海の経済と、つながらない糸
さて、お次は「ながさきオーシャン・エコノミー」の調査である。
天野はデスクの上に一枚の名刺を置き、その文字を目で追いながら携帯電話をかけていた。
「はい、ながさき地域戦略研究所です」
「大阪ビジネスコンサルタントの天野と申しますが、亀田主任調査役はいらっしゃいますか?」
「あいにく、亀田は今週いっぱい韓国に出張しておりまして、出社は来週からとなっております」
「わかりました。いえ、またこちらからお掛けしますので、結構です」
通話を終えると、軽くため息。
「困ったなぁ。“ながさきオーシャン・エコノミー”のアポは、亀田主任を当てにしてたのになぁ」
午後の光が少し傾き始めたころ、天野はもう一本、電話を取った。
相手は、前回の長崎出張で世話になった“ながさき漁業協同センター”の上田さんだ。
「はい、ながさき漁業協同センターの上田です」
「あ、上田さん。ご無沙汰しています、大阪OBCの天野です」
「あら! 天野次長。お久しぶり。弟さんから聞きましたよ、前回の長崎訪問は、その後“トンデモない展開”だったとか?」
「はは……大人の大遠足でした。楽しかったですよ」
「そりゃ何より!」
朗らかな笑いのあと、天野は少し声を落として本題に入った。
「今日はお願いがありまして。10月中旬に、長崎と佐賀の鹿島市へ出張予定なんですが、“ながさきオーシャン・エコノミー”関連の施設を見学できないかと思いまして」
「“ながさきオーシャン・エコノミー”ねえ。話には聞いてますけど、うちは漁協ですから、直接は関わってないんですよ。あれは、どちらかというと大学とか研究機関の領域ですね」
「そうですか……ちょっと残念です」
「お力になれず、すみません」
「いえ、とんでもないです。逆に、鹿島市について、何かご存知ないですか?」
天野の声には、転んでもただでは起きない、いい意味でのしつこさが宿っていた。
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