言葉は、胸の奥から出たものだった。


「大阪OBCさんの挑戦、私もアカデミーの立場から注目しています。何かあれば、いつでもご連絡を。」
教授は穏やかに微笑み、深く頷いた。


「必ずご連絡しますわ。」
力強く答えて、天野次長は研究施設を後にする。

 



車内に戻ると、上田所長がぽつり。
「すごい施設でしたねぇ。」
「本当に……来て、見て、よかったわ。」天野次長もしみじみと応じる。
 

「でも、夕食はやっぱりお肉がいいですね、今日は。」
大杉主任が、ふいに笑いを交えて言った。
 

「そうだねぇ。」
天野次長も、つられて小さく笑った。

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

海と街をつなぐ発想

 

このあと、教授が語る「未来の養殖ビジネス」の青写真は、二人の胸に深く刻まれることになる。

「では、座学のまとめとして──“ながさきオーシャン・エコノミー”の三本柱をご紹介しましょう。」
矢野教授は、モニターに映るスライドをクリックし、画面を切り替えた。
 

三本柱が、簡潔な矢印付きで並んでいる。

作業を変える:生産者の負担を軽減する養殖技術の開発 → 沖合養殖システムの開発

育て方を変える:海の生物と環境への負担を減らす養殖技術の開発 → 人工種苗による生産体制構築、ブリ人工種苗センターの設置

働き方を変える:若者が魅力を感じるプラットフォームの構築 → 「JAPAN鰤」販売体制の構築、長崎マルシェの設置

「それです! 矢野先生!」
思わず天野次長が、椅子を押しのけるように立ち上がった。

 


「……え? どの部分をおっしゃってるんですか?」
やや戸惑い気味に、矢野教授。
 

「私たち、“長崎お魚マルシェ”を創りたいんです。」
天野次長の声には、もはや迷いがなかった。
 

「ほう。」
不意を突かれた矢野教授の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。

「では、座学はこのあたりで。研究施設をご案内しましょう。」
促され、三人は陸上養殖研究施設へと足を運んだ。
ドアをくぐった瞬間、上田所長が低く唸る。
 

「これは……すごい。」
 

水槽の中を悠々と泳ぐ魚たち。水質や成長をリアルタイムで表示する壁面モニター。
人工種苗で育てられた個体が、健康そのものの光沢を放っている。

 


専門家ならではの鋭い質問が、矢継ぎ早に上田所長の口から飛び出し、教授は間髪入れずに的確な答えを返す。
そのやり取りは、天野次長と大杉主任にはやや専門的すぎたが、大杉主任はひたすらメモとカメラで記録に集中していた。
現場感覚と最先端技術が同居する空間に、二人はただ圧倒されるばかりだった。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

海面漁業と養殖業の現状

 

「では、矢野先生。長崎県の水産業、特に海面漁業と養殖業の現状についてお願いします。」
 

「はい、わかりました。」
 

矢野教授の声が、落ち着いた響きで会議室を満たす。
「長崎県の水産業は、生産量が全国3位、生産額では全国2位です。ただ、かつてのピーク──99万トンあった生産量は、今や31万トン。生産額も2,259億円から半分以下の996億円へ減少しています。就業者数も1979年の4分の1、約1万1千人。経営体と就業者数は全国2位ですが、この5年間で組合員は4,000人近く減っています。」
言葉を重ねるうちに、教授の表情は自然と厳しさを帯びていった。

 


「一方で、魚種の多さは日本一とも言われ、全国1位の魚種も多い。地域の強みを活かせばまだ可能性はある。ただ、天然資源の減少や漁獲制限による収入減で、生活は不安定。後継者不足と高齢化への対策は急務です。」
天野次長と大杉主任は、静かに頷く。

「では、今後の水産業のあり方について、ご教示ください。」
上田所長の言葉に、教授は軽く頷き、続けた。
 

「世界的に見ると、海面漁業は頭打ちで、養殖が急増しています。安定しておいしい魚介類や海藻を食べるためには、『とる漁業』と『養殖』の両輪が必要。日本でも国が養殖を推進しています。」
 

「やっぱり、そうなんだ…。」
天野次長と大杉主任が、同時につぶやく。

「養殖が推進される理由は、主に四つです。」


と言いながら、教授はパワーポイントのページを進めた。
 

・とることで資源が減ってしまう魚介類・海藻がある。
 

・安定供給が求められる魚介類・海藻がある。
 

・安全な生産のため養殖が必要な魚介類・海藻がある。
 

・生まれてからの履歴(トレーサビリティー)が求められる場合がある。
 

「ただ、日本は人口減少と魚食離れで、国内市場の拡大は難しい。だからこそ、質の向上による生産性アップと、海外販路の開拓が鍵になります。」


そこで教授は一拍置き、視線を鋭くした。
 

「海外に売るには、定時・定質・定量・定価格が必要。そして、環境に配慮しているかも問われます。つまり『量』と『質』の両立。そのためには養殖技術の高度化が不可欠です。」
 

さらに具体例を挙げる。
 

「環境に負荷をかけない人工種苗の利用、赤潮を起こさない養殖、魚由来ではなく植物由来の餌の開発…。そして、それらを可能にするのが、デジタル技術による精密な管理です。消費者は“その魚がどこで生まれ、何を食べ、どんな環境で育ったか”まで知りたがる時代なんです。」
 

「牛肉、豚肉、鶏肉と同じ考え方かぁ…」と大杉主任がつぶやく。
 

「その通り!」教授は即答した。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

ながさき海環境資源研究センター

 

長崎市内から車でおよそ30分。新長崎漁港に到着すると、上田所長が言った。
「お昼はここで食べましょう。」

 


案内されたのは「長崎水産食堂」。周囲には鮮魚店や魚料理の店が軒を連ね、地元客でごった返している。
威勢のいい声、陽の光を反射する魚の鱗──漁港特有の熱気が空気を満たしていた。
 

「こういうお店が集まって、街の真ん中に“お魚マルシェ”ができたら素敵ですよねぇ。」と天野次長が店の前でつぶやく。

 


「次長~、何してるんですか。入りましょ、入りましょ!」
大杉主任に促され、天野次長も笑顔で店に入った。

 

 


約束の14時。
二人は長崎海洋大学の「ながさき海環境資源研究センター」を訪ねた。
ここは、東シナ海の環境変動を科学的に把握し、その影響を多角的に検証する研究拠点だ。分野を越えた研究者たちが力を合わせ、持続可能な海の未来を探っている。


名刺交換と簡単な挨拶を終えると、本題に入る。
モデレーター役は上田所長が買って出た。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

新長崎漁港へ

 

翌朝。
宿の朝食は、地元で採れた野菜や魚が並び、やさしい味わいが体を目覚めさせる。二人はしっかり腹ごしらえを済ませ、長崎へと出発した。
ルートはいくつか迷った末、タクシーで武雄温泉駅へ向かい、西九州新幹線に乗り換えて一直線に長崎駅へ。

西口に降り立つと、「ながさき漁業協同センター」の上田所長が待っていた。
 

 

「お久しぶりです、天野さん、大杉さん。」
「またまたお世話になります、上田さん。ご厚意に甘えます。」


「そういえば、松尾市長が“上田さんによろしく”とのことでしたよ。」と天野次長が笑顔で伝える。
「松尾さん、私の悪口ばかり言ってたんじゃないですか?」
「そんなことは……あっても言えませんよ。」と大杉主任が茶目っ気たっぷりに返す。
 

一通りの挨拶が済むと、上田所長が話を切り出した。
「西日本魚市のエンヨウ経由で、矢野教授と連絡が取れたそうですね。」
「はい。本当に運が良かったです。」と天野次長は微笑む。
「実は私も、“ながさきオーシャン・エコノミー”には個人的に興味がありまして。今日の視察は、私自身も楽しみにしているんです。」

「では、長崎漁港へ向かいましょう。昔はJR長崎駅のすぐそば、長崎港内に漁港があったんですが、1989年に主要機能を北西部の三重地区へ移転したんです。今では“新長崎漁港”と呼ぶ人も多いですね。」
「さすが。魚の話になると、台本なしでスラスラですねぇ。」と大杉主任が笑う。
「大杉さん、上田さんに失礼ですよ。」と天野次長がたしなめる。
「いえいえ。本当のことですから。」と上田所長は笑って受け流した。

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

日本酒『鍋島』に合う

 

二人はチェックインを済ませた。

「お食事は六時からでよろしいですか?」
「はい。すでにお腹ペコペコですが…」大杉主任は、酒蔵での酔いも少し覚めたようだ。

 

そのとき、天野次長の携帯が震えた。
「伊達木社長からだわ」
――そうそう、前に贈ってもらった“対馬の黄金あなご”の御礼を言うのをすっかり忘れてたわ。知り合いのシェフに白焼きや煮あなごに料理してもらって食べたけど、おいしかったわー。で、話は変わるけどさ、今日の夕食は飯盛夫人と一緒に食べてもらってもいい?
「もちろん、構いませんよ」と即答すると、
――飯盛さん、とてもいい人だから、楽しい夕食になると思うわよ。じゃあ、よろしく!
軽やかな声とともに電話は切れた。
天野次長は携帯を閉じ、にやりと笑った。
「大杉さん、どうやら今夜は、もうひとつ“特別”が加わったみたいよ」

 

六時、二人は一階のカウンターレストランへ向かった。
「お待ちしておりました。」

 

シェフと飯盛夫人が笑顔で迎える。
 

「私もご一緒してよろしいですか? 伊達木社長から“面白いお二人だから、きっと楽しい食事になる”と伺ってまして。」
「面白いかどうかは分かりませんが、もちろんです。」

 

「うちのシェフは、もともと福岡のフレンチで修業していたんです。私がその腕に惚れ込んでスカウトしました。ただ、ここでお出しするのは基本的に、日本酒『鍋島』に合う和食なんですよ。」

「へぇ、それは楽しみです。」



最初の一皿は、唐津産の鮑と芋茎に、地元のすっぽんの煮こごりを合わせたものだった。

 

「おいしい。」と大杉主任。

「絶品ね。」と天野次長。
「ありがとうございます。」とシェフも飯盛夫人も、心底嬉しそうだ。
その後も、手の込んだ創作料理が次々と並び、それぞれに違うラベルの「鍋島」が添えられた。口に運ぶたび、この宿の料理と酒のレベルの高さがはっきりと伝わってくる。
食後も、女性経営者としての奮闘談から、伊達木社長の武勇伝まで話題は尽きず、笑いの絶えない夕食会が続いた。
やがて、鹿島の夜は、満ち足りた空気とともに静かに更けていった。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。