なぜ神山町に…。
「では、赤木さん──なぜ“神山町”に高等専門学校ができたんでしょうか?」
俺の問いに、赤木氏は少し姿勢を正し、言葉を選びながら答え始めた。
「はい。神山町は、これまで過疎化の進行を防ぐために、さまざまな施策を実施してきました。たとえば、アーティストを一定期間受け入れる“アート・イン・レジデンス”や、企業のサテライトオフィスの誘致などです」
「聞いたことがありますね。外から“人”を呼び込む取り組みですね」
「そうです。ただ、どれも基本的には“大人”を対象としたものでした。もちろん効果はありましたが、長期的な視点で見れば、それだけでは地域の未来を支えきれない。結局、子どもが育ち、定着する仕組みがなければ、持続可能な地域にはならないんです。だからこそ、“教育”が次の課題として浮かび上がったわけです」
なるほど──「過疎の本質は教育にある」と言っているようだった。
俺は続けて尋ねた。
「では、神山町における“新たな教育の理想”とは、何だったのでしょうか」
「そこが非常にユニークな点です。神山町の人口は、およそ5,000人。新しく小中一貫校をつくれば、既存の公立校とバッティングしてしまいます。高校やフリースクールも同様の理由で現実的ではありません。かといって、大学は規模も資金も重すぎて、とても無理だった」
赤木氏は、資料の一枚をめくりながら続けた。

「そこで注目されたのが“高専”です。本校の理事長でもある寺田親弘さん──Sansanの代表ですね──は、かねてから神山町と関わりがありました。彼が“高専”という存在に可能性を見出し、以前から連携のあった地元のNPO法人『グリーンバレー』の理事、大南信也さんと協議を重ねたのです」
「高専だったら、神山でも実現できると?」
「はい。既存の教育機関と競合せず、むしろ“地域にない価値”を提供できる。しかも、テクノロジーと起業家精神を育てるカリキュラムは、これからの社会にフィットする。神山の理想にぴったり合ったわけです」
「なるほど……」
俺は、妙に納得していた。
“教育”という言葉の奥に、これほどまでに戦略と覚悟が詰まっているとは。
これは単なる学校じゃない。町全体の未来を賭けた──再設計なのだ。
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