鹿島市の静かな熱
佐賀・長崎出張当日。
天野次長は、朝8時発の「さくら545号」に新大阪から乗り込んだ。
今回は博多ではなく、新鳥栖で下車し、在来線に乗り換えて肥前鹿島駅へ。
目的地まで、約4時間の列車旅である。
12時4分、予定どおり肥前鹿島駅に到着。大杉主任と駅前で軽く昼食をとると、タクシーで「鹿島市民文化ホール」へ向かった。
――鹿島市の“新しい顔”。そんな言葉がふと胸に浮かぶ。
小会議室で待つこと10分。時計がぴたりと12時半を指した瞬間、ひとりの男がドアを開けた。
「大阪OBCの天野です。本日はお忙しい中、ありがとうございます」
「初めまして、鹿島市長の松尾です。いやぁ、長崎の上田君からの頼みとあっては断れませんよ」
松尾市長は、柔らかな笑みの奥に、不思議な静かな熱を宿していた。

「ご存じかもしれませんが、上田君は、県庁時代はほぼ水産畑。でも、長崎の“まち歩き観光”――あれを育てたのは彼ですよ。“長崎ぶらり”って聞いたことあるでしょう?」
「ええ、それは存じていますが、上田さんが観光の旗振り役もされていたとは…」
「そう。行政マンながら、なかなかのアイディアマンでね。“出島メッセ長崎”も市の案件ですが、あれも後方支援で相当動いていたようですよ。飲むたびにその話、聞かされるんですよ。ほんとに」
天野次長は、あのMICE(出島メッセ長崎)の説明での上田の熱量を思い出し、つい口元が緩んだ。
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