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人生初の4人部屋

 

2泊3日の短期入院は大きなトラブルもなく終了し、退院の日の朝を迎えた。
今回は個室ではなく4人部屋で、同室の患者は自分に比べればかなり高齢の長期入院者のようだった。

 

 

ひとつだけ困ったことがある。
テレビを見ていると、突然チャンネルが変わったり、電源が急に入ったり切れたりするのだ。

最初は気味が悪かったが、どうやら隣の入院患者のテレビリモコンの電波が、自分のテレビに飛んできているらしいと気づいた。
仕方がない、とあきらめた。

退院当日、退室の準備をしていると、隣のおじいさんが声をかけてきた。

「おや、もう退院かい? 随分と早いな。若いと治りも早いんだな」

「いえ、若くないですよ。もうすぐ60ですし。そちらは退院のご予定は?」

「ようやく来月の中旬に決まったよ」

「そうですか。もう少しですね」

そう答えた。

しばらくして、主治医の堤先生が回診に来てくれた。

 

 

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。


 

早めのリクルート?

 

「まあ、二、三日は入院していきなさい」
宇都宮前理事長※が言った。

 



それから、ふと思い出したように彩のほうを向く。
「君は、直太郎君のお嬢さんかい?」

「はい」

「医学部の学生かい?」

「はい。大阪大学医学部の五年生です」

「ほう……優秀だな」
宇都宮前理事長は満足そうに頷き、堤理事長に目を向けた。
「今回の太郎君の診断も的確だった。堤君、早めにリクルートしないといかんぞ」

「了解しました」
堤理事長が笑って答えた。

病室の空気が、一気に和んだ。

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。


 

術後まもなく

 

しばらくベッドに横になっていると、宇都宮前理事長※と堤理事長の二人が病室に入ってきた。

「本日は、急なお願いを受け入れていただき、ありがとうございます」
俺がそう言うと、堤医師がにこやかに声をかけてきた。

「山本さん。歩けますか?」

「はい……たぶん」

そう答えて、俺はベッドから降りた。
病室を出て、病棟の廊下をゆっくり歩いてみる。



「大丈夫ですね」
堤医師が言った。

確かに――左足を、まったく引きずっていない。
さっきまで左半身が麻痺していたはずなのに、もう動いている。

不思議だ。
そして、心の底から驚いた。

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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絶対に、生きる。

 

気がつけば、時計は一時半に近づいていた。
俺はストレッチャーに乗せられ、手術室へと運ばれた。

 



頭皮に部分麻酔が打たれる。
かなり痛い。
続いて、頭蓋骨に二か所、十円玉ほどの穴が開けられる。

部分麻酔とはいえ、その衝撃は頭の奥まで響いた。
一番きつかったのは、頭蓋骨の下の膜を焼き切る瞬間だ。

激痛に耐えながら、俺は心の中で唱え続けた。
――絶対に、生きる。

手術は頭の両側で行われ、一時間弱で終了した。
ホチキス型の縫合も相当つらかったが、何とか耐えきった。

ストレッチャーで手術室を出るとき、彩の姿が見えた。
彼女は、黙ってOKサインを出していた。

とりあえず、その日は入院することになった。

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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慢性硬膜下血腫

 

「お嬢さんのご指摘どおり、慢性硬膜下血腫です」

 



その後、病状の説明と、今後の治療方針について一通りの話があった。

そして最後に、堤医師ははっきりと言った。
「今日の午後一時半から、開頭手術を行います」

「よろしくお願いします」
俺は堤医師に、深く頭を下げた。

少し間を置いて、宇都宮前理事長※が口を開いた。
「直太郎君よ。親父さんが亡くなったのは、何歳の時だったかな?」

「五十三歳でした」

「そうか……若いな。

あの時は助けてやれなくて、残念だった。
だが、君は必ず助ける」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」
俺は改めて言った。

「大丈夫ですよ」
堤医師も、俺と彩に向かって柔らかく微笑んだ。

 

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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新旧理事長

 

撮影が終わり、再び待合室で待っていると、また名前が呼ばれた。
娘の彩を伴って診察室に入る。

スクリーンとPCの前に、四十代と思しき、感じの良い医師が座っていた。
その後ろには、白衣姿の宇都宮前理事長が、両手を後ろに組んで立っている。

「宇都宮先生、お久しぶりです」
俺は頭を下げた。

「おお、直太郎君。久しぶりだな。
だがな、俺はもう理事長じゃない。理事長はここにいる、娘婿の堤医師だ。脳外科の名医だぞ」

「ああ、そうでしたね。
昔、病院の建て替えと事業承継のお手伝いをさせていただきました」

「その節は大変お世話になりました」
堤医師が、穏やかに微笑んだ。

「さて、診断ですが……」
堤医師はスクリーンを示しながら続けた。

 

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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MRI

 

大阪市内のホテルから大阪北病院までは、車で二十分ほどだった。
久しぶりに訪れる大阪北病院。
彩に車を駐車場へ回してもらい、俺は自力で外来受付まで歩いた。

左足を引きずる感覚は確かにある。
だが、まだ歩けないわけではない。
それでも――確実に悪化していく、嫌な予感があった。

受付で、娘の彩が言った。
「山本と申しますが……」

 



若い受付の女性は、すぐに頷いた。
「宇都宮先生から伺っております」

外来の待合室で待っていると、間もなく名前が呼ばれた。

「MRIを撮りますね」
「お願いします」



少し冷えた検査室で靴を脱ぎ、MRIの台に横たわる。
耳栓をされ、俺は静かに目を閉じた。

「十五分ほどかかりますので」
検査技師の男性の声が遠くなる。

 

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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突然の試練。どうする?


そう言って俺は、携帯に登録してある大阪北病院の宇都宮理事長※の番号を呼び出し、電話をかけた。

 


理事長はすぐに電話に出てくれた。

「直太郎君か。その節は世話になったな」

「はい、理事長。今、私の娘に代わります。医者の卵です」

「お電話代わりました。娘の彩です。」

 

「一体どうしたんだい?」
 

「父は昨年の11月にバイク事故を起こし、頭を打っています。今日気づいたのですが、歩き方がおかしく、左足を引きずっています。硬膜下血腫の疑いがあります」

「なるほど。分かった。今からすぐに大阪北病院に来なさい。
担当は娘婿の堤に任せる。脳外科としての腕は一流だ。心配はいらん」

「分かりました。すぐに向かいます」

そうして彩は俺を助手席に乗せ、大阪北病院へと車を走らせた。

 

 

※宇都宮理事長については、2025.2.25「オートバイをもう一度(143)」をご参照ください。 

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突然の試練。序章


2月1日(日)。
近所に住む叔父の米寿と、俺の全快を祝おうと、街中のホテルで会食することになっていた。

俺は長女の車の助手席に乗り、ホテルの地下駐車場で降りた。

 

 

長女とホテルのレストランへ向かって歩いているとき、彼女がふと口にした。

「お父さん、歩き方が変よ。左足を引きずってる」

「……硬膜下血腫かもしれない」と長女がつぶやいた。
先月、大学病院での脳外科研修中に見た症例が、頭をよぎったらしい。

「まさか……」
俺は意識して左足を高く上げながら歩いてみた。

だが、意識とは裏腹に、左足の靴底が地面を擦る。

このままでは、間もなく歩けなくなる――
そんな強い予感が、急に胸を貫いた。

「彩、ちょっと待ってくれ」

 

 

 

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三つ目の奇跡。

 

シータは、少し真顔になって言った。

「まあ、あとはケガの領域の話だから、俺よりお前の奥さんのほうが詳しいかもしれないが……」

「あれだけ肋骨が折れて、肺を突き破らなかったのは、外科の友人に聞いたが、かなりラッキーらしいぞ」

「それに、内臓破裂が一か所もなかったのも、相当運がいい」

少し間を置いて、シータは続けた。

「あと、これはちょっとホラーな話だが……大型のイノシシは、人と接触すると、よく人間の指を食いちぎるらしい」

「バイク屋に聞いた話だが、お前のバイクのフロントブレーキローターは、ぐにゃっと曲がっていて、イノシシの毛が付いてたそうだ」

「イノシシも相当痛かったろうな。慌てて逃げていったなら、指を食われずに済んでラッキーだったな」

「……シータ、ありがとな」
俺は心から感謝した。

三か月という短期間で社会復帰できたのも、シータのおかげである。

「いや……俺たちは、お前の奥さんやお嬢さんに、合わせる顔もない」

少し照れたように、だが真剣に、シータは続けた。

「ただ、奥さんや娘さんの許しが出たら、いつでもK-1に戻ってこい」
「ただし、顧問扱いで、バトル参加は禁止だがな……」

「そりゃいいな。ぜひ参加するよ」

 

 



俺たちは、顔を見合わせて笑い合った。
 

 

 

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