長崎ちゃんぽん!
「では、お昼を食べに行きましょう。田山社長からは、駅前あたりで“ちゃんぽん”でも、と伺っていますが……」
「それでお願いします」
天野次長が頷いた。
「四海楼か江山楼かなぁ……」
大杉主任が楽しそうにつぶやく。
駅の東口を抜け、高架橋を登ったところで、天野次長はふと立ち止まり、振り返って長崎駅を見た。

「“100年に一度の変革期”…かぁ。すごいなぁ、長崎」
駅前の高架橋を渡ってすぐの場所に、目的の店があった。

「『中華大八』……?」
思わず目を丸くする大杉主任。
「ここ、うちの事務所からも近いんで、よく来るんですよ」
上田さんが穏やかに笑う。
「ちゃんぽんで、いいですか?」
「はい、お願いします」
料理ができるまでの間、天野次長は上田さんと話し込んでいた。話題は、自然と弟のことに及んだ。
「正直に言いますとね、うち――ながさき漁業協同センターと対馬の『厳原トレーディング』さんとは、直接の取引や関係はあまりないんですよ。ただ、先代の田山社長とは個人的なお付き合いがありまして」
「私の父ですね」
「ええ。実は私、以前は長崎県庁の水産部に長く勤めていまして。対馬にも異動で2度赴任しました。その頃、先代の田山さんには、プライベートでもずいぶんお世話になりました」
「夜に飲み屋に呼び出されたりも、しょっちゅうで……」
と苦笑しながら続ける上田さん。
「それは、父がご迷惑をおかけしました」
天野次長が頭を下げる。
「いえいえ、とんでもないです」
と手を振る上田さん。
「でも……対馬に“日本のアナゴのプライスリーダー”がいるなんて、知ってる人はほとんどいないでしょうね」
そう語る目には、少し誇らしげな光があった。
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