一言だけ言わせてもらいます
ところで、この“市民文化ホール”、立派な施設ですね」
「ありがとうございます。ここは鹿島の“新しい顔”として整備しました。歴史あるまちに、新しい文化を重ねていく場所。“まちの晴れ舞台”です」
「いい言葉ですね。とても印象に残ります」
「……で、天野さんは、対馬のご出身なんですって?」
「はい。でも大学進学からずっと大阪暮らしで。正直、地元の交通事情にはあまり関心がなくて……西九州新幹線も、今回の調査でようやく全体像が見えてきたくらいです」
「まぁ、そうなっちゃうよね」
少し寂しげに笑った松尾市長へ、天野次長は身を正し、本題に入る。
「早速ですが、今回、弊社は西九州新幹線開業に伴う地域への影響調査を国から受託しております。なかでも鹿島市は、在来線の特急“かもめ”が肥前鹿島駅に停車しなくなったことで、まちの衰退や交通アクセスの悪化など、難しい局面にあると伺いました。まずは、その現状とお気持ちを率直にお聞かせいただけますでしょうか」
松尾市長は一瞬、表情を引き締め、深くうなずく。そして、ゆっくり口を開いた。
「――単刀直入だねぇ、天野さんは。でも、それがいい。まず最初に、一言だけ言わせてもらいますよ」
天野次長は前のめりになる。
「はい、お願いします」
市長は、わずかに間を置き、はっきりと、強い語気で言った。
「――むしろ、これから!」
「はあ……?」
天野の目がわずかに見開かれる。
「でも、せっかく来てもらったんだから、もっとちゃんと話させてもらいましょう」
その目は、静かに、しかし強く光っていた。
「“失ったもの”ばかり数えても、まちは前に進まんのです。じゃあ、どうやって前を向くのか――その話を、これからしようじゃありませんか」
空気が変わった。
“鹿島の真実”と“希望”が、この場で語られようとしている。
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