承認と静かな誇り
「まあね。前回の出張でも――ロシア料理に高級ワイン、レアル・ソシエダの久保選手の試合を特別室から観戦……。挙げ句にホテル・インディゴ長崎へ“延泊2日”。しかも大杉主任の分まで」
その瞬間、大杉主任は、無言のまま椅子を引き、スッと部屋を出ていった。
「……はい。伊達木社長には、大変お世話になりました」
「仕方ありません。このプランで結構です。ただし――」
千﨑部長は資料を閉じ、ピシリと人差し指を立てる。
「国の委託調査案件です。レポートは、体裁をしっかり整えてください」
「了解しました。ご承認、ありがとうございます」
軽く頭を下げ、部屋を出る天野の顔には、わずかに安堵の色が浮かんでいた。

――一方その頃。
千﨑部長は、机の袖の引き出しから一枚のクリアファイルをそっと取り出す。
中には、部長が手書きした「西日本出張プラン」が収められていた。
そこには鹿島市長と、長崎海洋大学・矢野教授の名前、そして直通の連絡先が書き込まれている。
「……私の出番も、どんどん減っていきますなあ」
その声は低く、しかしどこか誇らしげでもあった。
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