ひらめきは雑談の中に
退社時刻が近づいていたが、天野はまだ「ながさきオーシャン・エコノミー」へのアプローチの糸口をつかめずにいた。
頼みの「ながさき地域戦略研究所」の亀田主任調査役は韓国出張中で、来週まで帰国しない。
“ながさき漁業協同センター”の上田さんも伝手はなく、他に紹介してくれそうな人物も思い当たらない。
机の上の資料を見つめながら、指先でペンを回していると――
「サバしゃぶ〜♬ サバしゃぶ〜♬」

またしても、能天気な声が後ろから近づいてきた。大杉主任である。
「……残念でした。伊達木社長は上海出張中。サバしゃぶは、お流れです」
「え〜! じゃあ……せめてアジフライだけでもお願いします、お奉行様〜」
「今回、“アジフライの聖地”にも行けませんっ」

「ええーっ。“お魚マルシェ”の名が泣きますぜ、旦那!」
「ふざけてる場合……待って。ちょっと待ってよ」
天野の声色が急に変わった。
背筋を伸ばし、名刺フォルダーを手に取る。
パラパラとページをめくる指が、ある一点で止まった。
視線の先にあったのは――これまで忘れていた、ある人物の名刺。
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