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真夏の方程式 ⑳

 

夏のライディングウェアを着て、今回買い揃えたギアを一通り装着してみる。

メッシュ素材に、通気性を重視したものばかりだ。
思った以上に風が通り、暑さもそれほど感じない。

ただ、ひとつ問題があった。

膝のプロテクターだ。

ウェアの膝専用のポケットに入れてみると、どうもしっくりこない。
位置がうまく定まらず、これでは転倒したときに十分な効果を期待できそうにない。

そこで、普段のツーリングではポケット式のプロテクターを使い、スポーツ走行をするときだけ、以前から使っている硬質プラスチックのニーパッドを「外巻き」にすることにした。



これで膝の安全対策も万全だ。

 

 

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真夏の方程式 ⑲

 

「よし。これで装備は全部そろったな」
「うん。これで一安心」
俺はあえて普段より0.5センチ大きいサイズを選び、100円ショップで買った中敷きを入れて履くことにした。
これで長距離ツーリングでも足が痛くなりにくい。



さあ――。
俺の"夏のライディング方程式"は、これですべて解けた。


肩・肘パッド入り総メッシュのジャケット。(ワークマン)
膝パット入り総メッシュのライディングパンツ。(ワークマン)
軽量ボディプロテクター。(にりん館)
通気性の良いナックルガード付きグローブ。(ワークマン)
そして、くるぶしまで守ってくれるライディングシューズ。(ワークマン)

 

これだけそろえば、真夏でも快適に、そして以前よりずっと安全に走れる。
「史、ありがとう」
俺は心から礼を言った。
「おかげで四十年間答えが見つからなかった、夏のライディングウェアの"正解"がようやく分かったよ」
史は少し照れくさそうに笑った。
「お父さんには、まだまだ元気で走ってもらわないと困るからね」
その一言が、何よりうれしかった。


俺は戦利品でいっぱいになった86の荷室を眺めながら、梅雨明けの青空を思い浮かべる。
今年の夏は、きっと今までで一番、安全で、一番快適なツーリングになる。
そんな予感がしていた。

 

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真夏の方程式 ⑱

 

さて、再びワークマンである。
史は迷うことなく、安全靴コーナーへ向かった。
「これ。これ一択です」
そう言って、一足のシューズを手に取る。
見た目はライディングシューズそのものだ。
「おっ、デザインもかなりいいな」
俺は思わずつぶやいた。
「まずは履いてみて」
「そうだな」
近くの椅子に腰を下ろし、足を通してみる。
「3Eか……」

 


足を入れた瞬間、思わず声が漏れた。
まるでジョギングシューズのようなフィット感だ。
「これ、いいなぁ」
立ち上がって何歩か歩いてみる。
「くるぶしまでしっかりガードしてくれるし、この三本のマジックテープなら脱ぎ履きも楽だ」
「でしょう?」
史が得意そうに笑う。
「それで、お値段は……」
俺は値札を見て目を丸くした。
「えっ、四千円切り? マジか。これも激安じゃないか」
「そうでしょ」
史は満足そうにうなずいた。

 

 

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真夏の方程式 ⑰

 

サーキットのライダーは必ず履いている。

オフロードライダーも同じだ。

「ということで――ワークマンに戻ります」

 



史は力強く宣言した。

「ここじゃダメなのか?」

俺は率直に聞いた。

「ダメじゃないけど、ひとつ目星を付けてるやつがあるの」

「なるほど」

ここまでくると、完全に史に任せた方がよさそうだ。

「じゃあ、お任せしようか」

そう言いながら、俺は助手席のシートトベルトを締めた。

どうやら娘による『還暦ライダー安全強化計画』は、まだまだ続くらしい。

 

 

 

 

 

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真夏の方程式 ⑯

 

「じゃあ帰るか」

そう言って二人で86に乗り込んだ。

すると史が急に真顔になった。

「待って」

「ん?」

「大事なものを忘れてる」

「一通り揃ったんじゃないのか?」

「忘れてる」

史は断言した。

「……」

「ライディングブーツよ」

「ああ、ブーツか」

正直、まったく頭になかった。

「くるぶしを守るためのライダーの基本装備」

「この前の事故では、くるぶしは無事だったからな」

「転倒したとき、足首をバイクと路面に挟まれて大ケガするケースも多いらしいわ」

「確かに……」

俺はうなずいた。

 

 

 

 

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真夏の方程式 ⑮

 

史も満足そうだった。

俺はふざけた口調で言った。

「でも、お値段高いんでしょう〜?」

テレビ通販の司会者の真似である。

とはいえ、ここは二輪用品専門店だ。

ワークマン価格というわけにはいかないだろう。

俺は老眼の目を凝らして値札を見た。

「アンダー七千円か」

思ったよりずっと安い。

得られる安心感を考えれば、十分に納得できる価格だ。

「思ったより安いな。スペシャルギア、採用だ」

「当然です」

史は満足そうに笑った。

86のトランクには、今日の戦利品が次々と積み込まれていく。

 

 

 

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真夏の方程式 ⑭

「何本も折れた肋骨。それから今回は無事だった脊椎。この二か所はしっかり守れるわ」

史はさらに続ける。

「鎖骨の保護も期待できるしね」

そう言いながら、実物を俺に手渡した。

「これがスペシャルギアか」

俺は長袖Tシャツの上から試着してみた。

 



軽い。

そして驚くほど窮屈感がない。

「おっ、これ背中側のサポートもいいな」

思わず本音が漏れた。

「でしょ?」

史は満足そうにうなずいた。

バイク歴は長いが、ボディプロテクターを装着するのは初めてだ。

正直、安心感がまるで違う。

事故の前から着けていたら、結果はかなり変わっていたかもしれない。

そんな思いが頭をよぎった。

「史、スペシャルギア了解。夏もこれを着けて走るよ。風通しも良さそうだしな」

「決まりね」

 

 

 

 

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真夏の方程式 ⑬


「今日買うスペシャルグッズは、そこまで高くないと思うけどね」

さて、史の言うところの“スペシャルグッズ”とは何なのか。

まったく見当がつかない。

俺たちは広い駐車場に86を停め、店内へ入った。

「さすが専門店だな。品ぞろえが豊富だ」

俺は素直に感心した。

一方の史は、まるで下見を済ませていたかのように一直線にプロテクター売り場へ向かう。

「さらにプロテクターか……」

俺は思わずつぶやいた。

膝、肘、肩はすでに装備済みだ。

そんなことを考えながら史の後をついていく。

「夏を想定するなら、おすすめはコレ」

そう言って史が手に取ったのは、軽量な硬質プラスチック製のボディプロテクターだった。

 

 

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅻ



軽快な排気音が駐車場に響く。

「しかし、お前もずいぶん詳しくなったな」

俺が感心して言うと、史は前を向いたまま答えた。

「そりゃそうでしょ」

少しだけ間を置いて続ける。

「お父さん、もう二度と入院したくないでしょう?」

「ああ。金輪際、入院も手術もまっぴらだ」

俺は即答した。

「そりゃそうだよね」

史は何事もなかったかのようにハンドルを切り、86を国道へ滑り込ませた。

目的地はバイク用品専門店「2りんかん」。

どうやら俺の安全装備強化計画は、まだ終わっていないらしい。

やがて、「2りんかん」の大きな看板が見えてきた。

「前にプレゼントしたヘルメット。あれ、ここで買ったの」

「ああ。あのヘルメットは機能性が高くて重宝しているよ。本当にありがとうな」

俺はあらためて礼を言った。

 

 

 

 

 

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真夏の方程式 Ⅺ



レジで会計を済ませると、史が待つ86へ乗り込んだ。

「これで終わりか?」

俺が聞くと、史はニヤリと笑った。

「甘いわね」

「まだあるのか」

「最後に、さっき言った“最新ギア”を買いに行くのよ」

「ああ、あれか」

「もちろん、ワークマンには売ってない」

「だろうな」

「次は――2りんかん」

「ああ、バイク用品専門店か」

「そういうこと」

史はシートベルトを締めると、86のエンジンを始動した。

軽快な排気音が駐車場に響く。

 

 

 

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