湯浅所長がお待ちです
視察を終えると、受付で「湯浅所長がお待ちです」と声を掛けられた。
いよいよだ。
俺たちは会議棟の一室へ案内された。
扉を開けると、窓際に立つスーツ姿の男性がゆっくりと振り返った。穏やかな表情だが、眼光は鋭い。
「ようこそ高砂へ。所長の湯浅です」

その一言で、空気が一気に引き締まった。
――この人が、我々の構想を左右するキーマンだ。
「湯浅所長、ご案内ありがとうございました。さて――今回の訪問の本題なのですが…」
私が口火を切ると、所長の目が鋭くなったように感じた。
「成瀬さんからお電話で伺いました。フォーラムの件ですよね」
穏やかで落ち着いた声が応接室に響く。
「はい。我々OBCとしては、この関西地区におけるカーボンニュートラルの機運をもう一度高めたい。そのために、御社のような先端事例をぜひフォーラムで紹介させていただきたいのです」
一拍の沈黙。
所長は指先で机を軽く叩き、こちらを値踏みするように見据えた。
「……山本さん」
その声には圧があった。
「正直に言いましょう。私は“お題目だけのイベント”には協力する気はありません。再生可能エネルギーだ、水素だと掛け声をかけても、結局は机上の空論で終わるものが多い。参加者に“夢物語”を語るだけなら、我々の名前を出す価値はない」
言葉が胸に突き刺さる。
しかし――ここで怯むわけにはいかない。
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