海と街をつなぐ発想
このあと、教授が語る「未来の養殖ビジネス」の青写真は、二人の胸に深く刻まれることになる。
「では、座学のまとめとして──“ながさきオーシャン・エコノミー”の三本柱をご紹介しましょう。」
矢野教授は、モニターに映るスライドをクリックし、画面を切り替えた。
三本柱が、簡潔な矢印付きで並んでいる。
作業を変える:生産者の負担を軽減する養殖技術の開発 → 沖合養殖システムの開発
育て方を変える:海の生物と環境への負担を減らす養殖技術の開発 → 人工種苗による生産体制構築、ブリ人工種苗センターの設置
働き方を変える:若者が魅力を感じるプラットフォームの構築 → 「JAPAN鰤」販売体制の構築、長崎マルシェの設置
「それです! 矢野先生!」
思わず天野次長が、椅子を押しのけるように立ち上がった。
「……え? どの部分をおっしゃってるんですか?」
やや戸惑い気味に、矢野教授。
「私たち、“長崎お魚マルシェ”を創りたいんです。」
天野次長の声には、もはや迷いがなかった。
「ほう。」
不意を突かれた矢野教授の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「では、座学はこのあたりで。研究施設をご案内しましょう。」
促され、三人は陸上養殖研究施設へと足を運んだ。
ドアをくぐった瞬間、上田所長が低く唸る。
「これは……すごい。」
水槽の中を悠々と泳ぐ魚たち。水質や成長をリアルタイムで表示する壁面モニター。
人工種苗で育てられた個体が、健康そのものの光沢を放っている。
専門家ならではの鋭い質問が、矢継ぎ早に上田所長の口から飛び出し、教授は間髪入れずに的確な答えを返す。
そのやり取りは、天野次長と大杉主任にはやや専門的すぎたが、大杉主任はひたすらメモとカメラで記録に集中していた。
現場感覚と最先端技術が同居する空間に、二人はただ圧倒されるばかりだった。
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