レンゲの花の理由
振り返ると、これから干すのだろう洗濯物を抱えた妻の華が立っていた。
「レンゲの花、咲いてるな」
俺が声をかける。
「そうね」
華は穏やかに答えた。
「でも、きれいに咲いている田んぼと、そうでないところがあるな」
「そうなのよ。レンゲって、自然に生えてるわけじゃないらしいわよ」
「え、知らなかった。てっきり自然のものだと思ってた」
「田んぼに種をまくのよ。春に花が咲いたあと、そのまますき込むと、天然の肥料になるんだって」
「この歳になるまで知らなかったな……」
俺は妙に感心した。
しばらく、静かな時間が流れた。
やがて華が口を開いた。
「考えてたんでしょ。もう一度バイクに乗るかどうか」
「……図星だな」
「あなた、言ってたじゃない。『自分の特技はバイクで速く走れること』って」
「もう“速く”は走れないけどな……」
「それに、『バイクを取ったら何も残らない』とも言ってたわよね」
「それは……まあ、半分は本音だな」
華は少しだけ笑った。
「桜でも見てきたら? ただし、完璧な安全運転でね」

「イノシシが飛び出してきても、今度は必ず避けきるよ」
「そう願ってるわ」
このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。