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コンパクトシティとは

週明けの朝、定例の案件会議。
司会進行を務める俺は、次の報告者を促した。

天野次長が落ち着いた声で切り出す。
「新規の取組みとしまして、関西圏のコンパクトシティを目指す自治体と連携し、市民向けセミナーを開催したいと考えています」

「具体的には、どの自治体を想定していますか」千﨑部長が問いかける。
横に座っていた大杉主任がパソコンを見ながら答えた。
「はい。富田林市(大阪府)、奈良市(奈良県)、和歌山市(和歌山県)、舞鶴市(京都府)、そして豊岡市(兵庫県)の五つです」

「なるほど」部長はうなずく。

今度は成瀬代理が口を開いた。
「最終的な狙いはどこにありますか」
天野次長は即答する。
「自治体のコンパクトシティ構築に関するコンサルティングに結びつけることです。収益の柱になると考えています」
「なるほど」成瀬代理も納得した様子だ。

そこで俺は率直に聞いてみた。
「コンパクトシティって、言葉は聞くけど、具体的にどんな街を指すのかな」
「はい」待ってましたとばかりに大杉主任が説明を続ける。
「コンパクトシティとは、住宅や商業、医療など生活機能を中心部に集約し、公共交通でつなぐ都市計画です。人口減少や高齢化が進む中でも行政サービスを維持しやすく、住民の利便性や環境面にも効果があるんですよ」

「なるほど。つまり人口減少と高齢化が背景にあるわけだな」

「いえ、それだけではありません」天野次長がきっぱりと補足する。
「コンパクトシティには公共交通機関の整備が欠かせません。ですから、対象自治体は思った以上に限られてきます」

 



会議室に少し緊張が走る。
天野次長は続けた。
「そこでご相談ですが、まず成功事例を視察して、実務を担った方々から直接学びたいと考えています。皆さん、候補地のご意見はありますか」

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

フォーラム終了

「これほど中身の濃いフォーラムやシンポジウムは、沖縄のOISTでの天野次長の講演以来じゃないですかね」

千崎部長の声に振り返ると、彼がいつの間にか背後に立っていた。
「とにかく、二人ともお疲れさまでした」

「私も非常に良かったと思います」
成瀬次長がにっこりと応じる。

オフィスに戻ると、天野次長と大杉主任はすでに帰り支度をしていた。
「お疲れさまでした」
ねぎらいの声に、俺たちは軽く頭を下げる。

そのとき、大杉主任がニヤリと笑って口を開いた。
「千葉理事、本当に山本副部長の同級生なんですか? 副部長とは、ずいぶん差がついちゃってますけど」

俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「まぁ、高校時代から差はあったけどな。40年も経つと、その差は恐ろしいほど広がる。……でも今でも『千葉っち』と呼んでるけどな」

オフィスに笑い声が広がった。
その明るさが、張り詰めていた空気を一気に和らげていく。

「じゃあ、みんなで串カツでも食べに行きましょうか」
千崎部長がにこやかに声をかける。

「行きます! ただし、部長のおごりで~」
大杉主任がすかさず茶化す。

「もちろんおごりですが、副部長と折半でね…」
「勘弁してくださいよ」
「冗談冗談、冗談です」

天野次長が笑いながら手を振る。
「じゃあ、さっさと行きましょう」

次の瞬間、オフィスの空気が一気に軽くなる。
フォーラムの緊張と興奮は、温かな日常の笑いへと溶けていった。

 

 

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フォーラム当日

会場は大阪・中之島のグランキューブ大阪。
「メインホール」2,754席は事前登録でほぼ満席。
中小・零細企業の経営者が半数を占め、市民、研究者、学生、自治体関係者が続き、大企業の担当者がちらほら見える。
まるで大阪の縮図そのものだった。

 



開場と同時に、会場は熱気に包まれた。
空気がざわめき、期待が渦を巻く。

そして幕開け。
圧巻だったのは、やはりオープニング直後に行われた千葉理事の基調講演だった。
冷静で科学的な根拠に裏打ちされた言葉。
だがそこに込められたのは、未来への希望を切り拓こうとする熱いメッセージだった。



聴衆は水を打ったように静まり返り、一言一句を飲み込むように聞き入った。
講演が終わった瞬間――割れんばかりの拍手が津波のように押し寄せた。

続くパネルディスカッションでも、意見は鋭く、ぶつかり合い、そして共鳴した。
ときには会場から自然と拍手が湧き、熱気がさらに高まる。

フォーラムは大盛況のうちに幕を閉じた。
講師控室を訪れると、千葉理事の前には名刺交換を求める長蛇の列ができていた。

遠くから視線を送ると、千葉っちが気づき、軽く会釈を返してくる。
その何気ない仕草は――あの高校時代と、まるで変わらなかった。

「今日は最終便で東京に戻るそうです」
成瀬代理が小声で伝えてきた。

胸の奥にじんわりと広がる感慨を抱きながら、俺はその光景を目に焼きつけた。

 

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たかがヘルメット。されど...

本当に今になって知ったのだが、『バリバリ伝説』の巨摩 郡(こま ぐん)は、設定上、1967年3月9日生まれだという。
つまり、俺と同い年――まさかの同世代ライダーだったとは。

作者の重野秀一先生は1958年3月8日生まれだから、9歳年上。
なるほど、当時の若者たちのバイク熱を、まさにリアルタイムで描けたわけだ。

さて、俺のヘルメットカラーは、その巨摩 郡へのオマージュだ。
アラ還ライダー仲間からは「まだそんなの被ってるのか」とよく冷やかされるが、気に入っている。
ホームセンターで買った安ヘルメットに、缶スプレーで塗っただけの代物。
それでも、俺にとっては“中でも一番のお気に入り”だ。



それにしても、重野先生はあのヘルメットデザインをどこから着想を得たのだろう。
当時のレーサーのものからか。

 

水谷 勝

 

高井幾次郎

色合いは違うけど、RGBⅮ500の河崎裕之の線も...。

まあ、今となっては、そんなことはどうでもいいのかもしれない。
それでも、このヘルメットを被るたびに2ストの匂いが漂ってくる気がするのだ。

 

 

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コンペの結果は…

その後の準備は、千葉理事の力添えもあり、驚くほど順調に進んでいった。
彼が自らネットワークを駆使し、国立環境研究所の花咲室長や、エネルギー・資源学会の竹橋会長といった錚々たる顔ぶれをパネラーとして推薦してくれたのだ。

俺たちの企画は、日に日に厚みを増していく。
しかし安心などできなかった。入札方式の企画競争――各社が一対一でプレゼンを行うため、他社の提案はまったく読めない。
ただひとつ、胸にあったのは確信だ。
「このラインアップで負けるはずがない」

二週間後。結果は一本の電話と、公式ホームページで告げられた。

――大阪ビジネスコンサルタンツの企画、採用決定。
しかも、他社を圧倒的な得点差で。

受話器を置いた瞬間、胸の奥に押し込めていた感情が爆発する。
「……勝った!」

 



俺たちはついに、フォーラム開催主催の大役を勝ち取ったのだ。

 

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千葉は眼鏡をかけ直し、真顔に戻った。
「そうか。……いいでしょう。俺も久々に“大阪”で話してみたくなったよ」

胸の奥が熱くなる。
――これで基調講演は決まった。

だが、戦いはまだ終わらない。
フォーラム全体の設計、他の登壇者との調整、ライバル企業との競合――課題は山積みだ。

応接室を出ると、永田町の夕暮れが広がっていた。
ビルの谷間に沈む夕陽が、空を朱に染めている。

俺は拳を握りしめ、つぶやいた。
「行けるぞ、成瀬。ここからだ」



 

「はい。やっとスタートラインに立てましたね」

二人で並んで歩き出す。
四十年ぶりに再会した旧友の言葉を胸に、俺は心の中で固く誓った。
――このフォーラム、必ず成功させる。

 

 

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本題に入る

だが、いつまでも思い出話に浸ってはいられない。
「さて――今日の本題に入ろうか」

俺は背筋を正し、声に力を込めた。
「成瀬代理、説明を頼む」

成瀬代理が資料を開き、淡々と企画を説明していく。
関西の経営者や市民向けのカーボンニュートラル・フォーラム。
その意義、地域社会へのインパクト、そして――基調講演を千葉理事にぜひお願いしたいこと。

千葉理事は黙ったままスマホを取り出し、眼鏡をずらしながら予定を確認している。
部屋の時計の針が響く。秒針の一音ごとに、心臓が早鐘を打つようだった。

やがて彼は顔を上げ、口を開いた。
「……その期間は、海外出張もないし、日曜日であれば会議も入っていない。大丈夫だと思う」

「本当か!」

思わず声が上ずった。

千葉理事は笑みを浮かべ、ソファに背を預ける。
「ただし、山ちゃん。俺は忖度しないぞ。壇上に立ったら、容赦なく“現実”を語るからな」



 

「もちろんだ。俺たちが欲しいのは、本物の言葉だけだからな」

成瀬代理が横で深く頷いた。
「ええ。甘い幻想ではなく、関西の市民や経営者に“現場の声”を届けることが、フォーラムの目的です」

 

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まさかの対面

四菱総合研究所の本社が入るビルは、永田町の国会議事堂前駅に直結していた。
地下1階の総合受付を抜け、無機質な廊下を進んで応接室へと案内される。

成瀬代理と二人、ソファに腰を下ろし、緊張を胸に待つ。
やがて――ノックの音。

「お待たせしました」

ドアが開き、背の高い細身の紳士が姿を現した。眼鏡の奥の瞳は鋭く、どこか神経質そうにさえ映る。
俺たちは立ち上がり、名刺を差し出そうとした。

「大阪ビジネスコンサルタンツの――」

その瞬間だった。
名刺を渡しながら顔を見た途端、頭の中が真っ白になった。

驚きに固まったのは、向こうも同じだった。
わずかな沈黙を破ったのは、彼の方だった。

「……山ちゃん、か?」

 

 

「え……千葉っち?」

信じられない。
四菱総合研究所の研究理事、千葉誠一氏。
それは、和歌山西高校時代のクラスメイト――千葉君だった。

「高校卒業以来、40年ぶりか。まさか、こんな場所で会うとはな」
「いやあ、千葉っち、全然変わってないな!」
「山ちゃんこそだよ。すぐ分かったよ」

旧友との再会に、張りつめていた空気が一気にほどけていく。
成瀬代理がようやく口を挟んだ。

「お二人、同級生だったんですね」
「そうそう。クラスも一緒で、こいつは硬式テニス部の部長で、学級委員長。成績も優秀で、大阪大学工学部に現役合格したんだ」俺は一気にまくしたてた。

「いやいや、昔の話だよ」

しばし、懐かしい日々がよみがえる。家族のこと、同級生の消息――時間が逆流したように会話が弾んだ。

 

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第一関門突破

翌日の夕暮れ時。湯浅所長から一本の電話が入った。
「千葉理事が――大阪ビジネスコンサルタンツさんとお会いするとのことです」

「あっ、そうなんですか。本当ですか。所長、ご尽力に感謝いたします!」
「いやいや、“お会いする”だけです。引き受けるとは言ってませんよ」
「分かっています。あとは、我々の誠意をどう伝えられるかです」
「ご健闘を祈りますよ」

短いやり取りの中にも、胸が熱くなる。
電話を切ったあと、私は成瀬代理に向き直った。

「まずは――第一関門突破だ!」
「ラッキーでしたね。じゃあ、来週は永田町の四菱総合研究所へ出張ですね」

 



久々の東京出張。その響きに、胸がわずかに高鳴った。

 

 

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研究所訪問の成果

高砂研究所を後にすると、外はすでに夕闇が迫っていた。
車に乗り込むと、成瀬代理が大きく息を吐いた。
「いやあ……千葉誠一さん。まさか名前が出るとは思いませんでした」

「相当な大物のようだな」

「大物なんてもんじゃありません。業界では、以前は“ミスター・ターボチャージャー”と呼ばれ、今は“カーボンニュートラルの司令塔”と呼ばれています。欧州の国際会議でも何度もスピーカーを務めていますし、国のエネルギー政策に対しても大きな発言力を持っている。……正直、雲の上の存在ですよ」

 



――なるほど。つまり、千葉さんにご登壇いただけるのなら、このフォーラムは一気に格が違うものになる。
だが逆に言えば、だめなら“並の企画”に終わってしまう。

俺は車の助手席で、前を見据えたまま呟いた。
「千葉さんを口説き落とせるかどうか……それが成否を決めるわけか」

成瀬代理がうなずく。
「はい。ただし、もしお会いできたとしても、一筋縄ではいかないはずです。千葉さんは、安直なイベントやセミナーには決して登壇しません。信念で動く方ですから」

「つまり、中途半端な提案では門前払い……ってわけだな」

車窓に映る大阪の街の灯りが、どこか挑発的に瞬いて見えた。
次なる戦いの舞台に登れるのか、それとも門前払いか。

 

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