海面漁業と養殖業の現状
「では、矢野先生。長崎県の水産業、特に海面漁業と養殖業の現状についてお願いします。」
「はい、わかりました。」
矢野教授の声が、落ち着いた響きで会議室を満たす。
「長崎県の水産業は、生産量が全国3位、生産額では全国2位です。ただ、かつてのピーク──99万トンあった生産量は、今や31万トン。生産額も2,259億円から半分以下の996億円へ減少しています。就業者数も1979年の4分の1、約1万1千人。経営体と就業者数は全国2位ですが、この5年間で組合員は4,000人近く減っています。」
言葉を重ねるうちに、教授の表情は自然と厳しさを帯びていった。
「一方で、魚種の多さは日本一とも言われ、全国1位の魚種も多い。地域の強みを活かせばまだ可能性はある。ただ、天然資源の減少や漁獲制限による収入減で、生活は不安定。後継者不足と高齢化への対策は急務です。」
天野次長と大杉主任は、静かに頷く。
「では、今後の水産業のあり方について、ご教示ください。」
上田所長の言葉に、教授は軽く頷き、続けた。
「世界的に見ると、海面漁業は頭打ちで、養殖が急増しています。安定しておいしい魚介類や海藻を食べるためには、『とる漁業』と『養殖』の両輪が必要。日本でも国が養殖を推進しています。」
「やっぱり、そうなんだ…。」
天野次長と大杉主任が、同時につぶやく。
「養殖が推進される理由は、主に四つです。」
と言いながら、教授はパワーポイントのページを進めた。
・とることで資源が減ってしまう魚介類・海藻がある。
・安定供給が求められる魚介類・海藻がある。
・安全な生産のため養殖が必要な魚介類・海藻がある。
・生まれてからの履歴(トレーサビリティー)が求められる場合がある。
「ただ、日本は人口減少と魚食離れで、国内市場の拡大は難しい。だからこそ、質の向上による生産性アップと、海外販路の開拓が鍵になります。」
そこで教授は一拍置き、視線を鋭くした。
「海外に売るには、定時・定質・定量・定価格が必要。そして、環境に配慮しているかも問われます。つまり『量』と『質』の両立。そのためには養殖技術の高度化が不可欠です。」
さらに具体例を挙げる。
「環境に負荷をかけない人工種苗の利用、赤潮を起こさない養殖、魚由来ではなく植物由来の餌の開発…。そして、それらを可能にするのが、デジタル技術による精密な管理です。消費者は“その魚がどこで生まれ、何を食べ、どんな環境で育ったか”まで知りたがる時代なんです。」
「牛肉、豚肉、鶏肉と同じ考え方かぁ…」と大杉主任がつぶやく。
「その通り!」教授は即答した。
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