いっちょ行きますか。
片山さんがにやりと笑った。
「山ちゃん、久々にK-1一緒に走ってみるか」
「……37年ぶりですかね。最後に走ったのは、大学卒業前ぐらいでしたから」
「そんなになるか」
「オイルがかかると悪いから、山ちゃん先行でいいよ」
「了解です」
内心、俺はほくそ笑んだ。――K-1の登り。これはチャンスだ。
スタート。序盤はぴたりと背後につかれたが、傾斜のきつい上りカーブを立ち上がるたび、少しずつ差が広がっていく。
TZR250。かつてレーサーレプリカの代名詞だった名車だ。軽快な排気音がコンディションの良さを物語っている。だが、とはいっても旧車。排気量の余裕とハイグリップタイヤの差がものを言い、テクニック抜きでも自然と引き離していける。
最終の直線――振り返れば、400メートルほど後方にTZR。
そのままゴール。
1勝13敗。
ついにCB650Rを買って屈折10か月。ようやくK-1で初勝利を収めた。
片山さんは俺の横にバイクを止め、ヘルメット越しに声をかけてきた。
「まあ、そんなもんだろうな。でも――下りなら絶対負けないぞ。次は下りで勝負だ」
そう言うと、ひらりと手を上げ、街の方へと下っていった。
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