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cb650r-eのブログ

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名刺の主は……。

 

名刺には、こう記されていた。
「株式会社マルシェつきまち 代表取締役社長 湯村純一」

 



「……マルシェつきまち……」
天野は名刺をじっと見つめたまま、動かない。

その様子に気づいた伊達木社長が、さらりと声をかける。

「だって天野さん、長崎に“おさかなマルシェ”を作りたいんでしょ? だから湯村さんをお呼びしたのよ」

すると、湯村社長が豪快に笑った。

「いやいや、私は美味しい料理とワインに釣られて来ただけですよ。ハハハ!」

「はい、ビジネスの話は……料理を食べ終わるまで“禁止”ですからね」
伊達木社長は楽しげにそう言って、二人を特別ルームへと案内した。

入り口には、かつて長崎で愛されたロシア料理店「ペチカ」の看板が掲げられていた。
ロシア語で「печь(ペチ)」――暖炉を意味する、あの店のプレートだ。

「えっ……まさか、あのペチカですか? 伊達木さん」
湯村社長が驚いたように声を上げた。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。

6時集合...。

 

午後5時ちょうど。アルファードはホテル・インディゴ長崎に滑り込むように到着した。



「天野さん、大杉さん。1階ロビーに6時集合でよろしくね」
伊達木社長はそう言い残すと、颯爽とエントランスへ消えていった。

「分かりました。遠慮なく、二人でお世話になります」
天野次長が丁寧に頭を下げる。

それから約一時間後――約束の5分前。
天野次長と大杉主任はロビーに降り、静かに伊達木社長の到着を待っていた。

そのとき、恰幅のいいスーツ姿の男性が玄関から現れた。
 

彼がロビーの中央付近に差しかかったころ、ちょうどタイミングよく伊達木社長も姿を見せる。

「湯村さん、急に呼び出してごめんなさい。でも、今日はきっと楽しんでいただけるはず」
伊達木社長は笑顔でそう言い、天野と大杉を紹介した。

「こちらが、大阪ビジネスコンサルタンツの天野次長と大杉主任です」

紹介を受け、天野と大杉は慌てて名刺を差し出す。
男性の名刺を受け取った瞬間、天野次長の表情がふっとこわばった。

 

 

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手加減というものを知らないやつ…。

 

8月30日、土曜日のK-1。
YAMAHA R1に跨るシータが、K-1の入口でエンジンに火を入れた。
「ピレリのディアブロの実力、見せてもらいましょうか」
還暦間近にしてもなお、挑発的な笑みを浮かべるその姿は若い頃と何も変わらない。

俺も続いてCB650Rを始動させ、シータの背中を追う。
一本目、上り。序盤はなんとか食らいつくが、中盤であっさり突き放され、終盤ではR1の姿すら見えなかった。
二本目の下りに至っては、最初から完全に置いていかれての一人旅。

「相変わらず手加減ってものがないなぁ、シータ」
ヘルメットを脱ぎながら声をかけると、先に休憩所に着いていたシータが、俺のバイクの右後方を眺めていた。


写真の左後ろには上原さんの超カスタムハーレの姿が…


「なに、この乙女チックなFILAバッグは…」
「おっと、またカスタムしちゃいましたけど、何か?」
「カスタムだと? ……だっせぇなぁ、お前ホントに」

そこへ、後から到着したハーレ乗りの上原君(彼も還暦)が笑いながら加わる。
「ハーレ乗りもやりますよ、こういう手作り感のあるカスタム」
「なわけねーだろ!」とシータが突っ込む。

やがて、シータはグローブをはめ直しながら言った。
「今日はここまでだ」
そう言い残し、排気音を残してK-1を下っていった。

時計はもうすぐ正午。じりじりと気温が上がり続けている。
「俺も今日は降りますわ、上原さん。熱中症になりそうで」
そう言って、俺もK-1を後にした。

 

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ロシア料理の名店 Pechka

 

「天野さん、代わって」

電話を受け取ると、柔らかく語りかける。

「千﨑さん? 週末、おふたりをご接待することにしたから――そのお返し、ちゃんと考えといてね」
そう言って電話を切ると、何食わぬ顔でスマホを天野に返した。

「……ありがとうございます」
天野次長が小さく頭を下げる。

その後、伊達木社長は、高速道路に乗るや否や、今度は自分のスマホで電話をかけ始めた。
立て続けに。

「もしもし、久保さん? 今夜、空いてる?」
「ええ、ええ、お願いできそう? お兄さんにもお手伝いお願いできるかしら?」
「じゃあ、ホテルには私の方から連絡しておくから」

次にかけた相手にも、同じように。

「湯村さん、お久しぶりです。今夜、ご予定あります?」
「それじゃあ、6時にインディゴ集合で、楽しみにしておいてくださいね」

ひと通り連絡を終えると、伊達木社長は満足そうに、にっこり笑った。

「……楽しい夜になりそうだわ」

「社長、気になりますって! 何が始まるんですか~?」
大杉主任がじりじりと詰め寄る。

伊達木社長は、少しおどけたように肩をすくめて言った。

 



「わかったわよ、わかった。実はね――昔、長崎に“Pechka”っていう老舗のロシア料理店があったの。2020年に惜しまれつつ閉店しちゃったんだけど」

「Pechka……?」

「ロシア語で“печь”。意味は“暖炉”よ。高級とは少し違うけど、センスが良くて、雰囲気も味も、ほんとに素敵なお店だったの」

「へえ……」

「で、今夜。そのPechkaが――インディゴホテルの中に、一夜限りで“復活”するのよ」

 



「……はあ」
天野次長と大杉主任は、情報量の多さに、まだ理解が追いつかない様子で目を見合わせた。

その表情を見て、伊達木社長は満足げに微笑んだ。
ただ、何かを、確かに動き出させようとしていた。

 

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100年かかってもできないかもしれない。

 

しばらくすると、効きすぎていた車内の冷房がようやく落ち着いてきた。
アルファードの中に、ふわりと穏やかな空気が戻ってくる。

そのタイミングを見計らったように、伊達木社長が、芝居がかった声で切り出した。

「さて――そろそろ、お宅らの“本当の狙い”を教えてもらおうじゃないの」

唐突な問いかけに、大杉主任が肩をすくめる。
が、天野次長は涼しげな声であっさりと答えた。

「はい、伊達木社長のお察しの通りです」

「ふふ、まあそうなるわよね」
伊達木社長は、いたずらっぽく笑いながら、普段のトーンに戻って話を続けた。

「で、長崎市内に飲食ビルでもプロデュースするつもり?」

「いえ、それよりもう少し小規模で、でも地元密着のものを考えています。イメージとしては……金沢の近江町市場みたいな、“おさかなマルシェ”のような感じでしょうか」

 


「ほう。で、それを誰がやるの?」

「うーん……まずは行政に提案してみようかと……」
天野がそう言いかけた瞬間、伊達木社長が語気を強めた。

「それは――絶対やめておいた方がいいわよ。100年かかってもできないかもしれない」

「……たしかに」
天野次長が、少し考え込むように答えた。



ひと息ついたところで、伊達木社長がふっと表情をゆるめる。

「まあ、とりあえず仕事は一区切り。せっかくだし、長崎市内に戻って“美味しいもの”を食べましょうよ」

「そうですね。でも、ずーと美味しいもの続きですけど」

「ヤッホー!」
と、大杉主任が子どものように声を上げた。

その間に、天野次長はスマートフォンを取り出して、本社への報告を始めた。
今日一日の流れと成果、特にCCRCが継続案件として採用されたことは、丁寧に伝える。

通話が終わろうとしたそのとき、伊達木社長がスッと手を伸ばしてきた。

 

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アゴは空を飛ぶ。

 

食事の後、西日本魚市の構内にある施設を見学させてもらった。

見学を終えた後の帰り際、宮沢さんが紙袋を手渡してきた。

「これ、おとなりの平戸市の名産なんです。“あご出汁のもと”です」

「“あご”って、あれですよね。東京で流行ってる“あご出汁ラーメン”の“あご”ですか?」
大杉主任がすぐに反応する。

 



「そうです、そうです」

「……え、大杉さん。“あご”って何の魚か知ってます?」
天野次長がいたずらっぽく尋ねる。

「魚、ですよね……?」

「“とびうお”よ」
と即答する天野に、大杉は目を丸くする。

「とびうお……?」

 



「そうなんです」
と、宮沢さんが補足する。

「長崎には“五島うどん”っていう名物があるんですが、その出汁にも“あご”を使うのが定番なんですよ」

「じゃあ……長崎のラーメンは、“あご出汁”が主流なんですか?」

「いや……長崎市内には、あるにはあると思いますけど、店の名前まではちょっと……。平戸の生月島に1軒あったような……今もやってるのかなぁ」

「えっ、長崎の人って、“あご出汁ラーメン”あまり食べないんですか?」

「どうでしょうねぇ……少なくとも、長崎市内ではそんなにメジャーじゃないかもしれませんねぇ」
宮沢さんが少し考えるように言う。

「……長崎の人の、“さかな”に対する向き合い方、ますます “わ・か・ら・ん”……」
大杉主任は困惑した顔で、テーブルの上を見つめた。

そんなやりとりも笑いに変わり、食後の満足とともに、店をあとにする。

「宮沢さん、本当にお世話になりました」
天野次長が丁寧に頭を下げる。

「いえいえ、こちらこそ。千﨑部長によろしくお伝えくださいね」

手を振って見送る宮沢さんに背を向けて、3人はアルファードへと乗り込んだ。
スライドドアが音もなく閉まり、午後の海風に背中を押されながら、車は静かに動き出した。

 

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季節外れの…。

 

「さて、私から皆さんに、ちょっとしたプレゼントをご用意しました」

食後の余韻に包まれていたテーブルに、宮沢さんの声がふわりと響いた。

「えっ、なんですか?」
天野次長が身を乗り出すように聞く。

「ちょっと季節外れではあるんですが……。こちらの食堂にお願いして、“サバしゃぶ”をご用意しました」

「ラッキー!」
大杉主任が思わず声を上げて、小さく手を叩く。

ほどなくして、カセットコンロと、見事なサバの刺身が運ばれてきた。透明感のある切り身が、皿の上で静かに輝いている。



「真夏にサバしゃぶなんて、私も食べないですけど……」
と伊達木社長が言いながら、一切れをそっと出汁にくぐらせて口に運ぶ。
「ちなみに、つけダレは、長崎の伝統の香酸柑橘「ゆうこう」を使った私のオリジナルです」と宮沢さんがいった。

 



しばらく黙って、噛みしめるように味わってから、ふとつぶやく。

「季節じゃなくても……この旨さ。冬の旬だったらもっと脂がのって……。もっとうまいってこと?」

その言葉に、他の3人も静かに箸を動かす。
出汁の香りがほんのり立ち上り、サバのうまみが広がっていく。

やがて、伊達木社長がぽつりと言った。

「不思議なのよね。どうして長崎の人って、“旬アジ”や“旬サバ”をもっと食べたり、アピールしたりしないのかしら」

 



「ほんとに。不思議ですねぇ」
と大杉主任が相槌を打つ。

そのとき、伊達木社長が宮沢さんの方に向き直った。

「宮沢さん。うちの会社、最近“新領域事業”として、レストラン事業とか、出張シェフのマッチングプラットフォーム――『Premiumシェフ』っていうサービスを始めてるの。今度、改めてご連絡させていただくわ」

「またビジネスしてる……」
と、大杉主任は心の中で小さくつぶやいた。

 

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ブランディングのきっかけ。

 

「実は松浦市では、1997年から『旬サバ』、そして続いて『旬アジ』というブランド作りに本格的に取り組み始めたんですよ」
宮沢さんが続ける。
「きっかけは、当時のサバの豊漁による価格暴落でした。良い魚を適正な価格で流通させるために、“ただ高く売るための名前づけ”からスタートしたんです。でも次第に、漁獲海域・時期・魚種・サイズ・漁法という5つの条件を明確に設定し、商標登録や広報活動によって、しっかりとブランドとして根づかせてきました」

「すごいですね……」と大杉主任が感心する。

 



「地元鉄道の中吊り広告や、シールやステッカー、クリップなどの販促グッズも使って、地域内外への認知拡大を図ってきました」
と宮沢さんが続ける。

「さらに、天然魚の漁獲量が年々減るなか、松浦では養殖マサバ『長崎ハーブ鯖』の開発にも着手したんです。餌の工夫、出荷マニュアルの統一、そして鮮度保持のための迅速な活〆と脱血処理も徹底して。今では航空便での全国出荷も実現しています」

「なるほど……」
伊達木社長も、思わず真剣な表情で聞き入っている。

「それだけじゃなくて、松浦市では水産業の価値を観光にも結びつけてるんですよ。修学旅行の学生向けに、漁業や農業の体験学習、家庭での宿泊、魚のさばき方や調理のレッスンなどを提供して、地域への理解を深めてもらってます」

「すごいな……」
と大杉主任が感嘆の声を漏らした。

「つまり、ブランドづくりにとどまらず、生産現場と消費者を直接つなぐ仕組み、そして体験の場まで用意して、地域振興と経済循環の両立を目指しているんです。2019年に『アジフライの聖地』を宣言したのも、そうした一連の流れの中にあります」

 



話を聞き終えた天野次長は、ゆっくりと湯飲みに口をつけたあと、しみじみと呟いた。

「なるほど……水産物が、地域振興に一役買うか……」

その言葉には、どこか希望のような響きがあった。

 

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ブランディング…。

 

レストラン「旬(とき)」のテーブルには、食べ終えたばかりの旬あじ定食の器が並んでいた。
どの皿もほとんど空っぽになっていて、満足感とともに少しの名残惜しさが漂っている。

そんな中、話題は自然と“アジ”そのものへと移っていった。

「実は、大分県では『関さば』『関あじ』という名称で、2006年に商標登録してるんですよ」
と、宮沢さんが言う。

「知ってます。大阪でもその名前は有名ですよ」
天野次長がうなずく。

「現在の卸売市場では、東京が全体の約5割。次いで福岡が2割、大分県内の消費も2割程度ですかね」
と、宮沢さんがさらりと続けた。

「ただ、『関さば』や『関あじ』にも課題はあります。まずは、魚の絶対数の減少。これはもう、業界全体の大きな問題です。地球温暖化の影響で海水温が変化し、魚の動きや“旬”の時期までもがズレてきているんですよ」

大杉主任が、なるほどと頷きながら、スマホで検索した日本各地のおいしい“アジ”について口を開いた。

「アジって、競合も多いですよね。ノーブランドを含めれば、愛媛の宇和島の大アジ、島根の『どんちっちアジ』、佐伯のアジに、淡路島のアジ……。どれもそれぞれ特徴がありますし」

「その通りです」
と宮沢さんが頷く。

「正直なところ、大阪では『関あじ』『関さば』の知名度はあっても、『旬(とき)アジ』『旬(とき)サバ』を知っている方は、あまりいらっしゃらないかもしれませんね」
天野次長がそう言うと、宮沢さんは軽く笑った。

 

 

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どちらにしようかな…。

 

「さあ、どちらにしましょうか」
宮沢さんが笑顔で尋ねる。

 



「大杉さん、決めてよ」
天野次長がパスを出す。

「ネーミングだけで選ぶなら『魚市食堂』一択なんですけど……ここはあえて逆張りで、『大漁レストラン旬(とき)』にしましょう!どうです、宮沢さん!」

「大丈夫ですよ、どちらも間違いなくおいしいですから」

軽く肩をすくめた宮沢さんに、大杉主任がズコッとずっこける仕草をしてみせる。
そのまま4人は、「レストラン旬(とき)」へと入っていった。

席につくと、大杉さんがメニューもよく見ずに注文する。

「旬(とき)アジフライ定食、4つください!」

運ばれてきた定食には、ふわふわのアジフライが美しく盛られている。箸をつけた瞬間、伊達木社長が思わず声をあげた。

 



「おいしい……!」

舌の肥えた彼女の口から出たその一言は、まぎれもない本音だった。

「宮沢さん、“旬”の時期って、いつ頃なんですか?」

「『旬あじ』は4月から8月、『旬さば』は10月から2月ですね」

「なるほど。そりゃあ、うまいはずだわ……。このアジフライ、絶品。ふわふわでサクサク、ほんの少しだけレア感を残した感じが絶妙だわ」

伊達木社長の言葉に、他のメンバーもうなずいている。

「ネットか何かで、松浦市が“アジフライの聖地”って呼ばれてるって記事を見たことがありますよ」
と、大杉主任がふと思い出したように言う。

「そうなんですよ」
宮沢さんが嬉しそうに頷く。

「2019年に、松浦市が“アジフライの聖地”を公式に宣言したんです。それが話題になって、今では観光にも地域振興にも、しっかりとつながっています」

 



昼のひとときは、旨いものと、ちょっとした地元の誇りとともに、穏やかに流れていった。
 

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