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cb650r-eのブログ

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「やっぱり……。」
 

 

「教育産業室と、文科省の方針は違うんですか?」
俺は、気になっていた疑問を御上校長にぶつけてみた。

「協力関係にありますよ。個人的には──経産省だけでなく、厚労省や国交省など、他の省庁ももっと教育に関心を持つべきだと思っています。将来の人材育成という大きな目標は、みな同じですから」
そう語る御上校長の口調は、淡々としていながらも確信に満ちていた。

「教育産業室には、文科省からの出向者や、地方自治体出身者、元教員もいます。省庁の垣根を越えて、現場と政策をつなぐ試みなんです」

さらに御上校長は続けた。

「とはいえ、日本の公教育にかけられる予算は、諸外国に比べて少ないのが現実です。そして、その限られた予算の大半は、教職員の人件費や学校施設の整備費にあてられています。教育分野においても、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めるには、自前主義を超えて、外部サービスとの連携で多様な需要に応える発想が欠かせません」

俺はふと尋ねた。

「7年間過ごされたという、母校・聖光学院での経験から、何を得られましたか?」

御上校長は、少しだけ笑って言った。

「子どもたちの可能性と“伸びしろ”に、ただただ驚かされる日々でした。それが一番大きかったですね」

「やっぱり……ドラマのモデルですよ、三上さん」

 



「だから、それは違いますって」
と苦笑しながらも、御上校長はすぐに表情を引き締めた。

「教育に、100点満点はありません。デジタル化のさらなる推進や、増え続ける不登校への対応など──私たち教育に携わる者が、自ら“次のあり方”を考え、動くべき時です。現場も、“やらされる改革”から脱却していかなくてはなりません」

言葉に一切のごまかしはなかった。

「どんな子どもでも、多様な学びにアクセスできる環境を整える。それには、民間の創意工夫や新しいテクノロジーの力が必要です。企業が地域の学びに関わることは、地方と都市の学力格差の解消にもつながります。これからも多くの企業、学校と協力して、“社会に開かれた学び”を実現していきたいですね」

そう語り終えると、御上校長は深くうなずいた。

 

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御上校長はかく語る。

 

御上校長が、静かに話し始めた。

 



「経産省が“令和の教育改革”として打ち出したのが、『未来の教室』というプロジェクトです。──文科省の管轄とされてきた教育の領域に、経産省がここまで本格的に入り込むのは、極めて異例のことでした」

そこには明らかな決意がこもっていた。

「教育改革というのは、ひとつの省庁の中だけでは完結しません。社会の構造全体を見据えて、領域横断で進めるべきものなんです」

そう前置きした上で、彼は言葉を続けた。

「2017年、経産省に新設されたのが『教育産業室』。私も創設メンバーとして関わりました。その使命は──学校教育と民間教育サービスの間に橋をかけ、子どもたちが“自分の人生を自分で選べる”社会を支える、新しい学びの姿をつくることでした」

「なるほど……」

「これまでの教育は、“言われたことを正しくやる”ことが評価される世界でした。でも、これからの社会では、“自分で選び、自分で動く”ことが求められる。だから私たちは──みんなに同じお弁当を出す“幕の内型”の教育から、好きなものを自由に選べる“ビュッフェ型”への転換を目指したのです」

言葉のひとつひとつが、現場での実践を前提にした、骨太の理念に裏打ちされているのが伝わってきた。

「その実現のためには、ICTの活用が不可欠です。たとえば、プログラミングや創造的な“ものづくり”を選択肢として提供し、さらに学校の外にも学びの場を広げる。──いわば、“公教育プラスアルファ”の環境づくりが求められています」

「……なるほど。GIGAスクール構想も、まさにその一環ですね」

俺がそう返すと、御上校長は静かにうなずいた。

「そうです。文科省が主導するGIGAスクール構想──すべての子どもに一人一台のPCを配布する政策は、すでに全国に端末が行き渡り、次のステージに入りました。つまり、“どう使うか”が問われる段階です」

「使い方次第で、教育そのものが変わる……」

「はい。そして、私たちが取り組んでいるのは、まさにその“変わりゆく教育のあり方”を、この神山の地で実装することなんです」

御上校長の声には、一切の迷いがなかった。

 

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冗談はそれくらいにして

 

俺は、さらに踏み込んでみた。

「……実際の聖光学院って、男子の中高一貫校で、毎年東大をはじめとする難関大に大量合格者を出す“超”進学校ですよね。──『神山まるごと高専』も、いずれはああいう学校に……したいと?」

わずかに沈黙が流れたあと──

御上校長は、突然笑みを浮かべた。

 



「……いえいえ。山本さん。もう冗談はそれくらいにしてください」

声の調子が、高くなった。

「……千﨑さんから、私のことは聞いているはずです。ここからは、私の方からお話しさせていただいても、よろしいでしょうか?」

──空気が変わった。

「失礼しました。私、ドラマ『御上先生』が好きすぎて、つい調子に乗ってしまいました」

俺が頭を下げると、赤木さんが苦笑いを浮かべた。

「いやぁ……本当かと思って、びっくりしましたよ」

穏やかな空気が一瞬戻ったが、御上氏はそのまま真顔で口を開いた。

「……実を言うと、私がここに来た理由は、“教育現場の経営”を学び直すためです。経産省時代、何度も“教育改革”の施策に関わってきました。ですが、それは常に制度と数字の話でしかなかった。現場が何を感じ、何に悩み、何を犠牲にしているのか──私は見えていなかったんです」

「だから、ここに?」

「ええ。神山という場所は、挑戦には最高のフィールドです。都市型の競争とは違う文脈で、“生きた教育”ができる。だからこそ私は、経産省という枠を外れてでも、この地に身を置こうと思ったのです」

 



彼の口調は穏やかだが、ひとつひとつの言葉が重たかった。

「神山まるごと高専は、進学校を目指しているのではありません。社会とつながる“創造の場”をつくるための学校です」

その瞬間、俺は少しだけ──彼の本気を見た気がした。

 

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『日本教育の破壊を俺に命ずる。』

 

「そういえば……今年の1月から3月にかけて、TBS系で放映された日曜劇場『御上先生(みかみせんせい)』、ご覧になりました?」

一拍、間があった。
御上氏は穏やかな笑みを浮かべながら答える。

「ええ、観ましたよ」

俺はすかさず続ける。

「いやぁ、面白かったですね。松坂桃李さんが主演で、“文科省の官僚が出向先の進学校で改革を仕掛ける”って異色の学園ドラマ。キャッチフレーズがまた痺れましたよ──『日本教育の破壊を俺に命ずる。』って」

御上氏は、少し視線を外してから、言葉を返した。

「そうですね……確かに私は、ロケ地にもなった聖光学院に勤務していました。校長補佐として教鞭もとりましたが……あくまで経産省の人間です。文科省とは違いますし、ロケ地も聖光学院だけではなく、西武学園文理中学や流山市立おおぐろの森中学校など、いろいろと使われていたようですよ」

「……ずいぶん、お詳しいですね」

俺は、やや意地悪な笑みを浮かべながらそう返した。

「まあ、ドラマの都合で“文科省”って設定にしただけでしょう。本当は──文科省に遺恨を残した“経産省出身の新校長”が、教育の場に乗り込んで、大蔵前校長の“敵を討つ”って話なんじゃないですか?」

言ってから、静かに相手の反応をうかがう。

 



御上氏は、少しだけ口元を引き締めた。
だが──それ以上は何も言わない。

それが、逆に意味深だった。

 

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なんで、そんなダサいバックを…。

 

俺のCB650R e-clutchのリア両サイドには、
少々ダサいバッグが一つずつぶら下がっている。



ある日、K-1の休憩所でそれを見たシータが言った。
「安全性はまあ、大丈夫そうだが……K-1走るだけなら、そんなバッグいらんだろうに」

「まあな」
俺は肩をすくめた。
「でも涼しくなったら、嫁さんとツーリングに行こうかと思ってな。
日帰りでも色々持ってったほうがいいだろ?」

「……ほう、そうか」
シータは意外そうに呟くと、それまでの小馬鹿にした調子をやめ、
バッグのステーをしげしげと眺めはじめた。

 



「ステー関係は全部ダイソーだよ」
「ほんと、お前のバイクはダイソーパーツ比率が圧倒的に高いからな」
シータは苦笑しつつ、バッグを手で軽く揺らして確かめる。
「ま、とりあえず、しっかりは付いてるようだな」

少し間を置き、彼は空を見上げながら言った。
「いい季節は短いからな。ロングツーリングこそ、e-clutchの真骨頂だろうよ。
行けるときに、行っとけ」

そう言い残し、シータはR1に跨ると、排気音を響かせてK-1へと走り去っていった。

 

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御上先生


眼前に、広がる──白いモダンな校舎、そしてガラス張りの図書棟。

「神山まるごと高専」に、俺たちは到着した。

実はこの出張の前に、俺は“新校長・御上孝”について、独自に少し調べていた。
彼の名前がいくつかの「気になるプロジェクト」と、密接に関わっていたからだ。

御上孝(みかみ・たかし)氏。


東大法学部を卒業後、2001年に経済産業省へ入省。
資源エネルギー庁、内閣府、環境省を経て──2014年からは、神奈川県の名門・私立聖光学院中学校高等学校に勤務。校長補佐としてキャリア教育や国際化を推進し、特別教員免許を取得して英語や現代社会の授業も担当。
その後も、教育産業室の室長や、不登校支援機関「神奈川私学修学支援センター」の立ち上げにも関与しているという、まさに“異色”の経産官僚だ。

──その御上氏が、今、俺の目の前にいる。

 



名刺交換を済ませ、形式的な世間話で場を温める。
表情は穏やかで、声も低く、どこか抑制が効いた物腰だった。

しばらくして、俺は唐突に話題を切り出してみた。

 

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徳島ラーメン

「おや、もうお昼ですね。そろそろ昼食にしましょうか」

赤木さんが時計を見て立ち上がる。俺もつられて席を立った。

「そうですね。よろしくお願いします」

案内されたのは、徳島駅のほど近く──中華そば「いのたに」本店。

 


有名な店らしく、外にはすでに行列ができつつあったが、タイミングよく席に通された。

赤木さんに倣って、俺も「生玉子入り」を注文する。

「地元では“茶系”って呼ばれてる有名店なんですよ。見た目よりあっさりしていて、でもコクがある。スープにほんのり甘みがあって……特徴はやっぱり、生玉子ですかね」

そう言いながら、赤木さんは少し恥ずかしそうに笑った。

 



「とは言っても、実は私も詳しいわけじゃないんですけどね」

 

頼んだ「生玉子入り」が来た。

 


「いや、かなり美味しいですよ。ホントに」

思わず声が漏れる。醤油ベースのスープが、思ったよりも優しく、でもクセになる。

不思議な安心感が、腹の底に広がっていった。

昼食を終えると、俺たちは社用車に乗り込んだ。
助手席に赤木さんを迎え入れ、あらかじめ設定しておいたナビに見入る。

「それじゃあ、“神山まるごと高専”へ向かいましょうか」

車を走らせながら、俺は知らず知らずのうちに、わずかに背筋を伸ばしていた。

──いよいよ、「その現場」に足を踏み入れるのだ。

 

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なぜ神山町に…。

「では、赤木さん──なぜ“神山町”に高等専門学校ができたんでしょうか?」

俺の問いに、赤木氏は少し姿勢を正し、言葉を選びながら答え始めた。

「はい。神山町は、これまで過疎化の進行を防ぐために、さまざまな施策を実施してきました。たとえば、アーティストを一定期間受け入れる“アート・イン・レジデンス”や、企業のサテライトオフィスの誘致などです」

「聞いたことがありますね。外から“人”を呼び込む取り組みですね」

「そうです。ただ、どれも基本的には“大人”を対象としたものでした。もちろん効果はありましたが、長期的な視点で見れば、それだけでは地域の未来を支えきれない。結局、子どもが育ち、定着する仕組みがなければ、持続可能な地域にはならないんです。だからこそ、“教育”が次の課題として浮かび上がったわけです」

なるほど──「過疎の本質は教育にある」と言っているようだった。

俺は続けて尋ねた。

「では、神山町における“新たな教育の理想”とは、何だったのでしょうか」

「そこが非常にユニークな点です。神山町の人口は、およそ5,000人。新しく小中一貫校をつくれば、既存の公立校とバッティングしてしまいます。高校やフリースクールも同様の理由で現実的ではありません。かといって、大学は規模も資金も重すぎて、とても無理だった」

赤木氏は、資料の一枚をめくりながら続けた。

 



「そこで注目されたのが“高専”です。本校の理事長でもある寺田親弘さん──Sansanの代表ですね──は、かねてから神山町と関わりがありました。彼が“高専”という存在に可能性を見出し、以前から連携のあった地元のNPO法人『グリーンバレー』の理事、大南信也さんと協議を重ねたのです」

「高専だったら、神山でも実現できると?」

「はい。既存の教育機関と競合せず、むしろ“地域にない価値”を提供できる。しかも、テクノロジーと起業家精神を育てるカリキュラムは、これからの社会にフィットする。神山の理想にぴったり合ったわけです」

「なるほど……」

俺は、妙に納得していた。

“教育”という言葉の奥に、これほどまでに戦略と覚悟が詰まっているとは。
これは単なる学校じゃない。町全体の未来を賭けた──再設計なのだ。

 

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阿波経済研究所にて。

午前10時。俺は徳島市内にある阿波経済研究所を訪れた。
対応してくれたのは、上席研究員の赤木紳一郎さん。「真面目」がスーツを着たような方だった。

 



名刺交換と軽い雑談を終えると、すぐに本題に入った。

「赤木さん、さっそくですが……『神山まるごと高専』について、一からご説明いただけますか?」

「もちろんです」

彼は資料を開きながら、落ち着いた声で語り始めた。

 



「まず、学校の概要ですが──正式名称は『神山まるごと高等専門学校』。徳島県名西郡神山町に2023年4月に開校しました。定員は1学年40名、全寮制です。設置学科は“デザイン・エンジニアリング学科”で、テクノロジー、デザイン、そしてアントレプレナーシップを柱に教育を行っています」

「アントレプレナーシップ……つまり、起業家精神ですね」

「そうです」

俺は思わず感嘆の声を漏らした。

「なるほど……それは、かなり先進的ですね」

赤木氏はうなずき、さらに説明を続けた。

「この学校の設立を主導したのは、Sansan株式会社の代表取締役社長 兼 CEO──寺田親弘(てらだ・ちかひろ)氏です。彼は神山町に深く関わりを持つ実業家で、教育によって地域と世界をつなぐビジョンを持って、この高専を立ち上げました」

「Sansanって……あの、名刺管理のクラウドサービスの?」

「その通りです」

赤木氏は、寺田氏の経歴も手短に紹介してくれた。

「寺田氏は大学卒業後、三井物産に入社。米国シリコンバレーでベンチャー支援を経験し、帰国後の2007年にSansan株式会社を創業しました。以降、“働き方を変えるDX”を掲げて、さまざまなクラウドサービスを展開しています」

「たしかに、Sansanはよく耳にします」

「代表的なサービスは、法人向けの営業DXクラウド『Sansan』、請求書のデジタル化サービス『Bill One』、契約書のデータ管理ツール『Contract One』、そして個人向けの名刺アプリ『Eight』です」

「『Bill One』は……ああ、うちの会社でも使ってますよ」

思わず口に出た。

赤木氏は笑顔を浮かべながらうなずいた。

「利用企業は非常に多いですね。こうした“デジタルで働き方を変える”という企業理念を、次の世代の教育に応用したのが、神山まるごと高専なのです」

 

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ある施設とは。

9月の三連休明け、火曜日の朝。週初めの定例ミーティングが終わりかけたところだった。

「以上で本日のミーティングを終了します。──千﨑部長、何かございますか?」

司会の成瀬代理がそう声をかけると、千﨑部長が手を上げた。

「ああ、山本副部長にひとつお願いがありましてね」

「はい? 金曜日でしたら、今のところスケジュールは空いています。どちらに?」

 



「徳島県の神山町に行ってほしいんですよ。淡路島経由の日帰りで。社用車を使ってください。ちょっと強行軍ですが、頼みます」

 



「日帰りですか、それは……残念です。温泉にでも浸かれるかと思ったのに」

会議室に軽い笑いが起きる。

「観光じゃないですからね。最初に阿波経済研究所でレクチャーを受けてもらって、そのあと、ある施設を見学していただきたい」

「ある施設、ですか?」

「『神山まるごと高専』という学校です」

「……まるごと光線?」

「違います、『光線』じゃなくて『高専』。高等専門学校の略です」

慌てて訂正する千﨑部長の横で、天野次長たちがくすくすと笑っている。

「ちょっと気になってることがあるんですよ。詳しい話はまた後で、改めて説明します」

「了解です。面白そうですね」

 

9月19日、金曜日の朝。


俺は一人で大阪を出発し、社用車を西へ走らせていた。最終目的地は徳島県神山町。


地図で見れば近いように思えるが、実際はなかなかの距離だ。


淡路島を抜け、渦潮で知られる鳴門海峡を渡れば、四国に上陸だ。

──さて、「ある施設」とは何なのか。
その名前も、その存在も、俺はまったく知らなかった。

 

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