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戦略完結

 

今日は――2027年9月30日、木曜日。
我々、地域戦略部の面々は「長崎うまいもの市場」の関係者向けプレオープン会場に集まっていた。
約2年に及ぶ準備期間を経て、いよいよ明日10月1日、グランドオープンを迎えるのだ。



舞台は、長崎市の繁華街に位置する「マルシェつきまち」地下1階。
そこに並ぶのは、選りすぐりの24店舗(鮮魚販売店含む)。
旨い魚料理はもちろん、長崎牛、ちゃんぽん・皿うどん、中華料理、名物トルコライス――。
考え得る限りの“長崎の味”が、この地下にすべて詰まっている。

短い準備期間でここまでこぎつけたのは、天野次長の情熱あってのことだ。
だが、資金・人材の両面で支えた伊達木社長、さらにフォレスト・トラストの関連会社が誇る企画力も、成功を決定づけた。
そして忘れてはならない。「マルシェつきまち」湯村社長の尽力である。
この四人の信頼と意地が、今日という日を引き寄せた。

オープン前日の地下1階は、関係者と招待客でごった返していた。
熱気と笑顔、そしてどこか漂う緊張感。
――長崎の夜に、新しい風が吹こうとしていた。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

また来るね富山

――翌日。
午前中は富山市ガラス美術館と老舗の池田安兵衛商店を観光し、二人は富山駅から新幹線に乗り込んだ。





車内では名物の鱒寿司と鯖寿司を広げる。
「旨いですね、コレ」大杉主任が口いっぱいにほおばる。
「ほんと、富山はいい所だったわね」天野次長も感慨深げに言った。
「そりゃ、ニューヨーク・タイムズが“2025年に行くべき場所”に選ぶはずですよ」
大杉主任が最後の一切れを平らげると、天野次長は会社のLINEに「帰路につきました」と報告を送った。

そのとき――。
「あっちゃー!」大杉主任が声をあげた。
「どうしたの、大杉さん」
「氷見牛、食べそこないましたよ、次長!」
「まあ、いいじゃない。次回のお楽しみってことで」

数分後、また声が上がる。
「あっちゃー!」
「今度は何?」
「お土産、買うの忘れました」
「そんなことだろうと思って、池田安兵衛商店で「反魂丹(はんごんたん)」を皆さんに買っておきました。」

 


「死者を蘇らせる霊薬じゃ~」と大杉主任がふざける。
天野次長が思わず吹き出す。

そして列車は静かに大阪駅のホームへと滑り込んだ。
 

 

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経営者の気概

旭社長は声を強めた。
「加えて、富山には“我が社も上場するぞ”という気概の経営者が多い。デメリットを承知の上で挑戦する。地元経済を牽引する存在になりたいという強い思いがあるのです」
「地元愛か…」大杉主任がぽつりとつぶやく。
「経営者の意気込みそのものが地域の空気を変えているのですね」天野次長も感慨深げだった。

予定時間を過ぎるほど熱心な視察となったが、最後に天野次長が深々と頭を下げた。
「旭社長、本日は貴重なお話をありがとうございました。大きな学びを得ることができました」
「こちらこそ。商人の街・大阪から富山の企業を見学いただき光栄です」

研究所の沼田主任も一礼し、視察は終了した。

帰りの車内で、大杉主任が窓の外を眺めながら言った。
「地方の人口減少や若者流出って、解決は簡単じゃないですけど……少なくとも富山にはヒントがありましたね」
「ええ。企業の気概と地域の支え合い。その組み合わせが、この街を強くしているのだと思うわ」天野次長が静かに答えた。

磯料理「松月」

富山経済研究所に戻ったあと、沼田主任研究員も誘い、夕食会場の磯料理「松月」へタクシーで向かった。
すでに日は落ち、外は深い闇に包まれている。

「いかにも料亭って感じで、いい雰囲気ですね」
暖簾をくぐりながら大杉主任が感心する。

 



座敷に案内されると、沼田主任が地元らしく解説を始めた。
「松月は明治44年創業。この岩瀬港町は北前船の寄港地として栄え、当時は廻船問屋が軒を連ねていました。ここでは今も富山湾の新鮮な地魚を生かした料理が楽しめます。なかでも白えびは県の名産。200匹を使って作る“白えび団子”は名物ですね」
「へぇ~、それはすごい」大杉主任が思わず声をあげた。



海鮮懐石のコースが始まる。
刺身、焼き物、煮物――次々と運ばれてくる料理に、思わずため息がもれる。
「やっぱり、おいしいわねぇ、富山の食事は」天野次長が箸を止めて言った。

 



盃を傾けながら、天野次長は今回の視察の目的を率直に語った。
「関西でもコンパクトシティを目指す都市はあります。ただ人口減少や若者流出はどこも悩みの種で…」
「なるほど。いい勉強になったようですね」沼田主任が微笑む。
「ええ。大阪に戻ってコンサルティングのプラットフォームを作りたいと思っています。もちろん時間はかかりますけど」

和やかな宴は夜更けまで続いた。

 

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上場を目指せ!

「当社は医薬品や化粧品向けのパッケージ分野で国内シェアトップを自負しております。創業は明治5年、富山の配置薬の包材供給から始まりました。2002年に上場し、現在はスタンダード市場に属しています」

展示ギャラリーを眺めながら、天野次長が小さくつぶやく。
「なるほど…薬都・富山に根ざした企業なんですね」
「この薬、私いつもお世話になってますぅ~」大杉主任が笑うと、
「ご愛用ありがとうございます」旭社長が真顔で頭を下げた。

 



見学を進めるうち、天野次長が切り込んだ。
「富山には上場企業が26社あると伺いました。なぜこの地では、上場を目指す動きが盛んなのでしょうか」

旭社長は一瞬考え、穏やかに答えた。
「まず、上場企業は若者の就職先として“憧れ”の対象になる。地域の雇用を支える存在として重要です。また自治体にとっても税収や生活基盤に直結します」

さらに続ける。
「上場によって企業の知名度や信用は格段に上がります。優秀な新卒を採用しやすくなるのも大きい。地方では安定した雇用環境を提供できることが、若者の流出を防ぐポイントです」

 



「なるほど…」三人は深くうなずいた。

 

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受け継がれる薬売りスピリット

富山二日目。
この日のテーマは、地域経済活性化の事例研究だった。
午前は富山経済研究所を訪問し、午後は地元企業を視察する。

千﨑部長の紹介で、研究所の沼田主任研究員が出迎えてくれた。
「ようこそ。昨日、千﨑部長から“富山経済のすべてをレクチャーしてやってくれ”と言われましたが、さすがにそれは無理です、とお答えしておきました。はっはっは」

 

 

「相変わらずで失礼いたしました。本日はどうぞよろしくお願いします」天野次長が頭を下げる。

沼田主任は早速、富山の経済構造について語り始めた。
「富山県には上場企業が26社あります。地域経済は比較的安定しており、人口流出も他県に比べて少ない。それは“富山人の気質”や“地場産業の歴史”と密接に関わっているのです」

午前中いっぱい、富山の薬売りの歴史から現代までの系譜、勤勉さと実直さを重んじる富山人気質など、詳しい説明が続いた。

昼食を挟み、午後からは旭印刷株式会社を訪問する。

 



工場入口では、社長の旭重徳氏が自ら出迎えてくれた。
「ようこそお越しくださいました。社長の旭です」

 


「大阪ビジネスコンサルタンツの天野です。こちらは大杉主任」
あいさつを交わすと、旭社長は自ら工場を案内してくれた。
 

 

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世界一美しい

「さあ、次長!世界一美しいスタバ――環水公園店に行きましょう!」
「……仕方ないわね。せっかくだから寄ってみましょうか」
「そう来なくっちゃ!」

秋の紅葉が彩る環水公園。水辺に映えるガラス張りのスターバックスは、確かに“美しい”と呼ぶにふさわしい姿だった。
「紅葉の季節に来られて良かったわね。本当に素敵だわ」天野次長がしみじみと言う。
二人は短いコーヒータイムを楽しんだ。

 



さて、夕食である。
二人は富山県の第三セクター鉄道・万葉線の新湊港線に乗り、新町口で下車した。駅から歩いてすぐの場所にある「割烹 かわぐち」。千﨑部長が予約してくれた店だ。

 


割烹 かわぐち

「外見は…普通~のお店ですねぇ」大杉主任が首をかしげる。
「でも、部長おすすめなんだから、間違いはないと思うわ」天野次長は冷静に返す。

店内に入っても、派手さはなく落ち着いた雰囲気。
「ここ、本当にカニのコースなんですかね」大杉主任が小声でつぶやく。

 

 

仲居さんが丁寧に料理の説明をしてくれた。
「当店は白エビやズワイガニなど、富山湾の海の幸が自慢でございます。本日は、旬のズワイガニをふんだんに使ったコースで承っております」

運ばれてきた料理に、二人の表情が一変する。
最初の一口を味わった瞬間、天野次長が思わず声を漏らした。
「……おいしい。今まで食べたことのない味だわ」
「ほんとですねぇ…!」大杉主任はもう言葉にならず、夢中で箸を動かしている。



焼きガニ、カニ刺し、カニ鍋――次々と運ばれる品に、二人はすっかり魅了された。

やがて食事を終え、会計へ。
法人カードを手にした天野次長は、明細書を見て小さくつぶやく。
「……副部長じゃないけど、これは結構いったわね」
「だって地酒がおいしすぎたんですよ。つい、ジャンジャンいっちゃいました」大杉主任はご機嫌だ。
天野次長は苦笑しながらカードを財布にしまう。
「まあいいわ。今日は学ぶことも多かったし、ご褒美ということで」

二人は、ほんのり酔いを帯びた頬で店を後にした。

 

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公共交通機関の活性化

「鉄軌道を活性化させ、その沿線に住居や商業、行政、文化を集中させる。これが“串”であり、“お団子”の都市構造です」
「お団子と串…分かりやすいですね」天野次長が感心する。

 



「実際にJR高山本線では、増発運行に加えて駅前広場や駐輪場、P&R駐車場の整備を進めました」
「沿線住民の利便性向上ですね」
「その通りです」

 



京田社長はページをめくる。
「効果は数字に表れました」
「…すごい。これほど利用者が増えたんですか」天野次長が思わず息をのむ。

 



さらに高齢者対策として、「おでかけ定期券」を導入。65歳以上は市内の公共交通を一律100円で利用できる。
「たとえば通常1,160円の区間も100円にしました」


「え、そんなに?!」大杉主任が目を丸くする。
「結果、平日利用は2倍、休日は3倍以上に増えました。健康寿命の延伸にもつながっています」

 

 


「これは…すごい取り組みだわ」天野次長が深くうなずいた。

2時間に及ぶ熱のこもったレクチャーが終わる。
「京田社長、本日はありがとうございました」
「大阪に行く機会があれば、千﨑部長に一杯おごってもらうと伝えてください」
「必ず伝えます!」大杉主任が笑顔で応じた。

二人は富山市民プラザを後にした。

 

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レクチャー開始!

天野次長は姿勢を正した。
「本日は“富山モデル”を学ばせていただきに参りました」

京田社長は、まずこう切り出した。
「最初に“答え”を言ってしまいましょう。――“富山市民ファースト”です」
「どこかの政党のスローガンみたいですね」大杉主任が笑う。
「観光客ファーストではないんですか?」天野次長が問いかける。

「新幹線の改札口で何か気づきませんでしたか」
「改札を出たら、目の前がLRT乗り場でした」

 


「そうです。観光客優先なら土産物店が並びますよね。でも富山は市民優先。学生やサラリーマンに好評なんです」
「なるほど…」

そこから本題に入った。
京田社長は資料を広げながら語る。
「富山市が目指すコンパクトシティは、生活サービスを中心部に集約し、公共交通でつなぐ仕組みです。人口減少や高齢化で買い物や医療サービスが維持できなくなる前に、先手を打つのです」

 

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富山市民プラザ

富山でのアポイントは順調にまとまり、会議から一週間後。
天野次長と大杉主任は敦賀駅から北陸新幹線に乗り、富山駅に到着した。

「うわ、改札出たら、そのまま路面電車に乗れちゃうんですね!」

 


 

大杉主任が思わず声を上げる。
「駅構内にLRT(Light Rail Transit)が乗り入れているのよ」天野次長がさらりと答える。
「超便利ですねぇ」
「そうね」



二人はLRTに乗り、大手モール電停で下車した。
「ここが富山市民プラザか。立派な建物ね」天野次長が小さくつぶやく。

携帯で連絡すると、若い担当者が小会議室に案内してくれた。
そこには富山市民プラザの京田社長が待っていた。

 



「千﨑部長はお元気ですか」
「はい。変わらずお元気です」天野次長が応える。
京田社長は懐かしそうに微笑んだ。
「私が市役所で都市整備部長をしていた頃、一度ご一緒したことがありました。確か温泉街の再建に取り組まれていましたよね」
「はい。その通りです」

 

 

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ニューヨーク・タイムズが選ぶ街

短い沈黙の後、千﨑部長が答える。
「富山市だろうな」

「そうです!ニューヨーク・タイムズが“2025年に行くべき52カ所”に選んだあの富山市です。日本からはここ大阪市と富山市だけなんですよ」
大杉主任は興奮気味に補足する。

 



「富山市民プラザの京田社長を訪ねてみてはどうかな。確かな情報が得られるはずだ」
「ありがとうございます。ぜひそうさせていただきます」天野次長が深くうなずいた。

部長はさらに話を続ける。
「次長の方で、長崎の“お魚マルシェ”の案件も進行中だったな」
「はい。まだ企画段階ですが…」
「せっかく行くなら食の調査も兼ねてきなさい。参考になる店を二つ紹介しておく」
「ありがとうございます」天野次長が即答する。

俺は心の中で感心していた。――相変わらず、引き出しが多い部長だ。

「それでは、天野次長と大杉主任は二泊三日の富山出張を企画し、文書にまとめて回してください」
「承知しました」

会議を終えて部屋を出ると、大杉主任が天野次長に耳打ちした。
「次長、ご存じですか。富山市には“世界一美しいスタバ”があるんですよ。絶対行きましょうね」
「大杉さん。いつも言っていますが、出張は遊びではありません」
口調は冷静だが、その声にほんの少し苦笑が混じっていた。

 

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