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世界一美しい

「さあ、次長!世界一美しいスタバ――環水公園店に行きましょう!」
「……仕方ないわね。せっかくだから寄ってみましょうか」
「そう来なくっちゃ!」

秋の紅葉が彩る環水公園。水辺に映えるガラス張りのスターバックスは、確かに“美しい”と呼ぶにふさわしい姿だった。
「紅葉の季節に来られて良かったわね。本当に素敵だわ」天野次長がしみじみと言う。
二人は短いコーヒータイムを楽しんだ。

 



さて、夕食である。
二人は富山県の第三セクター鉄道・万葉線の新湊港線に乗り、新町口で下車した。駅から歩いてすぐの場所にある「割烹 かわぐち」。千﨑部長が予約してくれた店だ。

 


割烹 かわぐち

「外見は…普通~のお店ですねぇ」大杉主任が首をかしげる。
「でも、部長おすすめなんだから、間違いはないと思うわ」天野次長は冷静に返す。

店内に入っても、派手さはなく落ち着いた雰囲気。
「ここ、本当にカニのコースなんですかね」大杉主任が小声でつぶやく。

 

 

仲居さんが丁寧に料理の説明をしてくれた。
「当店は白エビやズワイガニなど、富山湾の海の幸が自慢でございます。本日は、旬のズワイガニをふんだんに使ったコースで承っております」

運ばれてきた料理に、二人の表情が一変する。
最初の一口を味わった瞬間、天野次長が思わず声を漏らした。
「……おいしい。今まで食べたことのない味だわ」
「ほんとですねぇ…!」大杉主任はもう言葉にならず、夢中で箸を動かしている。



焼きガニ、カニ刺し、カニ鍋――次々と運ばれる品に、二人はすっかり魅了された。

やがて食事を終え、会計へ。
法人カードを手にした天野次長は、明細書を見て小さくつぶやく。
「……副部長じゃないけど、これは結構いったわね」
「だって地酒がおいしすぎたんですよ。つい、ジャンジャンいっちゃいました」大杉主任はご機嫌だ。
天野次長は苦笑しながらカードを財布にしまう。
「まあいいわ。今日は学ぶことも多かったし、ご褒美ということで」

二人は、ほんのり酔いを帯びた頬で店を後にした。

 

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公共交通機関の活性化

「鉄軌道を活性化させ、その沿線に住居や商業、行政、文化を集中させる。これが“串”であり、“お団子”の都市構造です」
「お団子と串…分かりやすいですね」天野次長が感心する。

 



「実際にJR高山本線では、増発運行に加えて駅前広場や駐輪場、P&R駐車場の整備を進めました」
「沿線住民の利便性向上ですね」
「その通りです」

 



京田社長はページをめくる。
「効果は数字に表れました」
「…すごい。これほど利用者が増えたんですか」天野次長が思わず息をのむ。

 



さらに高齢者対策として、「おでかけ定期券」を導入。65歳以上は市内の公共交通を一律100円で利用できる。
「たとえば通常1,160円の区間も100円にしました」


「え、そんなに?!」大杉主任が目を丸くする。
「結果、平日利用は2倍、休日は3倍以上に増えました。健康寿命の延伸にもつながっています」

 

 


「これは…すごい取り組みだわ」天野次長が深くうなずいた。

2時間に及ぶ熱のこもったレクチャーが終わる。
「京田社長、本日はありがとうございました」
「大阪に行く機会があれば、千﨑部長に一杯おごってもらうと伝えてください」
「必ず伝えます!」大杉主任が笑顔で応じた。

二人は富山市民プラザを後にした。

 

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レクチャー開始!

天野次長は姿勢を正した。
「本日は“富山モデル”を学ばせていただきに参りました」

京田社長は、まずこう切り出した。
「最初に“答え”を言ってしまいましょう。――“富山市民ファースト”です」
「どこかの政党のスローガンみたいですね」大杉主任が笑う。
「観光客ファーストではないんですか?」天野次長が問いかける。

「新幹線の改札口で何か気づきませんでしたか」
「改札を出たら、目の前がLRT乗り場でした」

 


「そうです。観光客優先なら土産物店が並びますよね。でも富山は市民優先。学生やサラリーマンに好評なんです」
「なるほど…」

そこから本題に入った。
京田社長は資料を広げながら語る。
「富山市が目指すコンパクトシティは、生活サービスを中心部に集約し、公共交通でつなぐ仕組みです。人口減少や高齢化で買い物や医療サービスが維持できなくなる前に、先手を打つのです」

 

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富山市民プラザ

富山でのアポイントは順調にまとまり、会議から一週間後。
天野次長と大杉主任は敦賀駅から北陸新幹線に乗り、富山駅に到着した。

「うわ、改札出たら、そのまま路面電車に乗れちゃうんですね!」

 


 

大杉主任が思わず声を上げる。
「駅構内にLRT(Light Rail Transit)が乗り入れているのよ」天野次長がさらりと答える。
「超便利ですねぇ」
「そうね」



二人はLRTに乗り、大手モール電停で下車した。
「ここが富山市民プラザか。立派な建物ね」天野次長が小さくつぶやく。

携帯で連絡すると、若い担当者が小会議室に案内してくれた。
そこには富山市民プラザの京田社長が待っていた。

 



「千﨑部長はお元気ですか」
「はい。変わらずお元気です」天野次長が応える。
京田社長は懐かしそうに微笑んだ。
「私が市役所で都市整備部長をしていた頃、一度ご一緒したことがありました。確か温泉街の再建に取り組まれていましたよね」
「はい。その通りです」

 

 

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ニューヨーク・タイムズが選ぶ街

短い沈黙の後、千﨑部長が答える。
「富山市だろうな」

「そうです!ニューヨーク・タイムズが“2025年に行くべき52カ所”に選んだあの富山市です。日本からはここ大阪市と富山市だけなんですよ」
大杉主任は興奮気味に補足する。

 



「富山市民プラザの京田社長を訪ねてみてはどうかな。確かな情報が得られるはずだ」
「ありがとうございます。ぜひそうさせていただきます」天野次長が深くうなずいた。

部長はさらに話を続ける。
「次長の方で、長崎の“お魚マルシェ”の案件も進行中だったな」
「はい。まだ企画段階ですが…」
「せっかく行くなら食の調査も兼ねてきなさい。参考になる店を二つ紹介しておく」
「ありがとうございます」天野次長が即答する。

俺は心の中で感心していた。――相変わらず、引き出しが多い部長だ。

「それでは、天野次長と大杉主任は二泊三日の富山出張を企画し、文書にまとめて回してください」
「承知しました」

会議を終えて部屋を出ると、大杉主任が天野次長に耳打ちした。
「次長、ご存じですか。富山市には“世界一美しいスタバ”があるんですよ。絶対行きましょうね」
「大杉さん。いつも言っていますが、出張は遊びではありません」
口調は冷静だが、その声にほんの少し苦笑が混じっていた。

 

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コンパクトシティとは

週明けの朝、定例の案件会議。
司会進行を務める俺は、次の報告者を促した。

天野次長が落ち着いた声で切り出す。
「新規の取組みとしまして、関西圏のコンパクトシティを目指す自治体と連携し、市民向けセミナーを開催したいと考えています」

「具体的には、どの自治体を想定していますか」千﨑部長が問いかける。
横に座っていた大杉主任がパソコンを見ながら答えた。
「はい。富田林市(大阪府)、奈良市(奈良県)、和歌山市(和歌山県)、舞鶴市(京都府)、そして豊岡市(兵庫県)の五つです」

「なるほど」部長はうなずく。

今度は成瀬代理が口を開いた。
「最終的な狙いはどこにありますか」
天野次長は即答する。
「自治体のコンパクトシティ構築に関するコンサルティングに結びつけることです。収益の柱になると考えています」
「なるほど」成瀬代理も納得した様子だ。

そこで俺は率直に聞いてみた。
「コンパクトシティって、言葉は聞くけど、具体的にどんな街を指すのかな」
「はい」待ってましたとばかりに大杉主任が説明を続ける。
「コンパクトシティとは、住宅や商業、医療など生活機能を中心部に集約し、公共交通でつなぐ都市計画です。人口減少や高齢化が進む中でも行政サービスを維持しやすく、住民の利便性や環境面にも効果があるんですよ」

「なるほど。つまり人口減少と高齢化が背景にあるわけだな」

「いえ、それだけではありません」天野次長がきっぱりと補足する。
「コンパクトシティには公共交通機関の整備が欠かせません。ですから、対象自治体は思った以上に限られてきます」

 



会議室に少し緊張が走る。
天野次長は続けた。
「そこでご相談ですが、まず成功事例を視察して、実務を担った方々から直接学びたいと考えています。皆さん、候補地のご意見はありますか」

 

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フォーラム終了

「これほど中身の濃いフォーラムやシンポジウムは、沖縄のOISTでの天野次長の講演以来じゃないですかね」

千崎部長の声に振り返ると、彼がいつの間にか背後に立っていた。
「とにかく、二人ともお疲れさまでした」

「私も非常に良かったと思います」
成瀬次長がにっこりと応じる。

オフィスに戻ると、天野次長と大杉主任はすでに帰り支度をしていた。
「お疲れさまでした」
ねぎらいの声に、俺たちは軽く頭を下げる。

そのとき、大杉主任がニヤリと笑って口を開いた。
「千葉理事、本当に山本副部長の同級生なんですか? 副部長とは、ずいぶん差がついちゃってますけど」

俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「まぁ、高校時代から差はあったけどな。40年も経つと、その差は恐ろしいほど広がる。……でも今でも『千葉っち』と呼んでるけどな」

オフィスに笑い声が広がった。
その明るさが、張り詰めていた空気を一気に和らげていく。

「じゃあ、みんなで串カツでも食べに行きましょうか」
千崎部長がにこやかに声をかける。

「行きます! ただし、部長のおごりで~」
大杉主任がすかさず茶化す。

「もちろんおごりですが、副部長と折半でね…」
「勘弁してくださいよ」
「冗談冗談、冗談です」

天野次長が笑いながら手を振る。
「じゃあ、さっさと行きましょう」

次の瞬間、オフィスの空気が一気に軽くなる。
フォーラムの緊張と興奮は、温かな日常の笑いへと溶けていった。

 

 

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フォーラム当日

会場は大阪・中之島のグランキューブ大阪。
「メインホール」2,754席は事前登録でほぼ満席。
中小・零細企業の経営者が半数を占め、市民、研究者、学生、自治体関係者が続き、大企業の担当者がちらほら見える。
まるで大阪の縮図そのものだった。

 



開場と同時に、会場は熱気に包まれた。
空気がざわめき、期待が渦を巻く。

そして幕開け。
圧巻だったのは、やはりオープニング直後に行われた千葉理事の基調講演だった。
冷静で科学的な根拠に裏打ちされた言葉。
だがそこに込められたのは、未来への希望を切り拓こうとする熱いメッセージだった。



聴衆は水を打ったように静まり返り、一言一句を飲み込むように聞き入った。
講演が終わった瞬間――割れんばかりの拍手が津波のように押し寄せた。

続くパネルディスカッションでも、意見は鋭く、ぶつかり合い、そして共鳴した。
ときには会場から自然と拍手が湧き、熱気がさらに高まる。

フォーラムは大盛況のうちに幕を閉じた。
講師控室を訪れると、千葉理事の前には名刺交換を求める長蛇の列ができていた。

遠くから視線を送ると、千葉っちが気づき、軽く会釈を返してくる。
その何気ない仕草は――あの高校時代と、まるで変わらなかった。

「今日は最終便で東京に戻るそうです」
成瀬代理が小声で伝えてきた。

胸の奥にじんわりと広がる感慨を抱きながら、俺はその光景を目に焼きつけた。

 

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たかがヘルメット。されど...

本当に今になって知ったのだが、『バリバリ伝説』の巨摩 郡(こま ぐん)は、設定上、1967年3月9日生まれだという。
つまり、俺と同い年――まさかの同世代ライダーだったとは。

作者の重野秀一先生は1958年3月8日生まれだから、9歳年上。
なるほど、当時の若者たちのバイク熱を、まさにリアルタイムで描けたわけだ。

さて、俺のヘルメットカラーは、その巨摩 郡へのオマージュだ。
アラ還ライダー仲間からは「まだそんなの被ってるのか」とよく冷やかされるが、気に入っている。
ホームセンターで買った安ヘルメットに、缶スプレーで塗っただけの代物。
それでも、俺にとっては“中でも一番のお気に入り”だ。



それにしても、重野先生はあのヘルメットデザインをどこから着想を得たのだろう。
当時のレーサーのものからか。

 

水谷 勝

 

高井幾次郎

色合いは違うけど、RGBⅮ500の河崎裕之の線も...。

まあ、今となっては、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
それでも、このヘルメットを被るたびに2ストの匂いが漂ってくる気がするのだ。

 

 

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コンペの結果は…

その後の準備は、千葉理事の力添えもあり、驚くほど順調に進んでいった。
彼が自らネットワークを駆使し、国立環境研究所の花咲室長や、エネルギー・資源学会の竹橋会長といった錚々たる顔ぶれをパネラーとして推薦してくれたのだ。

俺たちの企画は、日に日に厚みを増していく。
しかし安心などできなかった。入札方式の企画競争――各社が一対一でプレゼンを行うため、他社の提案はまったく読めない。
ただひとつ、胸にあったのは確信だ。
「このラインアップで負けるはずがない」

二週間後。結果は一本の電話と、公式ホームページで告げられた。

――大阪ビジネスコンサルタンツの企画、採用決定。
しかも、他社を圧倒的な得点差で。

受話器を置いた瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が爆発する。
「……勝った!」

 



俺たちはついに、フォーラム開催主催の大役を勝ち取ったのだ。

 

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