徳島ラーメン
「おや、もうお昼ですね。そろそろ昼食にしましょうか」
赤木さんが時計を見て立ち上がる。俺もつられて席を立った。
「そうですね。よろしくお願いします」
案内されたのは、徳島駅のほど近く──中華そば「いのたに」本店。
有名な店らしく、外にはすでに行列ができつつあったが、タイミングよく席に通された。
赤木さんに倣って、俺も「生玉子入り」を注文する。
「地元では“茶系”って呼ばれてる有名店なんですよ。見た目よりあっさりしていて、でもコクがある。スープにほんのり甘みがあって……特徴はやっぱり、生玉子ですかね」
そう言いながら、赤木さんは少し恥ずかしそうに笑った。
頼んだ「生玉子入り」が来た。
「いや、かなり美味しいですよ。ホントに」
思わず声が漏れる。醤油ベースのスープが、思ったよりも優しく、でもクセになる。
不思議な安心感が、腹の底に広がっていった。
昼食を終えると、俺たちは社用車に乗り込んだ。
助手席に赤木さんを迎え入れ、あらかじめ設定しておいたナビに見入る。
「それじゃあ、“神山まるごと高専”へ向かいましょうか」
車を走らせながら、俺は知らず知らずのうちに、わずかに背筋を伸ばしていた。
──いよいよ、「その現場」に足を踏み入れるのだ。
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