富久千代酒造
富久千代酒造に到着すると、蔵元の飯盛さんが笑顔で出迎えてくれた。
「ようこそ、佐賀県鹿島市へ。フォレスト・トラストの伊達木社長からも、よろしくとのお電話をいただいています」
「それは光栄です。本日はよろしくお願いします」
「では、通常はお見せしていない蔵の奥をご案内しましょう」
案内されたのは、古い酒蔵を見事にリノベーションした空間だった。
天井に走る黒光りした梁、白い漆喰の壁。ほのかな木の香りと温かな照明が、時の流れをゆっくりとほどいていく。
「特別なお客様やバイヤーの方に、落ち着いて吟味いただけるように整えたんです」
「素敵ですねぇ」天野次長の声が、自然とやわらぐ。
「では、早速ですが、うちの自慢『鍋島ブラック』をご試飲ください」
グラスから立ちのぼる香りは、深く、豊か。
ひと口含むと、驚くほどなめらかで、舌にやさしく広がっていく。
「……おいしいわ」
「本当に、おいしいです」
「ありがとうございます」飯盛夫妻の笑顔が、さらにやわらいだ。
「こちらは味わいの異なる二種類の鍋島です。ぜひ飲み比べを」
「これも美味しい!」
「本当だわ、まったく別の顔ね」
製法や米の違いを、飯盛夫妻は丁寧に語る。
その説明がまた、酒の旨さをひと回り引き立てていた。
「大杉さん、顔が真っ赤よ。飲みすぎちゃだめ」
「でも次長、ここで飲まずに帰るなんてもったいないですよ~」
「……まぁ、否定はしないけど」
やがて仕込み部屋なども見せてもらい、外に出ると、西日が白壁を黄金色に染めていた。
このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。





