肥前浜宿の酒蔵通り
「松尾市長、本当にお世話になりました」
天野次長が深々と頭を下げる。
「お二人は明日、長崎で上田君に会うんでしょう? よろしくお伝えください」
「かしこまりました。必ずお伝えします」
二人が降り立ったのは、「肥前浜宿の酒蔵通り」。
江戸時代から昭和にかけて酒や醤油の醸造業で栄えた通りで、今も三つの酒蔵──富久千代酒造、光武酒造場、峰松酒造場(肥前屋)が並ぶ。
白壁の連なる街並みに、ほんのり漂う酒の香り。歩くだけで、ほろ酔い気分になりそうだ。
平日にもかかわらず、試飲や見学、酒蔵スイーツ目当ての観光客が絶えない。
外国人の姿も多く、通りは静かな賑わいに包まれていた。
「次の訪問先は富久千代酒造さんです。今日は特別に、蔵元の飯盛さんが案内してくださいます」
と大杉主任が言うと、天野次長は「富久千代酒造って、たしか今日泊まる『御宿 富久千代』とも関係があったわよね?」と首をかしげた。
「はい。飯盛さんの奥様が、その『御宿 富久千代』の代表なんです」
「なるほど、夫婦で酒と宿を担ってるわけね」
「しかも今日は、普段は見られない酒蔵の奥まで案内していただけるそうです。それと……幻の酒『鍋島ブラック』も試飲できるとか」
「はぁ~、また伊達木社長に借りを作っちゃったわね」
「はい…。次長、またお礼に対馬の“黄金あなご”送ります?」
「うーん、今度は違うもので攻めましょうか……考えとくわ」
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