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明日のご予定は?

 

仕事の話がひと段落すると、話題は自然とプライベートな方向へと流れていった。
誰かが気を遣うわけでもない、心地よい時間がそこにあった。

そして、甘さ控えめの梅椀(しるこ)がそっと運ばれてくる。
橋本社長が軽く一礼し、コースの終わりを静かに告げた。

外はすっかり夜の帳に包まれ、料亭の軒先では、雨のしずくが優しい音を立てていた。

「さて、今夜は楽しすぎたわね」

 



食後の余韻をまといながら、伊達木社長がぽつりとつぶやいた。

「明日のご予定は?」

問いかけに、天野次長が丁寧に答える。

「レンタカーで佐世保市役所に向かって、医療法人Hの方々とディスカッションの予定です」

「テーマは?」と伊達木社長が続けて尋ねる。

「『CCRC』についてです」と、大杉主任が略称のまま答えた。

「CCRCですって? それ、おもしろそうね」

伊達木社長の瞳が一気に輝きを増し、声もひときわ明るくなった。

「実はね、明日の予定も、全部キャンセルになったの。だから、あなたたちに――ついて行っちゃおうかな、なんて」

「えっ、それはちょっと困ります。先方にもご都合がありますし…」

 


 

天野次長が戸惑いながらも丁寧に断ろうとすると、伊達木社長はおかまいなしにスマートフォンを取り出し、手慣れた様子で画面をタップし始めた。


このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

じゃあ、いっそ…。

 

ふすまが静かに開き、料理が一品ずつ運ばれてくる。
「卓袱料理は、御鰭(おひれ=吸物)で始まり、梅椀(しるこ)で終わるのが一般的なコースです。」
橋本社長の丁寧な説明のもと、まずは澄んだ出汁の香りが立ちのぼる御鰭が供された。

 


湯気の向こうで、伊達木社長がふと天野次長の顔をまじまじと見つめる。

「やっぱり、あなただったわね」

唐突な一言に、天野と大杉が一瞬だけ緊張を走らせる。
「……おそらく、伊達木社長とお会いするのは初めてだと思いますが」
御鰭を静かに飲み干しながら、天野が丁寧に返す。

「いいえ。私、沖縄であなたの講演を聞いたのよ。通訳のヘッドホンなしでね」

「……ああ、OIST(沖縄科学技術大学院大学)の!」

「そう。JCIの渕上会長に誘われて。あの人、沖縄でホテル事業もやってるでしょ。うちも何棟か展開してるから、もう大の仲良し。
たしかテーマは『日本の再生は女性の活躍から』――痛快だったわよね」

 


 

「ご参加いただいて光栄です」と天野が微笑む。

「お世辞抜きで、あの場でいちばん印象に残ったのは、あなたの問題提起だったわ。場の空気を変えてた」

「恐縮です」

「で、受けるの?」

「……何を、ですか?」

「もう、白々しい。知ってるのよ、私。渕上さんから聞いたんだから。あなたをヘッドハンティングしたいって」

「ああ……そのお話は、一応お断りしたつもりですが」

「甘いわね。渕上さん、ぜーんぜん諦めてない」

「困ったなあ……」

「じゃあ、いっそ中を取って――」
伊達木がニヤリと笑う。

「うちに来ない?」

その瞬間、大杉主任が箸を置き、身を乗り出して叫んだ。
「なんでやねん!」とおどけて崩れ落ちる。

一瞬の間の後、三人の笑い声が静かな座敷に弾けた。

 


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マリア園

 

やがて料理が運ばれ始め、テーブルに和やかな空気が流れるなか、伊達木が口を開いた。

「……ところで、天野さんと大杉さんがお泊まりのホテル、“インディゴ長崎グラバーストリート”、もともとは『マリア園』っていう児童養護施設だったの、ご存じ?」

「マリア園……ですか?」と大杉主任が首をかしげた。

「そう。カトリック系の慈善施設よ。戦後の混乱期に“マリア会”という修道会が、恵まれない子どもたちのために建てたの。グラバー園や大浦天主堂のすぐ近くで、赤煉瓦造りの建物、こうもり天井、白い鎧戸にステンドグラス……ロマネスク様式の本当に美しい建物だった」

「確かに、文化財級の建築物を活用するのは簡単じゃありませんね」と天野がうなずいた。

「そうなの。耐震や景観保全、そして何より、あの斜面地に駐車場を確保するのが難題だった。でも……どうしても、あの場所を未来に残したかったの」

 



伊達木は一瞬言葉を切ると、静かに続けた。

「でね――表には出てないけど、いちばん支えてくれたのが……大阪ビジネスコンサルタンツの成瀬さんだったのよ」

その名前に、場の空気が変わった。
天野も大杉も、少し身を乗り出して聞き入る。

「何度も大阪から長崎に来てくれて。“この建物は、残す価値がある”って、まっすぐ言ってくれた。その言葉を信じたから、私は進めたの。どれだけコストがかさんでも、どれだけ行政が難しくても」

「……成瀬さん、らしいですね」と天野次長が大杉に目をやりながら言った。

「ほんとうにあの人は、“ものの価値”を見抜く人よね。建物も、土地も、そして人も」

そう言って、伊達木は、ひずんだ昔ながらのガラス窓越しに、そっと視線を移した。

 


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料亭「橋本」

 

急な雨の影響でやや渋滞したものの、20分ほどで料亭「橋本」に到着した。

 


玄関では、橋本の社長自らが出迎え、3人を一旦待合室へと案内した。



伊達木はハンドバッグを椅子に置き、名刺入れを取り出すと、天野次長の前に立った。

「申し遅れました。私、Forest Trust株式会社で社長をしております、伊達木と申します」

 

 

「大阪ビジネスコンサルタンツの天野です」
天野は名刺を受け取り、ふと視線を落としたその瞬間、心の中で思わず声を上げた。

(Forest Trust……あの、グローバルに不動産とホテル事業を展開している、あの会社の……)

表情には出さず、落ち着いた口調で応じた。

「雑誌の『週刊プラチナ』や『経営Woman』で、社長の記事を拝見したことがあります」

「まぁ、あんなの、ずいぶんカッコよく書かれてるけど……本物はもっとカッコいいのよ」
伊達木はウィンクを交えて冗談を飛ばし、すぐに「冗談よ、冗談」と笑いながら軽く手を振った。

やがて、3人は2階の個室に通された。

そこに橋本の社長が再度現れ、丁寧に頭を下げた。

 

「本日は、卓袱(しっぽく)形式でお食事を楽しんでいただきます」



「え、卓袱料理じゃないの?」と伊達木が反応する。

「はい、実は“卓袱料理”という名称自体、正確には料理名ではないんですよ。たとえば“フランス料理”のように、食事の形式やスタイルを指す言葉です」

「なるほど」

「長崎は新しいもの好きな土地柄。昔から中国料理と日本料理が互いに影響し合い、一つの大皿を皆で取り分ける文化が自然と育まれました。この“卓袱形式”は、朱塗りの円卓を囲み、身分の上下にかかわらず平等に食事を楽しめる合理的な形式として、特に町人文化の中で花開いたのです」

「すごく勉強になります」と大杉主任が素直に感嘆した。

 


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予定、急遽変更。

 

17時25分。
天野次長と大杉主任はロビーで伊達木を待っていた。

「お二人、こっちよ、こっち!」
ホテルの玄関先から、あの女性が手を振って呼びかけている。

そのすぐ背後には、黒塗りのアルファードが音もなく停まっていた。
運転手がドアを開けると、伊達木が軽やかに先に乗り込む。

「さあ、さあ、乗って乗って!」

3人は、黒塗りのアルファードの後部座席に静かに身を沈めた。
スーッ……と音もなくスライドドアが閉まると、車は長崎の街へと滑るように動き出した。

昼間はあんなに晴れていたのに、いつの間にか空は雲に覆われ、小粒の雨が窓ガラスを叩き始めた。

「長崎は今日も雨だった……ね」
伊達木がぽつりと口にし、それから少し声を弾ませた。

「でも、雨の石畳って滑るのよ。特に坂道。タイヤも、人間も、ね」
とケラケラと楽しそうに笑う。



その笑い声は、長崎の湿った空気に不思議とよくなじみ、どこか懐かしさすら感じさせた。

外はまだ明るいが、雨に濡れた石畳は、車窓越しにぼんやりとにじむ。
車内にはしばし静寂が流れ、誰もがそれぞれの思いにふけっていた。

ただの夕食になるのか、それとも――
何かが動き出すきっかけになるのか。
誰にも、まだ分からなかった。

 


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秀吉さん、お久しぶりです。


なつかしい人との再会だ。

 

 

秀吉さんは、40年近く前から、「刀」一本のライダー。

一時期、リトラクタブルのホワイトに乗っていた記憶もある。

 

今の愛車も、もちろん「刀」。

もし自分が、左手の握力に自信があれば間違いなく買っていたバイクだ。

 

秀吉さんも還暦過ぎたのかな。

「今日も暑いですねぇ」と一言だけ残して、K-1へと入って行った。

 

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予定、急遽変更。

 

2人でチェックインの手続きをしていると、コンシェルジュの女性がこちらに近づいてきた。

「天野さまと大杉さまですね?」

「はい。そうですが」

「ただいま、伊達木がまいりますので、少々お待ちください」

と、間もなく姿を現したのは、一人の女性だった。
目鼻立ちの整った、堂々とした物腰。

 



「“大阪ビジネスコンサルタンツ”の方ね?」

「あ、はい。そうですが……」

「今夜の夕食、急に予定がキャンセルになってしまって。それでね、宿泊者名簿を眺めていたら、御社の名前と、女性の名前が目に入って――それで、千﨑さんに連絡を取っちゃったの。料亭橋本、すごく好きなお店でね、また行きたいと思っていたところだったの」

天野次長は、言葉を挟む間もなく圧倒されていた。

「では、お部屋で少しお休みいただいて、17時30分にロビー集合でよろしいかしら?」

「承知しました。大杉さんも、17時30分集合で」

「了解です」

エレベーターに向かいながら、大杉主任がボソリと漏らした。

「……あの人、いったい何者ですかね?」

「うーん、どこかで会ったことがあるような……いや、ビジネス誌か何かで見かけたような」

 


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予定、急遽変更。

 

タクシーに乗り込み、本日の宿泊先『ホテルインディゴ長崎グラバーストリート』へと向かう。
石畳の急な坂道をゴトゴトとのぼる道中、天野次長のスマートフォンが震えた。画面には「千﨑部長」の文字。

天野次長が通話ボタンを押すと、すぐにいつもの張りのある声が返ってきた。

「あ、千﨑です。ちょっと急で申し訳ないんだけど、今夜の夕食、予定をひとつ変更してもらえないかな」

「どういったご用件ですか?」

「要点だけ伝えるとね、お二人だけで食事してもらう予定だったんだけど、急遽、女性を一人加えていただきたいんです」

「女性…? ええ、問題はありませんけど。どんな方なんです?」

「まあ、会ってのお楽しみだけど、インディゴホテルの関係者の方です。個人的に大変お世話になった方でね。たまたま宿泊者リストに“大阪ビジネスコンサルタンツ”の名前を見つけたらしくて、私の携帯に連絡があったんですよ」

「なるほど」

「夕食が“料亭橋本”だと伝えたら、ぜひご一緒したいと。私のほうから料亭にも一名追加の連絡は済ませてます。まあ、ビジネスでなくプライベートなお願いだと思いますので、うまく頼みますよ」

「承知しました。お任せください」

通話を終えると、タクシーはホテルの正面にゆっくりと停車した。
急な坂道と石畳に囲まれたその場所は、ネットで見る以上に趣があり、どこか異国情緒すら感じさせる。

 



車を降りた大杉主任が、思わず息を漏らした。

「ネットで見てましたけど……立地も景色も、雰囲気も最高ですね。これはいいホテルだ」

「ええ、長崎らしいわね」


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長崎の「淳ちゃん事件」とは….

 

「では最後に、長崎の寿司文化にまつわる“事件”を一つご紹介しましょう。地元では“淳ちゃん事件”と呼ばれているんですが……」

「淳ちゃん事件?なんですかそれ」
と大杉主任が食いついた。

「もう半世紀以上前の話だそうです。転勤で長崎に引っ越してきた、東京育ちの小学校低学年の男の子――名前を淳司くんといいます。その子がある日、家族と一緒に寿司屋に行って、大好きな“鉄火巻”を頼んだんです」

「うんうん」
と大杉主任。

「ところが、出てきた鉄火巻を見て、彼は泣き崩れてしまった。“ちがう、ちがう”と」
と亀田主任。

「……え、なにそれ。なんで?」
と首をかしげる大杉主任の目の前に、1枚の写真が差し出された。

 

「……白い鉄火巻?」
と目を丸くする。

「なるほど……ブリ、ハマチ、ヒラス(ヒラマサ)というところですか」
と天野次長は会議室の天井を見ながら、何かを思案している様子。

 



「大杉さん、長崎では、10年くらい前までは、そもそも“マグロを食べる”という習慣自体があまり無かったのよ」
と天野次長が語り出す。

「へぇ、そうなんですか」

「今では、私の実家がある対馬でもマグロの養殖が盛ん。でも、ブランディングして都市部に出荷するのがほとんどで、地元で日常的に食べられてるわけじゃないの」

「マグロを食べない長崎……ちょっと意外ですね」

その時、天野次長がふと表情を引き締めた。

「亀田さん……私たち今、とんでもないことに足を突っ込みかけてる気がしませんか?」

「そうですね。これはもう――日本、いや世界を巻き込む“海洋資源未来図”ですよ」
と、亀田主任も冗談めかしながら、どこか確信めいた口調で応えた。

「次回、長崎を訪問される際は、『ながさきオーシャン・エコノミー』の代表、矢野先生をご紹介しましょう。きっと面白い話が聞けますよ」

「ぜひお願いします」
と天野次長が力強く答えた。

こうして、その日のすべての予定が、穏やかな夕方の空気のなかで締めくくられた。


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長崎の寿司文化

 

「これが、6月12日付の長崎市の評価シートです」
と亀田主任は、新しいページを開いて見せた。

『新産業・起業チャレンジ促進事業』としての位置づけ(2024年6月12日)
地場企業の事業拡大、新分野への展開


スタートアップの育成
地場企業×都市部企業等のマッチングによるオープンイノベーションの推進
新たなビジネスモデルによる起業促進・事業創出
これらを通じて、「新産業の“種”」を発掘・育成することを目的とする。


長崎の魚にまつわる話題でミーティングは思いのほか盛り上がり、ふと時計を見ると、すでに午後4時を回っていた。

「最後に、“長崎と寿司”の関係について少しだけ触れておきましょうか」
と亀田主任が、語り口を少し柔らかくした。

「長崎の寿司文化を総括するにはまだ材料が足りませんが……昔は“寿司といえば、家で家族みんなで寿司桶を囲むもの”だった。それが、今では“家族で回転寿司に出かけて楽しむもの”に変わった――そういう時代の移り変わりがあると思います」

「なるほど、それは分かりやすい変化ですね」
と天野次長が頷く。

 


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