cb650r-eのブログ

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真夏の方程式 Ⅻ



軽快な排気音が駐車場に響く。

「しかし、お前もずいぶん詳しくなったな」

俺が感心して言うと、史は前を向いたまま答えた。

「そりゃそうでしょ」

少しだけ間を置いて続ける。

「お父さん、もう二度と入院したくないでしょう?」

「ああ。金輪際、入院も手術もまっぴらだ」

俺は即答した。

「そりゃそうだよね」

史は何事もなかったかのようにハンドルを切り、86を国道へ滑り込ませた。

目的地はバイク用品専門店「2りんかん」。

どうやら俺の安全装備強化計画は、まだ終わっていないらしい。

やがて、「2りんかん」の大きな看板が見えてきた。

「前にプレゼントしたヘルメット。あれ、ここで買ったの」

「ああ。あのヘルメットは機能性が高くて重宝しているよ。本当にありがとうな」

俺はあらためて礼を言った。

 

 

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅺ



レジで会計を済ませると、史が待つ86へ乗り込んだ。

「これで終わりか?」

俺が聞くと、史はニヤリと笑った。

「甘いわね」

「まだあるのか」

「最後に、さっき言った“最新ギア”を買いに行くのよ」

「ああ、あれか」

「もちろん、ワークマンには売ってない」

「だろうな」

「次は――2りんかん」

「ああ、バイク用品専門店か」

「そういうこと」

史はシートベルトを締めると、86のエンジンを始動した。

軽快な排気音が駐車場に響く。

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅹ

 

「ところで、いくらなんだ?」
俺は値札を確認した。
そして、また驚く。
「えっ……アンダー四千円?」
ジャケットと合わせても一万円以下。
決して安い買い物ではない。
だが、この機能と安全性を考えれば十分すぎるほど安い。
しかも上下とも総メッシュ仕様。

 


近年の酷暑を考えれば、夏用装備としても申し分ない。
「最近のワークマン、恐るべしだな……」
俺は思わずつぶやいた。

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅸ

 

「ほら、ここ見て」
史が指差したのは、パンツの両膝の脇だった。
大きなファスナーが付いている。
「開口部がめちゃくちゃ広いのよ」
「なるほど」
「前の事故のとき、お父さんの膝を守ったやつ、あるでしょう?」

 


「ああ。硬質プラスチックのニーパッドな。確か、あれもワークマンで買ったやつだったな」
「そう。それを再利用するの」
「まさか、あの外付けのニーパッドが中に入るのか?」
「入りますとも」
史は胸を張った。
「ちゃんと寸法を測ったから。余裕で入るわ」
「なるほど……」
俺は思わず感心した。
「あれが入るなら鬼に金棒だな」
実際、あのニーパッドは前回の事故で見事に役目を果たしてくれた。
あばらは折れた。肘もやられた。
だが、膝だけは本当に無傷だった。
あれには感謝しかない。
「よし。パンツも決まりだな」
史は満足そうにパンツをカゴへ放り込んだ。

 

 

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真夏の方程式 Ⅷ

 

史はライディングジャケットを買い物カゴに入れると、今度は同じシリーズのライディングパンツを物色し始めた。
「残念。上着と同じ色は売り切れね。でも、ホワイトとブラックのツートンがあるから、これで合わせましょう」
そう言って、白黒のライディングパンツを俺に差し出した。
「膝パッドは最初から入ってるけど、あくまでもツーリング向けね。お父さんみたいな走り方には、少し心もとないかな」
「そうだな」
俺もパンツを手に取ってみる。
確かに硬質ゴムのパッドは入っている。
だが、転倒時の保護性能を最優先に考えるなら、もう一段上の装備が欲しいところだ。
「心配ご無用!」
史は得意げにそう言うと、膝部分を指差しながら説明を始めた。

 

右奥が付属のニーパット、手前が事故で役立ったニーパット

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅶ

 

「マジか……アンダー五千円?」

正直、もっと高いと思っていた。

最近のライディングウェア事情には疎くなっていたが、この値段でこの装備は驚きだ。

「もちろん、そのままじゃ終わらないわよ」

史が続けた。

「肩と肘のパッドは最初から入ってるでしょ。でもね、背中のパッドを追加するだけじゃ面白くないと思って」

「ほう?」

と俺が言うと史はニヤリと笑った。

「そこで、スペシャルギアを追加しようと思うの」

「スペシャルギア?」

 

俺には見当がつかなかった。

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅵ

 

ほぼ全面がメッシュ素材だ。
手に取っただけで分かる。
これは本当に涼しそうだ。


だが、ただ涼しいだけではない。
肩と肘には、最初からしっかりとプロテクターパッドが入っていた。
肩と肘――。
そこは、まさに俺が事故でひどく痛めた場所でもある。
俺はジャケットを広げながら、さらに細かく見ていった。
 

 

「それに、オプションみたいだけど、背中にもプロテクターを入れられるようになってるな」
背面には、脊髄パッド用のポケットが縫い付けられていた。
「でしょ?」
史が少し得意げな顔をする。
「まあ、お値段以上なのは間違いないわね」


そう言われて、俺は値札を見た。
そして思わず声が出た。

 

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅴ

 

「コスパという概念を甘く見ないことね」

「すげぇな、ワークマン……」

思わず本音が漏れる。

史はすかさず買い物かごへグローブを放り込んだ。

「はい、まず一問クリア」

「数学の小テストみたいに言うな」

「次は本命。夏用ライディングジャケット」

「いやいや、それはさすがに専門店じゃないと――」

「ワークマン女子をなめてもらっては困りますよ」

そう言いながら、史はジャケットコーナーへと進んでいった。

 

夏のバイクにはこれね。史が一着のジャケットを手に取った。

 

 

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅳ

 

「まずはグローブね。事故の時、かなりしっかりした革グローブしてたのに、拳やられたでしょ?」

「ああ。夏用の薄いやつだったら、もっと大変だったと思う」

「なら、今回は“涼しいけど守る”方向で」

そう言って史が手に取ったのは、通気性の良さそうな(手のひら側が)メッシュグローブだった。

 



「ほら、ここ。ナックルガード入り」

俺は試着してみる。

 

「お、意外と握りやすいな」

ハンドルを握る真似をすると、ラバー製のガードが自然に拳へ沿った。

「親指と人差し指も補強されてるし、スマホ対応。どう?」

「かなりいい」

値札を見る。

「……え?」

「どうしたの?」

「これ、千円台なのか?」

史はニヤリと笑った。

 

 

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真夏の方程式 Ⅲ

 

「最近はバイク用ギアもかなり充実してるんだから。しかも、夏向けの快適ウェアも多いし」

「へぇ……」

「というわけで、行きましょう。現地調査です」

数学科らしい言い回しに苦笑しながら、俺は財布をポケットに突っ込んだ。

――こうして俺は、史の愛車「86」の助手席に乗り込み、近所のワークマン+へ向かうことになった。

 



日曜日の店内は思った以上に賑わっていた。
作業服姿の職人さんだけでなく、家族連れや若い女性客も多い。

「ほんとに“女子”がいるんだな……」

「だから言ったでしょ」

史は慣れた足取りで店内を進んでいく。

 

 

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