甘い街の夜
その日の夕食は、結局、中華街の名店「江山楼」に決まった。

上田所長へのお礼も兼ね、天野次長が招待する形である。
コース料理は湯気とともに次々と運ばれてくる。
「長崎の中華って、とてもおいしいですけど、けっこう甘口ですよねぇ。」
大杉主任が箸を止め、首をかしげた。
「エビチリならぬ“エビマヨ”ですし。」
「ながさき発祥らしいですよ。」と上田所長。
角煮饅頭も甘い。でかいゴマ饅頭は、中にぎっしりとあんこ入り。
「ワンちゃんボールですね。」
「皿うどんの餡も甘めですよね……いや、ぜーんぶ甘い。」
「まあ、中華に限らず、長崎の料理は少し甘めです。歴史的な背景もあるんですよ。」
上田所長がザラメを入れた紹興酒の入ったグラスを置き、語り出す。
「鎖国時代、長崎の出島には主に中国・福建省から砂糖が大量に入ってきたそうです。当時、砂糖は貴重品でしたが、長崎では料理にふんだんに使えた。それが今も脈々と受け継がれている──と。」
「へぇ~。」大杉主任は素直に感心している。
「あ、思い出した。」天野次長が指を立てた。
「長崎カステラ、佐賀の小城ようかん、マルボーロ。福岡・飯塚の千鳥饅頭、北九州の金平糖。」
「“シュガーロード”ですね。」と上田所長。
「ピンポーン、正解です!」天野次長が声を弾ませる。
「では最終問題です──」
唐突に上田所長がクイズタイムを終わらせにかかった。
「ご高齢のおばあちゃんが、たまに使う言葉。“長崎が遠か~”とは、どういう意味でしょう? 大杉さん、お答えください。」
「うーん……えーと……あ、わかった。」
「ではどうぞ。」
「長崎は交通の便が悪い。特に新幹線!」

「ブブー!」紹興酒が効いた上田所長が、両手で大きくバツを作る。
「正解は──料理や食べ物の“甘みが足りない”ことを表す比喩でした。」
「その通り! さすが天野次長!」
上田所長は満足げにうなずく。
デザートの杏仁豆腐で締め、宴はお開きとなった。
店先で上田所長と別れ、二人はタクシーで定宿のホテル・インディゴ長崎へ向かう。
フロントでチェックインしていると──天野次長のスマホが軽く震えた。
「LINEにメッセージが入った。」
「伊達木社長だわ。」
『そろそろインディゴにチェックインした頃かしら。飯盛夫人から、鹿島の夜は楽しかったとの連絡あり。天野さん、大杉さんありがとね 伊達木』
天野次長はその画面を大杉主任に見せ、ポケットにスマホをしまうと、
「大杉さん、また明日。」

短くそう告げ、一人でエレベーターに乗り込んでいった。
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