候補地は一択
その日の午後。
外から差し込む秋の陽光が、書類の白い紙面をやわらかく照らしていた。
オフィスは電話の音もなく、静かに時間が流れている。
「天野次長〜。こんなん出ましたけど」
ご陽気な声とともに現れたのは、大杉主任。手には数枚の紙が揺れている。
「何それ?」
「ネット記事をプリントしてみました。調査対象の候補地、三件です!」
勢いよく広げられた資料が、天野の机の上に小さな風を起こした。
「まず一枚目は、『 嬉野温泉駅 』周辺。開業後、観光客がぐっと増えて地元が潤ってるって話です」
「ふむ」
「二枚目は『 武雄温泉駅 』。こちらも乗り換えターミナルとして脚光を浴びて、新しい商業施設ができたそうです」
「なるほど」
「そして……最後がこれ。『 鹿島市 』。新幹線が通らなかったせいで、在来線の特急が大幅減便。アクセスが悪化して、観光業や通勤通学に影響が出てるって……かなり深刻です」
天野は、鹿島市の資料をじっと見つめた。
文字だけでなく、その向こうに広がる駅前通りや人々の表情まで、頭の中で描いてしまう。
「……こりゃ、“鹿島市”の一択ですね」
「はい、そう思います」
大杉の答えは短く、それでいて口元に浮かぶ得意げな笑みを隠しきれない。
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