カーボンニュートラル
珍しく臨時の会議だ。
午後四時、会議室に足を踏み入れると、机の上には数枚の資料が整然と置かれている。
ただ、それ以上に――目に見えぬ圧が、部屋を満たしていた。
腰を下ろした瞬間、千﨑部長の低い声が響いた。

「みなさん、まずは資料をご覧ください。大阪の自治体からの委託事業です。ただし――おおもとは経産省発の案件だ」
一枚目をめくった瞬間、大きな見出しが目に飛び込んでくる。
――カーボンニュートラル実現に向けた関西地区の機運再醸成。
息をのむ間もなく、部長の言葉が続いた。
「ご存じのとおり、米国では大統領が方針を大きく転換しました。パリ協定からの離脱、化石燃料増産の指示……」
資料の余白を、部長の指がコツ、コツと叩く。
不規則なリズムが、場の緊張をさらにかき立てる。
「エネルギー価格を抑える狙いはあるにせよ、再エネ支援は縮小。風力発電の建設禁止、脱炭素関連支払いの停止――一連の大統領令です。その影響で、せっかく盛り上がりかけたカーボンニュートラルの機運が、一気にしぼみかねない」

――なるほど。それで“再醸成”か。
俺は心の中で呟いた。言葉には出さずに。
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